一人前の証③
アイヴィ曰くのクウん所の坊、セシル・クウはダリアより少し年上の青年だ。
マロン色の髪はクセっ毛。鳶色の瞳は垂れ目なのに鋭い。ダリア曰くはいじめっ子。
「うちのダリィを頼むよ、坊」
頭を押さえつけて言う台詞じゃないです、笑顔なのに目が怖いです、いいぞ、お師様。もっとやれ。
足元の荷物を勝手に幌馬車につむ。餞別を入れてもトランク一つで済むなんて、女の子として間違ってるかもなんて思うけど、抱えるレシピが大きくてかさばるから、前向きに考えることにする。
ダリアは髪を撫で、いつものシャツとハーフパンツの上からトランクに掛けていたフード付きマントをはおり、アイヴィと、遊ばれているセシルに向き直った。二人の後ろに住み慣れた家が見えて、込み上げてくるものがあったが、かぶりを振って追い払う。
一人前になっても修行は続く。
そう、アイヴィに言われた。最もだと頷いたのは、昨日の夕食後の団らん。それすら少し懐かしい。
感傷は、今日と言う日に似合わない。ダリアは一つ頷いて、息を吸う。二人に声を掛けるために。
けれど、言葉を発しようとした瞬間、先に声を掛けられた。
「あー、ったく。いつまで経っても埒があかねぇ。ダリちび行くぞ!」
怒気をはらんだ、けれど楽しさを滲ませた声だった。ちょっと怒鳴るみたいな、いつもの声。
ダリアは一瞬、肩を震わせて、視線をさまよわせる。
これだから、ダリアはセシルがは苦手だった。昔、まだセシルの爺様が現役で、ダリアもセシルも小さかった頃から、変わらない。悪気はないと知っていても、傷つけないってわかっても、慣れない。
本当は優しいって知ってるし。
もうちょっと、どうにかならないかな。見た目と相まって、年々凄みが増している。
「お師様、話はもういいんですか? 後セシル君、私もう、ちびじゃないもん」
「るせぇ、俺よりちびをちびって言って何が悪い? 悔しけりゃ、俺を抜いてみろよ」
「あのねダリィ、坊が突っかかってきてただけで、身のある話なんかしちゃいないさ。って、言ってる傍からいじめるんじゃないよ」
「お師様ぁ。私、今の時点でもうセシル君と上手くやって行けるか不安です。ギルベルまで、一週間掛かるんですよね?」
ダリアの情けない声を聞いてアイヴィは苦笑する。
「うん。けど、今回は隊組んでるし、いざとなりゃ、他の人んとこに逃げこみな」
「……うぅ……」
ダリアは思わず、どうしようと頭を抱えた。
「他の人って、私、初対面の人苦手なのに」
「なんか、俺散々な言われようじゃね? ったく、俺は基本御者台でお前は荷台だろ。宿の部屋も当然別だし。以前にお前なんかにかまってる暇ねぇよ」
「うん、なんかごめん」
ダリアはちょっと言いすぎたかもと思った。いつもの調子で、すぐに忘れると思うけど。
乗合馬車は揺れるけど、座席があるだけマシ。
少し走っての感想。
乗合馬車にも数える程しか乗ったことないけど。これよりもマシなことぐらい、思い出さなくてもわかる。
スピードも、速い。ちょっとどうにかならないかなぁ。
言っても無理だろうし、言うの怖いし、少しでも乗り心地のいい場所を捜して這う。
「これが、一週間……多分、すぐ慣れるよね」
希望を口に出して見たけど、多分無理だろうことはダリア自身、わかっていた。
短くても毎日投稿するのと、ある程度の長さで隔日と。
読んで下さってる方には、どちらが好まれるのでしょう?
取り合えず今は、言わずもがな短く毎日、です。