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黄昏貴石亭の佳人⑦

 「レオニスも、私と同じ食べ物が食べれるなら、作る手間省けるじゃない」


 開き直って、晩御飯の用意をすることにする。今が六時前だけど、先に食べて行く方がよさそうだ。


 「レオニスって、今更だけど言いにくいよね? レーちゃん、レー君、レッちゃんとかいいかも。それとも単純にレオとか?」


 「ニー」


 呼び名を羅列するダリアに、レオニスが反応したのは、レオだった。


 「レオ」


 「ニー」


 全ての返事が、ニーの鳴き声だけで、済まされている気がする。しかし、これが肯定でもあるのだろう。ダリアを呼ぶ時もニーと鳴いていた気がするが、万能なのだ。多分。


 「じゃ、レオって呼ぶね。さて、レオ。晩御飯何食べたい?」


 階段を上がるダリアに続き、ポテポテと歩きながら器用に首を傾げている。やっぱり、普通の猫じゃない。絶対に。


 「牛乳と卵は使っちゃったから、それ以外で何か……」


 キッチンに立って、フムと腕を組む。パンにするか、パスタにするか。それとも、豆類か。


 「ニー」


 ポムポムと足を叩かれて、レオニスに視線を落とすと、前足で指された先にはパスタの瓶。


 「パスタがいいの? レオ」


 「ニー」


 やはり、肯定も指定もニーの様だ。便利だけど不便そう。私が察しなきゃいけないんだね。


 「ドライトマトのペペロンチーノか、ジェノヴェーゼソースのパスタかな。ぺペロンはスパゲッティで、ジェノヴェーゼはペンネ、かな」


 両方の瓶をとり、レオニスの目線の高さに持っていく。


 「どっち?」


 「ニー」


 指されたのは、ペンネ。……考えると、料理の名前わかったのかな?


 「うん、じゃあ、ペンネ茹でるのにお湯沸かさなきゃね」


 大き目の鍋に塩を一つまみ。同時進行でソースの準備をする。乳鉢にニンニク一欠けらと松の実を一握り入れて、ゴリゴリとすり潰していく。


 「良く潰さなきゃね」


 すり潰していると、肩に重みを感じる。肩に乗るのが好きなのだろうか? そこで、ピクピクと、レオニスの鼻が動いている。


 「オリーブオイルを入れて、バジルは小さめに千切ってっと。お湯がそろそろかな」


 バジルを入れるのを途中で中断し、鍋のふたを開ける。沸々と煮立ったお湯に、ペンネを一人分が60~80g。少し多めに100g入れる。


 「残ったら、明日の朝ごはんにすれば良いよね。柔らかめに10分湯がこう」


 砂時計をひっくり返して、ソース作りを再開する。バジルを全て入れ、荒塩を一つまみ。そして、また潰していく。


 「本当なら、チーズ二種類使うけど一種類しかないから、仕方ないよね」


 少し潰して、チーズを加え、またゴリゴリとすり潰しながら、オリーブオイルを少しずつ加え、濃い緑色のペースト状になるまで、続ける。


 「ジャガイモとか豆類とか、パスタと一緒に和えても美味しいんだけど、今日はこれだけ」


 良い感じの色になったので、ボールを用意して、砂時計に目を向ける。そろそろ、ペンネも茹りそうだ。


 「お茶、冷めちゃってるけど残ったので良いや。入れ直すのも勿体無いもん」


 グラスに、先ほど入れたポットの紅茶を注ぎ、先にテーブルに運んでおく。すると、砂時計の中に入っている鈴が鳴った。ダリアの肩から降り、キッチンに残ったレオニスの鳴き声も聞こえる。


 火を止め、ザルにパスタを揚げる。ダリアは、ペンネを一つ取って、自らの口の中に入れる。うん、塩味加減はちょうど良い。茹で加減は少し柔らかいが、許容範囲内。


 「後は和えるだけ」


 ボールに、ペンネを入れ、ペーストは量を見ながら少しずつ入れ、トングを使い絡めて行く。


 「私は、ソースが少し多い方が好きだけど、後から掛けれるから、少し、少なめ」


 ダリアの好みの量より少なく、けれど通常の量くらいでペーストを入れるのを止め、皿に盛り付ける。


 「レオのは、少し少なめ。欲しかったら、教えてね」


 自身用には平皿を、レオニス用には深皿を二枚用意して、一つにはペンネを、もう一つには紅茶を注ぐ。


 「じゃ、食べよっか」


 テーブルの横で、既に行儀良く座ったレオニスの前に皿を二つ。テーブルの上に一つ置く。


 「あっ、フォーク!」


 ダリアは、出すのを忘れていたフォークを取りに行く。食べて良いと言ったが、レオニスはダリアを待っているようだ。


 「ごめんね、レオ。食べていいよ」


 フォークを持って戻ってきて、レオニスに声をかけると、やはり、ニーと鳴いて食べ始める。ジェノヴェーゼソースの中身、ニンニクも、バジルも塩も全く問題無さそうだ。


 「美味しい?」


 「ニー」


 聞くと、視線を合わせて鳴く。味は大丈夫なようだ。やっぱり、一人より、ご飯を食べるのだけでも、楽しい。


 それが、話せなくても、人の言葉を理解してくれるのだから、なおさらだ。



 二人とも食べ終わり、洗物も済ませて、保存もして、出掛ける準備が整ったのは、19時過ぎのことだった。


 「レオ、今回は相手がわからないからお留守番ね」


 「二-……」


 どこか寂しげに、少し不安そうに鳴くレオニス。けれど、今回は連れて行くわけにいかない。相手がどんな人かわからないし、どんな店かもわからない。


 「うぅ、ここは心を鬼にしなきゃ」


 ウルウルと見上げてくるレオニスを振り切って、ゴメンなさいと謝って、ダリアは工房を出て、扉を閉めた。


 窓から、恨めしそうに見てくるレオニスが、ちょっとカワイイ。けど、和んでもいられない。


 「北がこっちだから、お店は……こっち」


 貰った地図を見ながら、ダリアは薄暗い路地を進んでいく。段々と道は狭まって、明かりも少なくなっていく。


 「この道で、合ってるんだよね?」


 手持ちのランプで地図を照らし、間違えてはいないはずだが、ダリアに不安が押し寄せる。


 すれ違うのが、いっぱいいっぱいの道は、けれど、ダリア以外に人影はない。


 何回も、地図を確認しながら、自身を鼓舞しながら、ダリアは道を進む。間違えていたら、出直せば良い。そう、言い聞かせて。


 道が開けて、フシギな明かりが軒先に見えたのは、引き返そうかと思い始めたときだった。

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