黄昏貴石亭の佳人⑤
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「要石、決まったみたいだね」
お茶を置いて、声を掛けても、反応の薄かったアーサーに、再度声をかける。何故か、レオニスがまた肩によじ登ってきたが気にしない。
「この、ラリマーと言ったか? これだ。と、思う」
掌の上で転がしながら、何となくだけど、気になると告げるアーサーに、ダリアは笑みを零した。
「第六感は、結構信じられるんでしょ? 魔力ある人は精度違うみたいだけど、感いいもんね」
お茶に気をつけながら、少し身を乗り出して、掌を覗き込む。
「じゃ、宝石は一応両方でピアス……とりあえず、片方ずつ創って、要石はラリマーで行って見よっか」
冷めないうちにお茶飲んじゃってね。と、付け加えながら、カリカリと紙に付け足す。要石は、ラリマー。
「それで頼む。が、ピアスのデザインは左右で変えて欲しい」
進められたカップを手に持ちはしたが、飲まずにアーサーは言う。アールグレイは苦手だったのだろうか?
「うん。じゃ、デザインちゃんと考えないと、だね。どんなのが良いかな」
カチャと、僅かな音を立て、アーサーはカップを戻し、空いた手で髪をかき上げた。
「見えてもらえばわかるが、右のピアスが十字と薔薇と蔦のデザインだ。これは、同じにして欲しい」
アーサーが言うように、耳たぶの部分に十字が、その十字に少し絡まり、上に伸びる繊細な蔦、咲く一輪の薔薇。かなり、凝ったデザインだ。
「かなり細かいけど、頑張ってみる。ぇと、十字の部分に石入れる? それとも、薔薇の部分?」
入れるのは、容易ない。けど、こんな凝ったデザイン創れるかな? かなり、頑張らないといけないかも。
「では、十字の部分に。左は――」
こちらは、右耳に比べると丸い一粒の球体で、シンプルだった。
「これは、同じでもいいのだが……出来れば、創ってもらいたい形がある」
「どっ、どんなのかな?」
右が難しいから、出来れば簡単なのがいいな。
「ダリアは、自身のマークや、印等は無いのか?」
マーク?
「そう言えば、考えてない。……どうしよう、結構重要だよね」
アイヴィは、変わった意匠のドアベルをマークにしていた。苗字からとって、結構考えたのよ。なんて、言っていた。
「うぅ、やっぱり、無いとダメって言うか、締まらないよね? 私だと、何だろう? 名前からダリアの花かな、それとも星? 星の形って……」
「落ち着け、ダリア」
「って、アーサー君、一大事なんだよ!」
「否、そこまででは、ない」
慌てるダリアと、冷静なアーサー。
「因みに、アルビレオと言う星は大きいオレンジと少し小さい青からなる、二重星だ」
ダリアがチマチマと記入していた紙の端に、アーサーが走り描きをする。
「真ん中が菱形に見え、その尖った部分から、十字に光が走る。青い星は……こう、寄り添う感じ」
見る位置に寄って変わると言い置いて、しかし今はデザイン性を重視して、オレンジの左斜め上に青を描く。
「菱形のデザインの、尖ってる部分をを極端に細くして、左上の青い星の下と右をクロスさせて、固定したら……うん、立体でも創れそう」
かなり焦って、テンパったダリアだが、アーサーの提案を聞き、描いてくれたデザインを見て、自身を落ち着かせ、考える。悪くないかもしれない。
「それで、マークや印は?」
ようやく、カップを口元に運び、アーサーは尋ねる。
「今、描いてくれたマークから、考えてみようかなって、思えてきた」
「では、左はダリアのマークにして貰おう。そうすれば、誰が作ったか、わかるだろう」
確かに、自身の創った物を判るようにするのは、宣伝にはなるかもしれない。けれど、本来魔具師のマークは、目立たない場所に刻むものだ。
「……いいの?」
それを、デザインにしてしまって。そんな思いも、口外にこめて、アーサーを見つめるが、寛容に頷ずき、笑う。
「構わない。言い出したのも、僕からだ」
「じゃ、お言葉に甘えます。――ありがとう、アーサー君」
ちょっと、照れくさい。どうしよう、ほっぺた赤いかも知れない。
「では、後は金属か?」
アーサーも恥ずかしいのか、少し頬に赤みを感じ、咳払いと共に、違う話題を提供してきた。
「そっ、そう。金属」
これ幸いと、ダリアも話に乗る。レオニスからため息が聞こえた気がするけど、気にしない。
「流石に、ミスリルとか、オリハルコンとか、ダマスカス鋼とかは、難しいけど、どんなのがいい」
伝説級と呼ばれる金属は、流石に無理だと、冗談で笑いながら言う。言わないってわかってるけど。
「使いやすいのは?」
「ぇと、真鍮とか青銅、赤銅に金とか銀」
指折り数えて、一般的に使われる金属を上げていく。ダリアのお勧めとしては、銀だ。
「個人的には、銀がお勧めなんだけど……」
「理由は?」
一応、お勧めとして提案して見ると、案の定、理由を尋ねられたので、嬉々として語って行く。
「私の得意なのが、銀に色々混ぜることなの。元々、純銀は柔らかくて傷付きやすいから、他の合金と併せるんだけど――」
ダリアは、銀に色を付ける事を得意としている。そして、能力を付加することも。
「銀を他の色にするのも、能力を付加するのも、アクセサリーには、もってこいだと思うんだけど」
むしろ、それ以外の使い道が難しいと、アイヴィに言われた特技だ。
「薬草とね、鉱石の粉末とか、そう言うのを調合するの」
「能力の付加、か」
流石に増幅効果は付けられないが、それ以外。バットステータスの無効や半減から暗闇での発光等、色々と効果は在る。
「うん。他の金属はちょっと難しいんだけど、銀は私の使う薬草とかと相性いいから」
出来れば、得意な金属を使いたい。
ダリアは、考えるアーサーの返答を待った。銀が良いな、銀って言ってくれないかな? なんて考えながら。