黄昏貴石亭の佳人④
カリカリと、誕生日、星座を紙に書いていく。これ以上は、わからないらしい。男性なら当然かな? と、思いつつ、星座についての資料を取り出す。
「僕の誕生日は、二月四日。星座は宝瓶宮だったと思う。他は、わからないが、行けるか?」
首をかしげながら、言われた。このしぐさも、作っていた一つだと思っていたが、どうやらコレは元々の癖のようだ。一人称といい、仕草と言い、話し方とのギャップがある。
「これが、ギャップ萌ってのかな」
「……ダリア、真面目に頼む」
ついうっかり、言葉になってしまった。考えるだけに止めとかないとダメだな。
顔だけはキリっと。しかし、考えていることは、そう簡単に変えられない。
「ちゃ、ちゃんと考えてるよ、大丈夫だよ! ――ぇと、ぇと、宝瓶宮の守護石の中から、ラピスラズリとオパールと相性が良いのは、っと」
20cm弱はあるだろう、辞書の中から、適切に、素早く、宝石を羅列していく。
「セレスタイトにムーンストーン。ヘマタイト、ラリマー。星座はコレだけ。守護は天王星で、こっちはトルコ石だよ」
コレクションケースの中から、読み上げた欠片を取り出し、こちらも皿の上に置いて行く。
「宝瓶宮は四属性で、風に分類され、星座と魔力の性質は似通る。僕も、性質は風が強い」
ポツリと、アーサーが零したのは、魔力の性質についてだった。
魔法は、火・水・風・土の基本四属性、聖闇の混濁二属性、無属性の計七属性に分類される。そして、魔力には性質があり、性質は属性に順ずる。
だからと言って、性質が属性に順ずると言っても、全ての属性の魔法を扱うことは可能だ。ただし、属性により得手不得手がある。
「性質は風かぁ。この中からは、好みで選んじゃっていいんだけど……どうする?」
後は、アーサーの好みの問題だ。五種類の要石としての性能は変わらない。
「少し、待っていてくれ」
悩むアーサーを尻目に、ダリアは説明をしたことによる、喉の渇きを覚えた。思っている以上に、緊張していたのかもしれない。
「アーサー君、ちょっとお茶入れてくるね」
生返事を返えされても気にせず、返事は貰えたんだし。と、一度二階に上がろうとして――
「そ言えば――レオニス、忘れててごめんね」
帰ってきてから、アーサーの魔具のことに手一杯で、レオニスをすっかり忘れていた。
そのレオニスは、ダリアに声をかけられるまで、朝からの定位置に丸まってウトウトしていたのか、自身に向けられた声に反応して、ガバっと起き上がり、キョロキョロと周りを見回す。
「……声かけたのミスったかな? レオニス、二階に上がるけど来る?」
一応、言葉が通じるかわからないけれど、起こしてしまったのだから呼び掛ける。すると、トコトコと近付いて来て、ピョンと飛び上がったかと思うと、肩にしがみ付く。不思議と痛みはない。
「歩くの疲れっちゃったのかな? 落ちないように、気をつけてね」
肩にレオニスを乗せたまま、ダリアはお茶を入れに上がる。
アーサーは、一つ一つ欠片を持ち上げ、光に当てたり、僅かに魔力を通してみたりと、確認していく。
「増幅にしろ、要石にしろ、澄んだ宝石が、無い」
一番、光を透かせられるのは、ムーンストーンだろう。それでも、僅かに濁った、色合いだ。
「確か、コレはラリマーと言ったか?」
なぜか無性に気になって、欠片を何となしに角度を変えて、眺める。
水色と、白色。混ざり合って、少し乳白色の色味が強い部分と、青色が強い部分があり、色合いは複雑に見えた。
「好みで良いと言うことは、直感でも良いだろう」
気になると言うことは、理由はわからないが、何かあるのだろう。魔法使いの直感は、予知に近いものが在る。最も、ランクの高い魔法使いに限る。と言う言葉がつくが。
「結局、僕は、赤止まりだ」
ダリアには、嗚呼言ったが、堪える。
「気を抜けば、バレる」
アーサーは、ダリアが降りてくる前にと、気合を入れなおした。
水をケトルに入れて、火に掛ける。温度はブクブクと沸騰してあわ立つくらい。ティーポットとカップをトレーの上にのせて、茶葉を選ぶ。
「気にしてないっぽかったけど、ランク、気にしてるんじゃないかな」
調べたのはダリアで、必要なことで、どうしようも出来ないことだけど、少し落ち込む。
「ハーブティは……クセがあるから好き嫌い分かれるよね、定番のアールグレイにしよ。ミルクは無いからストレートになっちゃうけど良いよね? シュガーポットと、スプーン」
カポっと、紅茶缶の蓋を開けつつ、ため息を一つ。初めてで上手くいかない。依頼人を嫌な気分にさせるなんて。
「失敗、だよね」
もっと、上手いやり方があったんじゃないか? 言葉を選び間違えたのではないか? 考え出すときりが無い。
「あっ、危ない」
お湯が、噴きかけたので慌てて止める。火を使っている時に、考え事は危ない。
「お湯をポットとカップに入れて、っと」
両方にお湯を注いで、暖める。少ししたら、ポットのお湯だけ一度捨て、茶葉を入れる。ティースプーン一杯約3g。それを、二人分だから二杯。多めに四人分入れるために更に二杯。そして、気持ちを一杯の計五杯。
「覗き込むと、危ないからね」
僅かに身を乗り出すレオニスを言葉で制し、ケトルからポットに勢い良く、少し落差をつけてお湯を注ぎ、蓋を閉め、保温のためにカバーをかぶせる。
「……良く考えたら、カップにお湯入れたまま、階段下りれないんじゃ」
こぼれると危ない。ゆっくり降りたら大丈夫かな? 茶漉しは。ポットに直接付いてるから、持っていかなくて良い。
「捨てて行こ。直ぐにお茶入れるもん――レオニス、出来れば降りてくれるかな?」
先ほども、ダリアの言葉を理解していた様に感じたので、今回も声を掛けて見る。すると、素直に肩から降りてくれた。
「やっぱり、ミックスの可能性高い?」
考えながら、トレーを持ち上げる。結構重い、気を付けないと。
「よし!」
気を付けて、階段を一段一段下りていく。レオニスも、少し降りては心配なのか、振り返ってダリアを確認するを繰り返している。むしろ、その仕草に危ない。
「アーサー君。良いのあった? とりあえず、お茶入れるね」
作業机の上にトレーを置き、カバーを外してお茶をカップに注ぐ。綺麗な琥珀色と、柑橘系の香りが広がる。
「ここに置くから気をつけて、零したら大変だから」
アーサーの分をまず先に、自身の分は入れ終わっても作業机の上に置いたまま、ポットに再びカバーをかけて、カップをセットのソーサーを、テーブルの上ではなく、座った膝の上に置く。
行儀が悪いのは自覚済みだ。
お茶で喉を潤す。一息ついて、見やったアーサーは、一つの欠片を、持っていた。