黄昏貴石亭の佳人③
「宝石は、増幅石と要石の二種類を使うの。それを、調べるのに少し時間掛かるんだけど、調べたことは――」
「ない」
「そっか。じゃ、説明からするね。この、ケースの中に入ってるのは、宝石の欠片なんだけど、小さいだけで成分とかは変わらないから、調べるのはコレで十分なの」
ケースから、一粒取り出しながら、ダリアは説明をする。目に付いたのは、アーサーの瞳と同じ、青緑色のエメラルド。
「このエメラルドは、解毒の効果が僅かにあるって言われてる。宝石は魔力の増幅以外にも、効果がある物も結構多いよ」
「ふぅん、そこは、運と言うことか。自身の魔力増幅石は、一種類だけなのか?」
「うぅん、多分何種類かから、選ぶことになると思う。一種類って人はよっぽど稀らしいもん」
「そうか」
ダリアは、そのまま持っていたエメラルドを、アーサーの掌の上に乗せる。
「で、この欠片たちは、予め加工が施されてて、増幅効果のある物は、自然に放出している魔力で光るの」
「では、このエメラルドは違うということだな」
「みたい。ってことで、地道に一つずつ乗せて行こ」
「そうだな」
アーサーはケースを手元に寄せ、利き手で欠片を掴んでは直し、ダリアは、逆手の掌に欠片を乗せ、二人で調べていく。
「光ったのは、この皿の上に除いておいてね。あと、強く光ったのがあったら、それも覚えておいて」
「わかった」
黙々と、会話も無く、作業は続く。
なんとなく、口を開いたのはアーサーだ。
「ダリア。この中に、反応する宝石が皆無と言う場合はあるのか?」
かなりの数があるとは言え、全ての宝石があるわけではないだろう。
「うーん、あるらしいんだけど、一応、増幅効果のある宝石って成分が決まっててね、ここに無いのはかなりレアな部類なの」
「その場合は、どうするんだ?」
ダリアは、少し複雑な顔をして、首を振った。
「屑宝石のコレクションキットって、三種類あるの。ここに有るのは、一と二」
宝石は約七十種類ほどあるとされており、その中でもよく知られるのは二十種類程度である。同じ宝石でも、色の違いで名前が変わり、反応するものとしないものがあったりする。
「この二つで五十種類。三つめのキットはね、それだけで、普通の魔具に使う宝石百個分くらいするって」
「……そちらに入ると、大変だな」
「うん。私も一度だけ、お師様が受けてるの見たことあるけど、依頼人さんが宝石持参の上、傭兵とか色々引き連れてきてビックリしたもん。レア宝石を増幅に使う魔法使いって、登録されてるらしいよ」
「登録――魔法院にと言うことか」
「多分そう。っと、これで、最後だね」
最後の欠片は、夕焼け色のアンバーだった。
「反応してるね、アンバーの反応って、お日様みたい。これも、除いてっと。いくつかな?」
皿の上にアンバーを置いて、除いた欠片は全部で五つ。
「ラピスラズリ、ガーネット、ジェイダイト、オパール。そして、アンバー」
「僕が見て、強く光ったのは、ラピスラズリ」
「私は、オパール。アーサー君の魔力を、特に増幅するのは、この二種類だよ」
皿の上で、二つと三つに寄せて分ける。しかし、特に光った二つ以外の三つも、十分魔力を増幅するだろう。
「重複はどうなるんだ?」
「一応、可能だけど、段々と、増幅値が少なくなるみたい」
少し、考えるそぶりを見せるアーサー。
「それは―― 一種類の宝石で、魔具を幾つも付けた場合と、取っても?」
「えっ、えと、どうだろう? ちょっと待って。確か、どこかに、お師様のメモ書きが……」
羊皮紙をめくり、箇所書きを確認しているが、宝石による重複の詳しい記述は、無い。
「ごめん、見当たんない。うーん、ちょっと曖昧な記憶なんだけど、お師様の魔具は同一依頼者さんの、全部同じ宝石だったと思う。アーサー君は?」
「僕の先生は、髪飾り、指輪、マント留めのブローチの三種を付けている。宝石の違いはわからないが、色や透明度は全て同じだ」
宝石の色はブラウンで、透明度は高め。石の大きさは、ありそうだ。
「増幅石と、要石に相性があるんだけど、増幅石同士にもあるのかも。それだと、あまり一緒には付けれない」
「先ほども疑問に感じたのだが……要石と言うのは?」
首を僅かにかしげて、アーサーに聞かれる。
あれ? 言ってなかったっけ?
「えへっ、忘れてた。っとね、要石って言うのは、増幅石と違って、魔石の核になる石なの。こっちは誕生日や星座からある程度割り出せるから、その中から好みで選んで貰うの」
因みに、要石は魔法陣に組み込み、それを核として魔具に魔力を送り、増幅石が効率よく魔力を受けとれる様にするのだ。
「割り出せたとしても、二つの石に相性があるのだろう?」
「うん。でも、要石は結構数があるから、その中から相性のいいのだけ選んでも、最低――五種類は残るよ」
「そうか」
「と、話しちょっと変わっちゃったけど、なんだったら、一度試して見る?」
ダリアは適当な紙を取り、サラサラとデザイン画を描いていく。
「アーサー君、ピアス付けてるから、こんな感じで……チャームを付け替えられるようにして、左右で違う石を付ければ――」
「確かに。問題があれば、左右を同じ石に変えればいい、か」
「うん。これだと、宝石も大きなの使わないし、魔法陣も小さなものだから、手間掛からないから、ちょうどいいかなって」
現在、アーサーが付けているピアスと同じ様な形で、けれど、ダリアらしいデザインで。
「だから、ピアスが良いか思うんだけど……アーサー君、魔具幾つ創る?」
通常、アーサーの先生の様に、三組一セットで付けることが多いが、必ずという訳ではない。
ピアスは、大きな石が付けれないため、増幅効果もそれほどではないのだ。最も、大きい石を入れて創れないことも無いが、それは、儀式用に分類される物になる。
「セオリー通りに、三組一セットを頼みたい。学園への所有提出書類は、融通が利かなくてな」
書類には、必ず三種一セットで書かなくては、行けないそうだ。
「どうしよう、なるべく強くなるように陣凝ってみるけど、限度があるし、ピアスじゃ苦しいかな?」
もし、アーサーの希望に沿わないようなら、別の物を考えるつもりのダリアは、伺いを立てる。
「いや、そこに描いてくれた、ピアスでいい。後は……それを創ってもらってから、ではダメか?」
「うぅん、ぜんぜん平気。それじゃ、ラピスラズリとオパールで、いいかな?」
「あぁ、構わない」
ピアスを描いた紙に、ラピスラズリとオパールと記入する。大きさは、バランスを取って決めることにした。
「と、次は要石を決めなきゃだから、誕生日と星座を教えてもらえるかな」
皿の上で分けていた、ガーネット、ジェイダイト、アンバーの三つをコレクションケースの中に直し、もう一つのコレクションケースを開ける。
中には、一つ目と同じ様に、宝石の欠片が入っているが、こちらの方が大きさや形のバラつきが、激しい。
ダリアは、一から魔法使いの魔具を創るのが初めての経験のため、手探りながらも一つ一つ、慎重に手順を踏んでいく。
次に、決めるのは要石。