黄昏貴石亭の佳人①
新章は突入。
一応、サブタイは「たそがれ きせきてい の かじん」と読みます。
自警団の詰め所は、大門の近くにある。
「自警団は、ダリアが知り合いに聞いたように、治安維持以外にも、色々と業務を取り仕切っている」
パトロールに、喧嘩の仲裁。住人の手助けや、落し物の保管や迷子の保護等々。軽く挙げるだけでも、これだけある。
「ギルベルの人間は、飼っていた動物が居なくなったら、まず自警団に届ける」
万一、野良と間違われて城壁の外に出されてしまう場合があるからだ。
「じゃあ、この仔も、飼い主さんが居たら届けられてるんだね」
「あぁ」
ダリアが子猫を拾ったのが昨日の夕方。そして、今は午後二時を少し回ったところだ。遅くても正午には届けている、そうアーサーは言った。
「届けが遅い場合もあるが、城壁の外に出されたら堪らない。飼い主ならそう思うだろう」
「そうだね。外は危ないもん」
大通りを降っているので、さして時間が掛からず、自警団の詰め所に到着する。
結果は――
「それでは、この仔はアナタ、ダリア・アルビレオさんの飼い猫になるって事で、かまわないかしら」
「はい。登録お願いします」
「ここに、住所と名前、緊急時の連絡先と、その仔の名前を書いて、あっちの窓口に提出してね」
書類を貰い、書けるところを埋めていく。
「住所と、名前は……うん、大丈夫。緊急の連絡先って何でいるんだろ?」
「ダリアはまだ若いから、あまり関係ないが、年配の方用だ」
「うん。大体わかった」
詰め所では、アーサーも知らなかったことだが、動物の登録も行っていた。
大きさや色、柄等でファイリングされた中から、係りの人が子猫を探してくれたが、それらしい仔は見当たらず、また、迷子の中にも見られなかったため、飼い主なしと判断されたのだ。
こちらで飼い主を見つけることも出来るが、どうするか? と、たずねられた時、ダリアは、飼い主に名乗り出ない理由がなかった。
「名前……この仔、名前どうしよう」
「直ぐ付けるとなると、難しいな。色や、柄……この場合、薄茶色からベージュ、又はぶち」
「……直接的だね、アーサー君」
それはちょっと。と、微妙な顔をするダリア。
「わかっている。僕に、ネーミングセンスを求めるな」
自覚はあるみたい、よかった。
「そう言う、ダリアはどうだ?」
「うーん、簡単にいくなら私の名前。ダリアか苗字のアルビレオ、からかな? アルビレオが星の名前だから、こっちがいいかも」
「確か、ぶち模様ではなかったが、ライオンと言う動物が、その様な色をしているらしい」
「ライオン?」
どこか引っかかりを覚えて、首をかしげる。一体どんな動物なのだろうか?
「僕も、事典で見ただけだが、猫科の猛獣で、雄にはタテガミが、雌はしなやかな動物だ」
「へぇ、この仔のタテガミみたいなのかな? あっ、そう言えば、私もお師様から、猫科の猛獣で星座になってるのがあるって、聞いたことあるよ」
思い出して、ポム。と、手を叩く。魔具作りは、星と月と、関係してくるものがあり、星座や月の満ち欠けは、重要な話として聞いた。忘れていたが。
「確か、しし座だったかな? その中に、レオニスって星があるの」
「レオニスか。いいのではないか?」
ダリアの足元で行儀よく、座っている子猫を見る。クワっとあくびをする姿は、猛獣には見えないが、猫科であることに、間違いは無いだろう。
「うん! そうだね。じゃ、レオニスって書いてっと、よし、書類出してくる」
書類を提出しに行く後姿を眺め、先ほどまでダリアが立っていた足元に目を落とす。薄茶色に焦げ茶のぶち、そして太い足。そう、猫にしてはおかしいほどに。
そして、尻尾も通常の猫より、太くて長い気がする。
「ごめん、お待たせ。って、どうかしたの? アーサー君」
戻ってきたことにもに気付かず、子猫改め、レオニスを凝視しているアーサーに、ダリアは怪訝な顔をする。
「いや、レオニスが少し。ダリア、レオニスは猫にしたら足や尻尾が太い気がしないか?」
「あっ、アーサー君もそう思う? 私も、足はちょっと太いかな? って思ってたんだけど」
レオニスを抱き上げ、詰め所を出る。あのまま、中で話していたら邪魔になってしまう。
用事は終わったので、本来の目的である、アーサーの魔具を作る下調べのため、工房に足を向ける。
「可能性だが、猫型魔獣と家猫のミックス、では無いかと思う」
「魔獣と猫かぁ――確かに、それだと、大きくなるよねぇ」
同型の魔獣と益獣のミックスは、さして珍しいものではない。
魔獣といっても、全てが獰猛な訳ではなく、大人しい種も多数おり、魔獣とのミックスは、一般的にペットとして普及している。
「もしそうなら、書類、書きなおさなきゃかな?」
「後で気付く例も、多々あるそうだ。わかってからで良いだろう」
「ミックスなら、餌も楽になるんだけどなぁ。魔獣の特性出るだろうから」
猫ならば、多数ある制約が、ミックスならば一気に解決する。
ミックスといえど、必ずと言えるほど、遺伝子の強い魔獣の血が出るため、葱とチョコレート以外がまったく問題なくなるのだ。
「そんなに、面倒な物なのか?」
わき道にそれ、細い道と階段を登る。
「私と同じもの食べれるようになるもん。ご飯って、一人分も二人分も手間は変わらないの」
塩分も、糖分も、食物繊維も、炭水化物も! 気にしなくていいなら大歓迎だ。
「それに、ミックスなら一人暮らしに安全じゃない。護衛って言うのは、言いすぎだけど、それ目的で、飼う人も居るんだよ」
「そう言うものか。まぁ、女性の一人暮らしは、色々危険だ。レオニスは、懐いている様だし、番犬ならぬ番猫か?」
そんな話をしていると、工房に着いたので扉を開けて、アーサーを招く。
「さて、レオニスの話は置いておいて。いくつか調べなきゃ行けないことあるから、パパッと、終わらせちゃおう」
アーサーに座るよう欲し、ダリアは棚に向かう。道具は一通り揃っている。後は、実践でどこまで出来るか、だ。