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絶望と希望の依頼人⑨

ほのぼのタグを付けていますが、今回はシリアス展開です。

苦手な方はご注意下さい。

 「えと、えと。本当に、私でいいんですか? だって、アーサーさんはデザインが~とか、能力がって言うけど、ナスルは最大手なんですよ! 魔具師だっていっぱい抱えてるだろうし、オーダーともなれば――」


 「僕の上には、まだ三年、上が居るんですよ? その方々が付けてるので、あそこに碌なのが居ないのはわかっています。所詮、凡用品なんですよ」


 「うぅ……どうしてだろう、嬉しいのになんか複雑」


 動かない頭で、必死に考える。ナスルは、最大手で、この都市では恐らく、他の魔具師なんて仕事にならないのだろう。


 自分は運がいい、偶然とは言え、アーサーと知り合いになる機会があり、更に、依頼までもらえるなんて。


 けれど、素直に喜べなくて、アーサーは、知り合ったから、友達だから、頼んでくれているのかも知れない。先生の話も、ダリアには本当か嘘かわからない。


 グルグルと、考える。堂々巡りが続く。どうしよう。


 「最近、学園のほうでもナスルに頼まず、他の魔具師に遠征してもらうか、伺おうかと言う話が出ています。オーダーはイマイチと言うことで」


 話していることは、半分も耳に入ってこない、ダリア自身に、都合がいい様に、聞こえているのかもしれない。


 「……ダリア君、聞いてますか?」


 「きっ、聞いてるような、聞いてないような……?」


 だって、付いてけないし、話まとまんないんだもん。


 「はぁ。では、僕は大丈夫だと、自信を持って言えるのですが、貴女がその調子なら、妥協点です」


 「妥協点?」


 「はい。僕は、ダリア君に魔具を頼みます。金額はいくらかかっても構いません。魔具は、高いものですし、一生物ですから」


 魔具師なら、誰もが通る道だとはわかっていても、高額の依頼品は怖い。


 「創ってもらった魔具が、僕の理想通りならば、そのまま買い受けます。しかし、僕の理想した物に達しない場合――」


 ゴクッと、ダリアはつばを飲み込む。無性に喉が渇く。そうだ、コーヒーを貰ってたんだ。


 「その場合は、僕が気に入るまで創り直してもらう。それでいかがですか?」


 ダリアは、曖昧に頷く。


 「私が、アーサーさんの魔具を創る。金額は、いくらかかっても構わない。気に入れば、アーサーさんはそれを買ってくれる。気にいらなければ、リテイク」


 今ならまだ、蓄えの中から、かなり高額の素材も買うことが出来る。オーダー物に安物なんか使えない。


 依頼人である、アーサーは協力的だ。チラッと盗み見たら、コーヒーで喉を潤している、恐らく、考える時間を、気まずくしない配慮だろう。


 必要なのは、アーサーの魔力を増幅する、相性の良い金属と宝石。魔具の核、要石は誕生日や星座とに関係する。こちらは、一般的にパワーストーンと言われる貴石・半貴石の類。


 聞けば、答えてくれるだろう。微調整も、頻繁に会うことが出来れば容易ない。


 そして、一番重要な魔具師と依頼人の信頼性。


 「アーサーさん――」


 「はい、ダリア君」


 「アーサーさんは、先ほどの理由。先生に言われたことや、ナスルに関すること。本当に、それらが理由で、私に頼むのですか?」


 「……それは、どういう意味でしょうか?」


 同じように見えて、どこか違う雰囲気に変わったダリアは、アーサーの目を見て、問いかける。


 「お師様と、アーサーさんの先生は、お知り合いと言うことです。お互いよく知っているのでしょう。だから、話に聞くだけでも、気安さが感じられる」


 コーヒーで、唇を濡らす。


 「私は、一人前に成り立てとはいえ、『ギ』の、カメリア派の魔具師です。お師様が12代目に任命してくれたことを、誇りに思っています」


 だから、だから――


 「もし、先ほどのが、本当に本当の理由なら、私は、アーサーさんの依頼を、申し訳ないけど、受けれません」


 理由らしい理由ではなく、先生に言われたから、どれも似たデザインで、更にデザインが古いから、性能がイマイチと聞くから、なんて。


 尤もらしく、付けられた理由なら、それは、ダリアが創ってはいけない。ダリアだけの問題ではなく、『ギ』の魔具師の威厳に関わる。


 最初に、頼んでくれた時、真顔で、真剣に頼んでくれたのに。


 ダリアも混乱して、色々口走って、後ろ向き発言をしまったが、ダリアと違い、アーサーに混乱は見受けられない。


 「ごめんなさい、アーサーさん。私、帰ります――コーヒー、ご馳走様でした」


 ペコリと頭を下げ、近くのゴミ箱に紙コップを捨て、ダリアは足元で、心配そうにこちらを見上げている(と、今は思いたい)、子猫を抱き上げた。


 「ニー」と泣いて、俯いているダリアの、頬を嘗める。慰めるかのように。


 足早に、その場を去ろうとしたダリアの、けれど足を止めさせたのは、子猫だった。


 「あっ」


 腕の中に納まっていた子猫は、スルリと抜け出し、これまでは、けして近付かなかった、恐らく、方向的に、アーサーに向かって走っていく。


 「どうして――」


 温もりのなくなった、腕をぼんやり目に映す。ダリアが、アーサーから差し伸べられた腕を、断ってしまったから、だから子猫は、ダリアの腕から逃げていってしまったのか?


 「……ダリア君」


 遠慮がちに、声が、アーサーの声が掛かる。それに、振り返りたくない。と言う思いと、振り返らないと。と、言う思いが、足を、動かさない。


 「ニー」


 ペシペシと、足を子猫に叩かれる。痛くないけど、痛い。


 「ダリア君」


 先ほどよりも、近くでアーサーの声がする。逃げ出したいのか、逃げ出したくないのか、わからない。


 「私、何がしたいの?」


 小さく、泣き言が出る。


 俯く頭の上に、ポンと、優しく暖かい、温もりが置かれた。

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