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絶望と希望の依頼人⑧

 坂道を、二人と一匹でテクテク歩く。最初、ダリアは子猫を抱いていこうと思ったが、自ら降りる素振りをしたので、放してやった子猫は、ダリアの足元をチョコチョコと歩いている。


 「学生さんは歩いてないみたい。そう言えばアーサーさん、学園はいいの?」


 大通りに、制服を来た人の姿は見えず。また、二人と同年代の人影も見えなかった。


 「高等科では、五回生に全体授業はほぼ、ありません。先生とワンツーマンの授業を予約するか自習、研究に掲示板の仕事をするか、くらいです」


 「先の三つはなんとなく、わかるけど……最後の掲示板の仕事ってなんですか?」


 全体授業がないと言うことは、教師とのワンツーマンも自習も、恐らく、修行の類だろう。研究も順ずるものか、とりあえず、魔法使いっぽい。けれど……


 「あぁ、高等科は八年間ありますが、最初の四年で、魔法使いとして必要な技術はほとんど習得します。五回生からは、技術を磨くことや、経験を積むことを重視します」


 「ふーん、学園も、修行も似たような感じですね」


 「僕としては、人数が多いだけ雑だと思いますよ。さて、仕事ですが、これは経験を積むための実地研修的なものです」


 「実地研修?」


 どこかで、何かするのかな?


 「はい、国からの依頼で、簡単だけど人数の要する仕事や、魔法院に持ち込まれた、簡単な仕事を上級生と組になって遂行します」


 「確かに、仕事って実際してみないと経験なんか積めないですもんね」


 ダリアもアイヴィの元で修行を始めて数年が経ったある日、簡単な仕事を一つ任された。それが成功すれば、同じような仕事を何十回かこなして慣れてきたら、また新しい仕事を任される。


 時に失敗して怒られることはあっても、怒った後はどこがダメだったか、なぜミスをしたかを、説明してくれた。また、やり直しさせてくれた。


 そうやって、ダリアは経験を積んできた。


 魔法使いも、魔具師と同じで、職業であり、技術者なのだ。


 「そう言うことです。学生のうちは、ミスをしてもやり直せる、先生が居る。だから、僕たちはその環境に感謝し、技術と経験を積んで行かなければならない」


 「わかります。私も、そうだったから」


 「魔法使いだからと言って、偉いわけではない。それはまた、他の職業も一緒です。しかし、一部で自分たちは偉いと思っている人たちが居る」


 アーサーは、なにもない道の途中で、足を止める。続いて、ダリア、子猫も。


 「あちらにある、工房兼商店を御覧なさい」


 目線だけを送った先には、ダリアの家と同じような、しかし、更に大きな工房があった。看板は『マジカルツール・ナスルカンパニー』


 

 「ナスルカンパニー? って、ナスル!?」


 「ダリア君も、聞いたことはあるでしょう。『ギ』の、いいえ、全ての魔具師の商売敵の名前くらいは」


 全ての魔具師の商売敵。その異名は、けして大げさなものではない。


 「知ってますし、なんか、それだけではないほどに、お師様が目の敵にしてました」


 『ナスル』の魔具師、初代魔具師ナスルは、魔具を大量生産させることに成功した。


 なので、普及率が高く、その為にそれまで魔具に手が出なかった層に爆発的にヒットした。


 けれど、アイヴィが目の敵にしていた理由がわからない。


 「品質もよく、安価なことから、学園もここの魔具を使っています」


 ……あいさつ回りに言った時、職業を言って憐れまれたのは、この工房があったからかもしれない。


 「お師様、こう言うことは、先に教えてください。それ以前に、どうして『ギ』の工房がここに在るのよ」


 ダリアは、泣きたくなった。チラシが貰ってもらえなかった理由に、ここも関係してるのではないだろうか?


 「そろそろ、移動しますか。ここは目立つので、向こうの公園に行きましょう」


 返事をする気力が湧かず、頷いて付いて行く。ここで、やって行けるのかな。



 無言で、続く。ダリアは、落ち込んでいるし、アーサーはそれを見つつも声を掛けない。


 沈黙がとけたのは、ダリアをベンチに座らせ、アーサーが買ってきたコーヒーを持たせてくれた時だった。


 「僕たち魔術学園の生徒は、五回生で学生ではなく、一応魔法使い見習い。と言う立場になります」


 先ほど、話していた内容を思い出し、コクと頷く。


 「なので、魔法使いに許されるブースターであり、奥の手である、魔具を依頼する許可も降りました」


 それを、ダリアに言ってなにか意味があるのだろうか?


 「けど、それはナスルカンパニーで、創るんですよね? 学園が使ってるのだから」


 「はい。普通はそうです。ですが、僕は未だに創ってもらってません。僕の先生も、頼めとは言いません」


 「? 早く創るに越したことないんじゃないの? 役に立ちますよ」


 「先生の魔具は、アイヴィ・ベルの作品らしいです。今朝、貴女のことを話した時に聞きました。そして、言われたんです――」


 「なっ、何をですか?」


 まっ、まさか、工房を見せてからのこの話。友達関係を解消しましょう? それとも、僕にもう関わらないでください? それとも、それとも――


 「先生は、『ギ』の魔具師が居るなら、そちらに頼め、と。あんな、大量生産品、使う魔法使いなんて底が知れる、らしいです」


 にっこりと、笑って、どこかいたずらに、アーサーは言い切った。自分も、そう思っていたのだと付け加えて。


 「っえ?」


 「だって、あそこの魔具は、デザインなんてどれも似たような物。安ければ良いと言うものではありません。能力もイマイチと聞きますし」


 「えっ、えっ?」


 「まず、種類が少ない。ブローチと指輪だけなんて、学生をなめているのですか? 古臭いデザインでアンティークと言うほど洗礼もされていない。挙句、卒業したら作り直す。なんて、不経済にもほどがあります」


 「アーっ、アーサーさん」


 まくし立てるように、アーサーは不満を挙げ連ねて行く。確かに、あのままあそこで話していたら目立ったこと、この上ない。


 先ほどの心配を返して欲しい。


 そんな思いは、吹き飛んでしまった。そして、キャラが違うよ、アーサーさん!


 「それに、テーブルの上に置いていたデザイン画は、ダリア君のイラストでしょう? アレを見て、確信しました」


 一息ついて、アーサーは真顔でダリアに言う。


 「魔獣の捕獲のために、奥の手が必要です。けれど、そのことが、関係なくても、言っていたでしょう。僕に、魔具を創ってくれませんか?」


 ダリアの思考は、停止した。

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