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絶望と希望の依頼人⑥

停滞して動いてない話が、やっと動きます。

 黙々と、作業を続け、気付くとお昼の鐘が鳴っている。そろそろ、一段落付けよう。


 「うーん、結構描けたね。さて、と。お昼どうしようかな?」


 考えながら、二階に移動する。子猫はちゃんと付いてきている。


 ミルクは、早めに使わないと痛んでしまう。チラッと、本来は魔具作りに使う窯が頭を過ぎる。


 一度戻って、そこまで重たくない窯を持って上がることにした。


 「うん、いいよね。お師様も窯料理に使ってたし」


 牛乳と卵、本来はこれまた魔具作り用の蜂蜜をココットで混ぜ、黒パンを食べやすい大きさに切って中に入れる。


 「えーと、レーズンがあったはず」


 セシルが棚の組み立てなど以外に、収納も手伝ってくれたので、楽だったが、何がどこにあるのか、いまいち把握していないダリアだった。


 「あっ、あった。これを……うん、これくらい! あとは、窯で焼くだけだね」


 簡単に出来る、パンプティングである。


 窯に火を入れ、ついでとばかりに、ケトルを上に乗せる。レーズン他、ドライフルーツの隣に、紅茶の缶が見つかったのだ。


 紅茶がどこにあるか、わからなかったために、ミルクを買っていたが、紅茶が見つかれば、こっちの方が好みだ。


 「と、猫ちゃんは。どうしよっかなー。ふふっ、乾燥の野菜や肉類も見つかったんだよね」


 今までは、片付けやその他、ちょっと余裕がなかったために、探す気力が湧かなかったが、意外と簡単に見つかったために、ちょっと後悔したのは秘密だ。


 野菜も、肉や魚など、全て、塩味も何も付けずに乾燥させている物のため、子猫にあげても、まったく問題がない。


 「出汁も出るし、スープにしようかな。適当に切って、お水と一緒に窯の上に置いてっと」


 ミルクパンに、切った材料と水差しから適量の水をいれ、ケトルを少し寄せてスペースを作って、落ちないようにだけ気を付ける。


 「沸騰して、火が通ったら、つぶす方がいいかも。乳鉢でいいかな」


 大きな砂時計をひっくり返す、パンプティングを入れた時にひっくり返せばよかったが、そちらは、お湯の沸く時間が判断材料だ。


 砂時計は一回、10分。パンプティングは大体30分。


 「暇が出来ちゃった」


 ふと、子猫が居る陽だまりが、目に入る。暖かそう。


 「私も、ちょっと休憩」


 椅子を、陽だまりに移動させる。想像以上に暖かくて、気持ちがいい。


 すると、子猫が足元で、少し立ち上がるように、前足を伸ばして来たので、抱き上げると、膝の上でまるまる。


 「うー。やっぱり、飼いたいなー。やる気出るし」


 自分ひとりなら、今現在は仕事がない状況だが、最低限生活できればいい。


 アイヴィのところで、魔具の修理や、簡単な魔具を作って得たお金は、全て貯めているので、当分は、生活に困らない。


 けれど、子猫が増えると必要な物も増える。そのために、仕事を頑張ると言う意欲が湧く。


 「って、一人でも頑張らなきゃ行けないんだけどね」


 苦笑いをもらし、一人と一匹しか居ないけど気まずくて、視線をさ迷わせると、不意に耳を突く、沸騰する音。


 「あっ、お湯、湧いてる」


 そっと、子猫を膝から椅子の上に乗せ換え、軽く手を洗って、ケトルを鍋敷きの上に移動する。パンプティングもいい感じに焼け目が付いて、甘い匂いが食欲をそそった。


 マグカップに茶漉しを乗せて、そこに茶葉を二杯。お湯を注いで、蓋をする。ちゃんと入れる方が美味しいが、自分の分だけだし、ダリアは誰にともなく言い訳する。


 「食べたら、ちょうどいい時間になるかな?  ちゃんとした紅茶も用意しておこう。ティーポットを暖めて――」


 ポットをお湯で満たし、その間に湯掻いていた野菜と肉を取り出し、乳鉢に移し、ミルクパンはボールに付けて冷ましておく。


 「そこまで潰さなくてもいいかな? 軟らかくなってるし」


 適度に潰し、冷ましたスープと共に、深皿に入れて置いておく。ポットがいい感じに温もっているので、茶葉を加えて蒸らす。


 「早ければこのまま、遅くても、アイスティにしちゃえばいいもんね」


 マグカップから茶漉しを取り出し、蜂蜜を一匙。紅茶をテーブルに移動させ、プティングは既に上にある。


 「猫ちゃん、ご飯食べるよ」


 「ニー」


 丸まっていた椅子の上から、のそりと起き上がり、泣き声を一つ。軽やかな足取りで、深皿の前まで移動して、匂いを嗅ぐ。


 「冷めてるから大丈夫だと思うけど……あっ、食べた」


 最初は少し、なめ、大丈夫だったのだろう、ペロペロと具にも舌を伸ばす。


 「私も食べちゃおっと。アーサーさん来ちゃったらアレだし」




 食べ終わって、余り出しすぎても苦くなってしまうので、紅茶を移し変えて、一階に下りて一息つく。


 「さて、さっきお昼過ぎの鐘なったから、そろそろだと思うんだけどな」


 再び、作業机に向かおうかとも思ったが、途中で中断するのはよくないので、時間を持て余す。


 「ここって、魔術学園あるんだから、誰かから、アクセサリーの注文来ないかな」


 適当な紙に、デザイン画を描いて行く。魔法使いは、アクセサリーを付けている人が多い。


 アイヴィも、よく仕事として受けていた。様々な属性を持たせて、一人の魔法使いのためだけに作る一点もの。その注文を受けてこそ、本当の一人前だと、以前話していた。


 一人前になっても修行とは、恐らくそう言う意味なのだと、最近になって思う。


 宿り木の葉に花と果実。本来は小さな花も実も、デフォルト気味に大きめにして。その、花と果実の部分を宝石に。


 Y字型だから、ブローチがいいかな? 男女どちらでも使えるデザインがいいよね。


 サラサラと、開閉方法や使う金属、必要な薬草類をつらつらと書き出してく。


 本当は、依頼人の魔法使いに合わせて、材料は変わるのだが、これはサンプルだから、と開き直って。


 『コンコン』


 ノックの音で、筆を止める。アーサーが来たのだろう


 「はい、開いてます」


 パタパタと、短い距離を早足で移動する。一階に移動していてよかった。


 「いらっしゃい、アーサーさん」


 「はい、こんにちは。ダリア君」


 そこには、昨日と違い私服の、なぜか生乾きの髪な、アーサーが居た。

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