天の川
天の川がきらきらと見える晴れた夜。
早紀は山の斜面に座って夜空を見上げながら、ちらりと隣を見た。一緒に来た翔平は画用紙を持ち上げて、なぜか天の川を見えなくしている。
そのまま画用紙を左手で支えると、右手には鉛筆を握って、なにやら画用紙に線を書きだした。ぷるぷる不安定で薄い線を思うまま書きつけるとやっと下ろした。けれど早紀には目もくれず、持ってきていたカッターボードのうえに置く。
ぷるぷるだった線をまともな線に書きなおした。すると、にやりと笑ってカッターを取りだした。
あやしい。
くすくす笑う早紀にきづかず、彼は線にそって画用紙を切っていく。
早紀が「何をしているの」と覗き込む。見ちゃダメと止められた。
できたら見せるからといわれて、わくわく、楽しみにすることにした。
まだかな。何してるんだろう。
「できた!」
「ほんと? 見せて見せて」
翔平はまた意地悪そうににやりと笑う。画用紙は後ろ手に隠したままだ。
「まだだよ。上向いて。天の川見て。早く。こっち見るなよ」
「なに、何するの」
「いいから、じっと天の川だけ見てろよ。横目でこっち見るなよ」
サラのわくわくしていた心がさらに楽しげに鼓動しだした。
目の前には天の川。
新暦の七夕は雨が多いけれど、今日は旧暦の七夕にあわせて山に来たから、空は絶好調に晴れている。
一つ一つの星が見分けられないくらいに重なり合った星々は、暗闇の中に光の水しぶきが跳んでいるみたいだ。
川の両岸に織姫と彦星がいるのだろう。早紀にはちょっと……どれか分からないんだけれど。
(翔平くんが教えてくれるって言ったのに)
肝心の天体好きは、見るな見るなと言うばかり。
そう思った時、目の前に画用紙が差し出された。ぺろぺろの画用紙だからへろんと折れそうになっている。翔平の両手ががんばって形を保っていた。
差し出されたのはちょうど天の川があった場所だ。画用紙はカッターに大部分を切り落とされ、ほとんど縁しか残っていない。
「わぁ!」
しかし早紀の目に映る星は、いっそう輝きを増した。あたかも天の星屑が心に降り積もったように、早紀の心にきらきらと幸せな光が満ちてくる。
「これが橋? この鳥はなに?」
「鵲だよ。牽牛と織姫が渡る橋はこの鳥の翼なんだ」
「そうなんだ! じゃあこの翼の両端にいるのが織姫と、彦星じゃなくて……」
「彦星だよ。牽牛ともいうけどね」
「彦星でいいんだ。織姫と彦星……ちゃんと会えたねえ。翔平くんすごい!」
「ま、手先は器用ですから」
翔平の照れた顔は星空だけが見ていた。
早紀の目には画用紙の額縁に入れられた天の川の絵画が映っている。
額に入ってもまだ光の水しぶきを輝かせる天の川の上には、画用紙の橋がかかっていた。額縁の左上から右下へ斜めにのびる橋は、画用紙を切り残されてつくられた長い翼を広げた鳥の姿で、翼の両端には二人の人を乗せている。
今だけ見られる鵲の橋。今年も恋の橋渡し。
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あとがき
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最後ちゃんと落ちているでしょうか?
気が向いたらコメントよろしくお願いします!