ドッペルゲンガー
お前は自分が、「本物」だって証明できるか?
深夜、バイトの帰り道。いつも通りかかるその公園に、そいつはいた。
「よお」
馴れ馴れしく話しかけてきたそいつと俺は初対面で、だけど俺はそいつを知っていた。少し癖のある茶色がかかった髪。釣り眼気味の目。小さめの口。その声も。
そう。そいつは間違いなく、『俺』だった。
「お前、ドッペルゲンガーって知ってるか」
何が起こってるのかも把握できず固まる俺に、『俺』が話しかける。
「ドッペルゲンガー。もう一人の自分と会った人間は死ぬっていうハナシ。あれな、本当。でも、半分嘘」
『俺』は楽しそうにけらけら笑いながら、話す。
「DNAの提供者は、ランダムで選出される。正確な数字は忘れたが、かなり低い確率で。アタリをひいたらおめでとう!!もう一人のお前が、もう一人の俺が、作られる」
こいつは何を言ってるんだろう。俺は夢を見ているんだろうか。頭が回らない。
「提供者は、必ずゼロ歳の赤ん坊が選ばれる。選ばれた赤ん坊のDNAをもとに、とある研究所で、提供者とまったく同じ偽物が作られる。これは実験だよ。もちろん、公にできる話じゃないがな」
クローンの羊の話、知ってるだろ?と笑う『俺』は、どこまでも楽しそうだ。
「二人になった赤ん坊は、一人はそのまま社会に返され、もう一人は研究所に残される。ただし、この時もランダムだ。社会に返された人間が、本物だとは限らない」
俺は『俺』を見つめる。彼は気持ち悪い物を見る目で、俺を見ている。多分俺も今、そんな顔をしてるんだろうと思う。
「そしてこのクローン実験、いまだに成功していない」
『俺』の声が、少し低くなった。
「クローンの方は必ず、20歳で死ぬ。理由は解明されてない。だが確実に、20歳になると同時に身体が腐り始める」
俺は携帯で、時刻を確認した。午後、11時38分。
「研究所に残った方は20歳の誕生日の前日に、社会に出たもう一人の自分と会うことを許される。お互いが出会った次の日、つまり20歳の誕生日に、必ずどちらかが腐って死ぬ。そして生き残った方が、残りの人生を「俺」として生きる。会ったら死ぬんじゃない。死ぬ前に会いにくるんだ。それが、本当のドッペルゲンガーのハナシだよ」
彼は嬉しそうに笑う。俺の誕生日まで、あと22分。
「もちろん俺も、自分が本物か偽物かは知らない。あんたはどうだ?」
『俺』は真正面から俺を見る。不気味なほどの笑顔で。
「お前は自分が、『本物』だって、証明できるか?」