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死期  作者: 遊哉
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初雪

俺は人の死期が分かる。

そのため、今まで何人かの人の死を先延ばしにしてきた。

最期の一日を護り抜いても、死期が遠のくだけで、その人が不死になる訳ではない。

逆に言えば最期の一日さえ護り抜けば、その人の人生を延ばしてやることができる。

そして俺は人を助けるたびに、いつも疑問を感じる。

死というものは偶然に起こるべきものではないのか。

世界中の人がそれぞれの死期を持っているのならば、死は何か膨大で未知的な存在によって、必然的に齎されているだけではないのか。

死すら偶然ではないと言うのなら、そもそも偶然なんて物は存在しないのではないのか。

人間が体験している偶然は、その未知的な何かが必然的に体験させているという事になるのではないのか。

自分の意思で行動しているはずの人間は、その膨大な存在によって操られているただの人間型ロボットなのだとすれば、人間はその未知的な存在にとってはただの玩具で、雑に扱えば壊れてしまう、飽きたら棄ててしまう、そんな無力で無益な存在なのだろうか。

もし、その膨大で未知的な存在が人間の言う神なのだとすれば、

俺は・・・・・・。




        ******************************




 家を出てから四十分も歩いてるのに周りの景色は一変する訳でもなく、相変らず枯れた木と役目を果たした畑が数を競うかのように並んでる。

「おまえ今日もバイトあるんだよな」

「どうして」

妹は週七日すべてバイトが入っていて、いつも夜中に帰ってくる。

寒がりなだけで病気がちでもなければ、体力がないわけでもないらしい。

しかし俺としては妹が夜遅くまで一人、外にいるのは許せない。

なんで母はあんな長時間労働を許しているのだろうか。

「今日、ユキとインセストでもしようかと思って」

冗談でも痛々しい台詞を後悔しながら言う俺に、妹は目もくれず歩き続る。

「無視はするな」

お兄ちゃんのお嫁さんになるなんて言っていた過去がいとおしい、などと考えながら俺は言った。

「その言葉を発しているのが孝平だという現実を、どうしても否定したくて」

存在を否定されたにも関らず俺はめげずに話を続ける。

「俺が言いたかったのは、ほら、おまえ昨日誕生日だったろう。だから一緒に商店街にでも行こうかって事」

「ほんと」

言葉ほどではないが、妹は少し驚き喜んだ様子でいる。

「行けないとは言うなよ」

「大丈夫、バイトは休む」

笑みを浮かべながら言う妹を見て俺は、今にも零れそうになる祝いの言葉を必死に仕舞いこんだ昨日の頑張りが、初めて報われた気がした。

「絶対だぞ、絶対」

俺は念を押すように言った

今日バイトなんかに行かれたら困るからだ。

妹を今日という日から護らないといけないのに・・・。


 物思いにふけている俺の冷たい手に、冷たい何かが触れるのを感じた。

「雪」

俺は妹と同時に冬空を見上げる。

霙のような初雪が寒々とした空から舞い降りてくる。

見る間に融けていく雪を手で受け取りながら、妹は小さく呟いた。

「きれい」

「・・・ユキ・・・」

何か言い出そうとしている俺を、突然の轟音が遮った。

 

 

 後ろから物凄い速度で駆けて来ているのはクラスメイトの八木太一だった。

「また猪が出たかと思ったぜ」

「一緒にすんな」

猪突で猪勇な、言うなれば猪みたいな人だから間違えるのも無理はない。

「それよりお前はまたユキちゃんを口説いてるのか」

「だれが妹なんか口説くか」

例のごとく、まだ静かで寂しい商店街と一緒に現われる八木は、いつもの台詞を吐いた。

「こんなにカワイイのに勿体無い、まあ~ユキちゃんは孝平なんかよりも俺の方がいいもんな」

いきよいよく妹に近寄る八木。

人見知りでハイテンションが不得意な妹は、逃げるように俺の後ろに廻る。

「これだからお前はもてないんだ」

俺は歩き続けながら小さく吐き捨てた。

「それがだよ、聞いて驚け孝平君。どうやらクラス委員長の榎本さんは俺のことが好きらしい」

「こないだお前の悪口言ってるの聞いたけどな」

「ウソだろ・・・」

「ジョ・・・ジョウダンだ」

あまりにも惨めな顔をされて、おもわず否定した俺は、急いで話題を替える。

「そういえば聞いた話によると北海道の中心部には梅雨が無いらしい」

「俺の涙腺は今、梅雨真っ只中だ」

「冗談って言っただろ・・・」

負のスパイラルに陥っている八木はほって置くに越したことはない。

などと考えていると、周りに店が並び始めてるのに気が付く。

「やっと商店街だな」

「・・・だね」

妹は溜め息交じりで呟いた。

あれこれ一時間以上歩いているのに、まだ着いてないのだから無理もない。

しかもこれが一番近い学校だと言うのだから、何とかしてほしいものだ。

「そういえばお前、体操着持ってきたか」

早くも復活した八木が突然切り出してくる。

「なんでだ」

「ほら・・・今日一限目から体育だろ。だから今度こそお前に俺の剛速球を理解してほしくてよ」

「悪いな八木。だが、それはできない相談だ」

「なんでだ!?」

八木の剛速球なんか理解したくないのは確かだが、それよりも今日、俺はこいつに構ってる時間など無いのだ。

「俺は今日、妹を護らないといけないんだ」

「意味が分からん」

八木は痛い物を見るような目でこっちを見ている。

「だから、俺今日一日ユキと一緒に授業を受ける」

「はははは!?」


 俺の言葉に愕然としている二人を後ろに感じる。

それに構わず、

俺はまだ降り続けいる雪に打たれながら一人、学校を目指した。


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