闇の世界の証拠を暴け ~後篇・依頼成功!?~
サヤ=ライリーは、オークションの
舞台に立っていた。一見落ち着いている
ようにも見えるが、黒い耳は完全に垂れ、
尻尾はややふくれていた。
『さあ、この少女は人狼と人間との半妖だよっ!!
貴種だ!! ご入札は一万ギルアから!!』
「二万」 「五万」 「八万」 「十万」 と一気に値が上がっていった。
ポンッ、と気の抜ける音とともに煙があがり、サヤの姿が消える。
否、消えたわけではなく、サヤの姿は黒い狼の姿になっていた。
サヤの変化が解けたのだ。あまりの恐怖に、耐えられなくなっていたようだ。
小さな狼の姿に、さらに会場は盛りあがった。
さらに値が上がっていく。びくびくと黒い狼は身をすくめていた。
結局、サヤは一千万ギルアで落札された。
目を黒い眼帯でおおった、やけに香水の匂いが強い男だった。
心配そうに見守るギルドメンバーに笑い返し、
彼女はしっかりとした足取りで歩いて行った。
狼の姿なので、かなり笑顔に違和感があったけれど。
次に出されたのは、世界に一つしかないという貴重なダイヤ、
ブラックダイヤモンドだった。禍々しき光は、まるで魔界の
光のように人々の目を奪っていく。石はそれに、かなり大きかった。
比較するのならば、占い師の使う水晶玉くらい大きい。
「すごいわ、しかもこんなにおおきいだなんて」
ルミアはうっとりとしたように呟いた。ルーも、金の月のような
目を一段と美しく輝かせている。何がそんなにいいんだろうね、と
サヤは思った。彼女は闇の匂いに敏感なので、
それほどいいものとも思えなかった。第一、宝石なんて興味はない。
つまらなそうにしているサヤを、眼帯をした男が
興味深そうにながめていた。
「宝石には興味がないのか?」
「ない。女が全部そんなヤツだけだと思ったら、大間違いだぜ」
小憎たらしくサヤは舌を出した。今は人間の姿に戻っている。
かなり気分が落ち着いたらしかった。
「俺が今まで見た女と、お前は違うようだな」
「だろうな」
これ以上はもう口もききたくなくて、サヤはぷいと横を向いた。
男は怒るでもなく、楽しそうに見ている。
サヤはこの男をどこかで見たことがあるような気がした。
だが、匂いがきつくて鼻が利かないし、頭もうまく働かない。
正体はわからなかった。
苛立つサヤを、おかしそうに男が見ていた。
「なによなによ、あんなになかむつまじく!!」
「ルー、君の目は節穴かよ」
「シオン、うるさいっ!!」
「あの、二人とも、大声はよそうよ。睨まれてるよ」
会話している二人に、ルーが唇をとんがらせて
怒っていた。シオンがつっこんでさらに激怒させ、
オロオロとルカが止めている。
ルミアだけがくすくすと楽しげに笑っていた。
次に舞台に引き上げられたのは、ルーだった。
震える体を鼓舞するように拳を握り、なんともなさそうな
顔で舞台に上がる。ちらり、とカバンに仕込まれた機械
を見やると、キッ、と顔を上げて羽根を広げた。
夕焼け色の美しい翼が、風を受けたかのように羽ばたく。
オークションが始まった瞬間、さっきサヤを買った
男が「五万ギルア」の札を出した。
別の男がどんどん値を吊り上げていき、さっきの男は
ルーを買うことはできなかった。
落札されたルーを、競り落とした男が連れて行こうとする。
ルーは抵抗し、羽根は少し取れて宙に舞った。
その時、である。
「そこまでだ!!」
眼帯の男が、壇上にいきなり飛び乗った。彼が何事か合図
をすると、バタバタと大勢のものたちが、オークション会場
に集結した。サヤたちとは、別のギルドのものたちだ。
会場は阿鼻叫喚と化した。逃げる客たちと主催者たち。
が、ギルドメンバーが全員をすぐに拘束してしまった。
ハッとなり、サヤが裏返った声で叫んだ。
「あいつっ!! 新しいギルドマスター!!」
『ええっ!? この人が!?』
「間違いねえよっ!! ああああああっ、悔しいっ!!
全然わかんなかったぜ!!」
じたんだを踏みながら、顔を真っ赤にして怒るサヤは、
普段よりもかわいらしかった。ルカがみてれている。
「いいとこどりしやがって」
サヤは、帰宅するさい、ぶつぶつと文句を言い続けていた。
翌日、昨日のギルドマスターが、
報奨金と新たな依頼書を持って、『ホラーギルド』へ
やってきた。
サヤはすっかり不機嫌で、じろりと彼を睨みつけている。
「ご機嫌ナナメだね、お譲さん」
「お譲さんって言うな!! オレはサヤ=ライリー!!
それ以外の何ものでもねえよっ!!」
スッ、と男がサヤの手を取った。
眉をしかめて振り払おうとする彼女を尻目に、
いきなり手の甲にキスをした。
カッとサヤが赤くなり、ルカとルーが激怒した。
「なななななななっ、なんってことを!!」
「許さない、この人敵っ!!」
ニコリと笑う男に、サヤも笑い返した。
そして……
満身の力を込め、その腕にかみつき、
彼に悲鳴をあげさせたのだった。
「いてててて、なんだ、あのじゃじゃ馬は」
家に帰ったギルドマスターは、血のにじむ
腕をさすりながら呻いていた。あんな女は初めてだ。
彼は人気があるほうで、さっきサヤにしたことを
すれば、だいたいの女は彼にオチるのだった。
「絶対におとしてやるよ」
彼は自身の血をなめながら、サヤのことを想う
のだったーー。
サヤのことを気になるヤツが出てきました。
これからは、恋愛の要素が濃くなると
思います。