闇の世界の証拠を暴け ~前編・四人の勇者たち~
温かい陽光が差し込む、ギルドの室内。
『ホラー・ギルド』のメンバーたちは、
回された依頼書を確認していた。
ギルドリーダーのサヤ=ライリーが、
メンバーたちを見やっている。
「これが久しぶりの依頼だぜ!!」
依頼の内容は、闇オークションに、
〝商品〝として紛れ込むことだった。
盗品のほかに、珍しい妖怪や人間も
売り買いされているというのだ。
「サヤ、どうだ?」
一番の年長者、エリオット=アディソンに
聞かれ、サヤはこくりと頷いた。
黒い獣の耳が揺れる。
「オレは受けるよ。『禍の目』なら高く
売れんだろ、紛れ込むことはできるさ」
「サヤが行くならあたしも!!」
サヤの親友・ルイーズ=ドラクールが
手を挙げた。ゆきなが異を示す。
「あんた、売れるの?」
「ゆきは知らないんだっけ? ルーが
『できそこない』って言われてた訳。
見せてやれよ、ルー」
ルーは目を閉じた。吸血鬼である彼女が、
いつもは隠している羽根がふわり、と現れる。
それは、他の者のようにこうもりのような黒い羽根では
なかった。妖精のように、透き通った夕日の色をしていた。
「あたしは隔世遺伝なの。何代か前に、妖精族と結婚した
人がいたんだって」
ゆきなが目を見開いたまま固まっていた。
まるで、凍らされたかのように。
「他に行く奴は?」
シオン=エレットが手を挙げた。皿を並べた手を止めていて、
夕顔に睨まれていた。慌てて作業を続行する。
「ボクも行きたい」
「あ、シオンは駄目」
「なんでだよっ!!」
「シオンは売れないよ。なにも特徴ないじゃん。
あ、そうだ、仮面取ってみろよ」
少し考え、サヤは紅い目でシオンを見やった。
シオンが抵抗するのを構わず、強引に仮面を奪う。
かわいらしい顔が現れた。
全員が目を見開いている。彼らは一度も、シオンの
顔を見たことがないのである。
シオンはたちまち真っ赤になり、サヤに返せとせまった。
「駄目。仮面を取ったままじゃなきゃ、お前を行かせられないよ」
真っ赤になって彼は唸った。だが、どうしてもルーと一緒に
行きたかったらしく、渋々了承した。
「私も行こうかしら」
「夙様!!」
吾妻夙がおっとりと言うと、
とんでもないとばかりにエリオットが叫んだ。
「あなたは駄目です!! 巫女なのですから!!」
「巫女だからこそ、闇の世界を知っておかなくてはなりません」
「あなたには刺激が強すぎます!!」
言い合いの末、仕方なく夙はお留守番になった。
夕顔とエリオットとゆきなも待機。
まあ、行ったところで帰されるだろうが。
そして、新メンバー倉木ルカは、なんとOKした。
「僕も行きます!! 天邪鬼と巫女って
いう組み合わせって、かなり貴種らしいんですよね。
それに、リーダーだって女の子ですし」
サヤが赤くなり、それと反比例するように、
ルーが拗ねたような顔になった。
彼女は、サヤに姉のような感情を抱いているのだ。
役者が決まったので、了承印を押して、依頼書は
新たなギルドマスターのもとへ郵送された。
サヤ・ルー・シオン・ルカは、人身売買を専門と
している男に会いに行った。
その男は、後に摘発されるとは知らず、ほくほく顔
で彼らを眺めまわしていた。
一人は上玉、三人は、珍しい貴種だ。
高く売れるのは間違いない。
「ところで、なんでおめえらは売られてえんだ?」
それを聞き、四人は顔を見合わせて、それぞれでっち上げ
な素性を話し始めた。
「あたし、父さんも母さんも死んだの。弟と妹はまだ
小さくて、あたしが売られるしかないのよ」
女装をしたルカが、わっ、と泣きだした。
もちろん嘘泣きだ。ちなみに、ルカは女装は嫌だと最後まで
抵抗していたが、シオンとともに説き伏せられた。
女性の方が高く売れるから、女装しろ、と命じられたのだ。
「私はこの目のせいで苦労しているから、この目売られる
なら本望だわ。居場所はどこにもないんだもの」
「私は父さんと母さんに売られたの。でも、彼らと離れられる
ならどこへ売られたっていいわ」
「あたしだって!!」
サヤ・るー・シオンの順に話した。サヤは、いつもとは違う口調
なので、とても言いにくそうだった。
こうして四人は、とりあえず人買いの家でしばらく
暮らすことになった。オークションまでは、まだ
日があるらしい。人買いは、高く売れるからか、
事情を憐れんでいるのか、意外なほどに優しかった
ので、彼らは楽しく過ごすことができた。
やっと三話目です。依頼をあんまりしている様子を
書かなかったので、今回三部でやってみます。