清らかなる少女のために
ギルドメンバーはようやく外に出ることができた。
今まで閉じ込められていたので、外の新鮮な空気が
心地よい。サヤ=ライリーは自由になれたのが嬉しくて
そこらじゅうを走り回って皆にあきれられていた。
「やっぱいい空気だよなあ、外は!! 外バンザイ!!
外バンザイ!! やったああぁ!!」
「り、リーダーテンションがおかしいです!!」
思わず突っ込んだのは倉木ルカである。サヤはちょっと
紅くなって大人しくなった。よっぽどあの『科学者ギルド』
が嫌だったのだろう。まあこの中の全員があそこを嫌いだが。
「リーダーちょっと落ち着けよ」
「うるさいよ、サヤ。もうちょっと静かにしてよ」
続いてエリオット=アディソンとシオン=エレットも突っ込む。
うるせえとサヤは怒鳴ったがやっぱりその顔は真っ赤だった。
他にここにいるのは、夕顔、ゆきな、吾妻夙、ルーン、
イルク=タルデア、アニタ=リスキール、ルミア=ラキオンである。
イルクとアニタは元気がなくうつむいたまま一言も口を利かない。
ギルドメンバーと子供二人は無事に逃げだすことができた。
だが、出口を教えてくれた功績者はこの中にはいない。
彼女はまだ中にいるのだ。そして、ロッカ=ロッタとルイア=ラクレンサも。
「とりあえず一旦引き返さないか? 一旦立て直して戻ってこよう」
「やだ!! あの子を置いていきたくない!!」
「そう簡単にここにこれるわけじゃないんでしょ!?」
エリオットの言葉に異を唱えたのはイルクとアニタだった。親友でもある少女、
自分達のために出口を教えてくれた彼女の事を見捨てたくないのだろう。
「おい、わがまま言うなよ。オレだってあの子を見捨てたくなんかない。だけど、一度
帰らないと戦えっこないって」
「「だって!!」」
「……あ、あの、さ」
文句を言う二人を遮るようにサヤが手を挙げた。怪訝な顔になるエリオットを
しっかりと見つめながらサヤが口を開く。緊張で口がからからになった彼女の手
をルカが取った。
「オレも、このまま帰りたくない。いや、帰っちゃいけないんだ。
リーダーとして命令する。オレ達はここであの子を探して連れ帰るんだ」
「サヤ!!」
「エリオット。今日は反論は許さないぜ。危険かもしれない、だけど本当に
このままでいいのか!? あの子を、見捨てちゃってもいいってのかよ!?」
「それは……!!」
サヤに睨みつけられたエリオットが言葉に詰まる。イルクとアニタの表情が
ぱあっと明るくなった。しかし、サヤは子供二人をも睨みつける。
「お前らは帰れ」
「な、なんでですか!!」
「納得がいきません!!」
当然子供たちは文句を言ったが、サヤは優しい顔になると二人の髪を幾分
乱暴に撫でた。目を白黒させる二人を目をしっかりと見つめて言う。
「お前ら傷つけたりしたら、あの子に合わせる顔ないだろ。ルーンも残れ」
子供二人は渋々帰ることを認めた。ルーンはさんざん嫌だと駄々をこねたものの、
サヤの反応は変わらず帰る羽目になった。
「大丈夫、絶対にあの子は連れて帰るから」
サヤは最後に三人に笑顔で語りかけると、六人を従えてまた中へと戻って
行った――。
その頃、『守護姫』と呼ばれる少女はふわふわとギルド内をただよっていた。
ここでの生活は暇だった。実験体の協力に携わる以外を彼女はすることはできない。
夜な夜なさ迷いだす癖ができたおかげで『幽霊』と勘違いされることもある
くらいだ。赤みが差さない肌の色もそれに輪をかけている。あの子たち、
イルクとアニタ、そして彼らの協力者達は無事に脱出できたのだろうかと守護姫は
考えた。たいしておいしくもない食事をとり、実験体に協力し、そして何もする
ことがなくなってあたりをさまよう。それが彼女の生活だった。幽霊ではない。
しかし、彼女は魂が体から抜け出た存在だった。そうしなければ訳あって外に
出ることができないのだ。自力では歩けないから、いつも魂を体から引きがして
外に出ている。もっとも、魂はきちんと体につながっているが。
そうでなければ体に戻れたりしない。ここから出たいという想いは等に諦めた。
守護姫はもういつからここにいるのか覚えていない。かなり長いこといるのは
確かだ。守護姫はどこにどの施設があるのかよく知っている。けれど、自分の部屋
がどこにあるのかは知らない。あの部屋は気持ちが悪くて平成ではいられない。
だから自分の部屋を知らない。だからここから出て行くことができない。それに何より、
体は自分の部屋から出ることができないからだ。サヤ達が自分を助けようとしている
事など露知らない彼女は、サヤ達の平安を心から祈るのだった――。
サヤ達がギルド内に戻って守護姫を探す決意を
固めます。しかし、守護姫は部屋から出ることを
諦めてしまっている。彼女は一体どうなるのか!?
そして彼女が部屋から出ることができない理由とは!?
次回もよろしくお願いします。