科学者ギルドを探せ
その日はいつものように始まった。
ギルドリーダーであるサヤ=ライリーは、
あくびを噛み殺しながら食卓についた。
夕顔が笑顔でその前に少し冷ましておいた
スープを置き、寝癖がついていると吾妻夙
が注意をして嫌な顔をされる。
「おはようございます、リーダー!!」
倉木ルカが笑顔でやってきた。
少しだけその顔が赤くなり、サヤは
小声でおはようと返す。
エリオット=アディソンがそれを
からかい、さらに紅くなった彼女に殴られた。
「おはよう……」
シャワーを浴びたばかりなのか、花の匂いを
そこここに散らばらせているルイーズ=ドラクール、
同じような匂いのルーンとルミアも入ってきた。
シオン=エレットはまだ起きて来ていない。
彼がそろえば全員なのだが……。
「ルー、シオン知らないか?」
ルーに聞いてみたが、彼女は首をかしげるだけだった。
いつもはもう起きている頃なのに、と夕顔がふくれっ面である。
と、扉が乱暴に開けられ、入ってきたのは、
当のシオンだった。服が血に染まっていることに気付き、
ルーが当惑しながら立ち上がる。
だが、シオンは手を振って自分の血ではないと示した。
「大変だ!! また、『科学者ギルド』の被害者が出たんだよ!!」
良く見ると、シオンは二人の少年と少女を抱えていた。
血はどちらかのものなのだろう。
夙が慌てて近寄るなり容体を見た。
かなり真剣な顔が、しだいに和らいでいく。
血の量はかなりあったが、命に別条はないらしい。
「シオン、何があったのか、話してくれよ」
血をぬぐった後夙が止血し、少女たちはルーとサヤが
使っていない部屋に運び込み、血にまみれた服は
夕顔今現在洗濯している。
着替え終わったシオンは、サヤに問われて口を開いた。
「僕は朝早く起きたから散歩に行ってたんだよ。
そしたら、この子たちが森に倒れてて、『科学者ギルド』の
名前を口にしてた。だから連れ帰ったんだよ。
それ以上のことは分かんないよ、僕にも」
シオンは自分の知っていることすべてを話した。
怪我をしていたことも、そのギルドの連中と
何があったかもわからないらしい。
「また、何かやらかしてくれたのね、あいつら……」
ルミアが憎々しげにそう言った。全員も同じ反応である。
当然だ。全員が、そのギルドの被害者なのだから。
特にサヤの反応は今にも倒れてしまいそうなほどだったが、
ルカが手を握ってやると落ち着きを取り戻した。
ルーはその様子を見ても、もう嫌な気持ちにはならなかった。
「ちくしょう……こんな小さい子まで被害者に仕立てるのかよ」
エリオットの舌打ちがその場に響く。いつもならそれを
咎める夙も、今日だけはそれを叱ったりしなかった。
「あの……」
か細い声が聞こえてきた。ぎょっとなり、扉の方を見ると、
髪を二つ結びにした女の子がよろよろとしながら立ちあがっていた。
隣には少年もいて、同じくふらふらな様子である。
「おい、まだ寝ていろよ」
サヤは眉をひそめると、少女たちに幾分乱暴に言った。
少女は首を振り、体をささえる杖をさらに強く握った。
「ここ、ギルドなんですよね!? お願いです!!
私の友人を助けてください!! お願いです!!」
珍しい黒髪がしゃべるたびに揺れ動く。
同じ色の目には涙がたまり、切羽詰まった様子で
少女は叫んだ。少年の方も、武器で体を支えていて
こちらまで歩み寄ってきた。
「お願い、アニタの依頼を受けてください!!
……お金はあまり、ないけど、働いて返します!!
どうか、助けて僕達の友人を!!」
言った後で、ふらついて二人はルーとサヤに
抱き起こされた。かなり急いでいる様子である。
「何があったのか、話してくれるか?」
「依頼を受けてくれるんですね!!」
アニタと呼ばれた少女の顔が輝いた。
サヤが黙って顎を引き、少女と少年を椅子に座らせる。
洗濯を終えて戻ってきた夕顔とシオンが
お菓子とお茶を出したけれど、二人は口をつけなかった。
「私たちは、奴隷です。妖怪と人間の間の子と
して生を受けました。その友人は、純血です」
アニタはためらいがちに話し始めた。
サヤの顔から血の気が引き、ルカが慌てて手を握る。
「僕たちは実の親からギルドに引き渡されたんだ。
だけど、そのギルドはひどいものだった……。
僕達は殺されそうになって逃げてきたんだ」
その後は少年が話した。名前を聞いたところ、
少女がアニタ=リスキール、少年がイルク=タルデアというらしい。
ちなみに、アニタは魔女と猫魔の子供、イルクが
人間と妖狐との間の子だった。
そして、純血の子は珍しい天使族だという。
天使族ははるか昔に滅びた文明の生き残りだ。
ハーフはともかく、まだ純血がいたとは。
「その子は売られたらしいの。私たちが来た時にはすでにいたわ。
その子、純血だけど私たちに優しかった。差別なんて、しなかった」
差別されて当然だと思って生きてきたのだろう。
サヤは自分の過去とアニタたちの姿がかぶり、ひどく同情的な気持ちになった。
「あんないい子があんなひどいところにいるなんて、駄目だよ。
彼女は僕達を助けてくれた。だから、今度は僕達が彼女を助けたい!!」
サヤは全員を振りむいた。決意に満ちた瞳が見つめてくる。
まだ正直怖い。だけど、仲間がいる。いつまでも逃げていてはだめだ。
絶対にあんな記憶、乗り越えて見せる。
「『ホラーギルド』はその依頼、しっかり受け取ったぜ!!」
サヤの言ったことを聞くなり、安心したのか少年たちは
気を失うように眠ってしまったーー。
再びギルドの被害者が現れた。
サヤたちはギルドの本部に
乗りこむ決意を固める。
新章突入です。
次回もよろしくお願いします!!