狼少女の想い
サヤ=ライリーは、せっぱつまったような、
怒られる子供のような顔をしてギルドに
帰ってきた。倉木ルカも一緒である。
サヤは同じギルドメンバーのエリオット=
アディソンに言ったことを後悔していた。
かなりひどいことを言ってしまったのだ。
「リーダー、僕が代わりに謝りましょうか?」
「ううん、俺が行く……」
サヤの顔は青ざめていたが、決して
逃げたりはしなかった。
その代わりのように、
ずっとルカの手を握って
震えていたけれど。
もちろん怒られるのが怖いからではない。
彼に嫌われるのが、拒絶されるのが
怖いのだ。
「あ、エリオット……」
と、そこに当の本人がやってきた。
まっすぐにサヤを目指して歩いている。
サヤはびくっ、と身をすくませ、
握った手に力が籠った。
ルカは手が痛くなったけれど、
その痛みにたえて動かなかった。
「え、エリオット、あの……」
「サヤ……」
二人はしばらく見つめ合った。
お互いに動かず、時間ばかりが
過ぎていく。と、二人は
同時に口を開いて言葉を発した。
「「ごめんっ!!」」
サヤたちは驚いたように
再び見つめ合った。
「「え……?」」
二人はお互いに譲り合うような
行動を見せた後、何度か言い合い
になり、結局サヤが押し切られて
話をすることになった。
「ごめん、エリオット。俺、
言いすぎた。俺のためを
思ってくれた、って分かってたけど」
紅い目が水分を含んで潤む。
ルカの手を握る手の力が弱まり、
慌ててルカは少し力を込めた。
「俺も悪かったよ。無神経だった。
俺、ハーフじゃないもんな。
お前の気持ちなんて分かる訳
なかった」
サヤは何も言わずに首を振った。
目から流れた涙がポタポタと
床に吸い込まれていく。
「そんなことない、そんなことないよ」
こうして二人は仲直りすることができた。
一方、魔導師のシオン=エレットは……。
落ち込んでいた。ルーことルイーズ=ドラクールは
部屋にこもって出てこない。水とごはんだけを
夕顔が差し入れて、後は放っておいてあった。
エリオットとサヤが無理やり部屋から
出そうとしたところ、返り討ちにあったのである。
「ルー……」
シオンは彼女に口づけし、自分の想いを告げた。
だが、彼女はその日から部屋にこもってしまったのだ。
呼んでも扉を叩いても出てこない。
食事は少しは減っていることから、生きているとは
思うが……。それでもシオンは心配だった。
そこで、シオンは自分の術を最大限に
利用してルーの部屋の窓からの侵入を試みた。
シオンの最大の技、空中浮遊。
鍵はしまっていなかったので、シオンは
あっけなく部屋に入ることができた。
「すう……すう……」
部屋の主は健やかな寝息を立てながら
眠っていた。何かいい夢でも見ている
のだろうか、その顔はどこか嬉しそうだ。
「シオン……」
シオンのはぎょっとしたように
窓辺によりかかった。バレたかと思ったが、
彼女はまだ目を覚ましていなかった。
彼の名前を呼んだのは、寝言だった
ようである。シオンは紅くなり、
かわいらしい寝顔をながめていた。
とーー。
「んー? サヤ~?」
手が伸びてきたかと思うや、
それはシオンの体を引き寄せて
ベッドに倒れ込ませた。
シオンは逃げようと試みたが、
あまりに力が強くてできない。
寝ぼけている彼女はすっかり
親友のサヤだと思っているらしく、
シオンを放してくれるきざしさえ
なかった。ドキドキと鼓動が速くなる。
すぐ横に、彼女の顔と体があり、
今シオンは彼女に抱きしめられて
かなり密着している状態なのである。
(るうううううっ。しっかりしてくれよ
僕はサヤじゃないんだああああっ!!)
思わず心の中で叫ぶけれど、もちろん
彼女には届かない。
と、その時だった。
「くしゅんっ!!」
ルーがくしゃみをしたのである。
目が開き、その目が一点を見つめた。
「きゃああああああああああっ!!」
大絶叫が響き渡り、シオンは無情にも
ベッドから蹴り落とされ、しかも顔に
平手打ちまでされた。
「最低!! 何してるのよ、馬鹿っ!!」
「引き込んだのはルーの方だぞ!!
サヤと間違えて僕を……!!」
「勝手に部屋に入ったのは誰!?」
「うっ。それは……」
ルーはそこで、はあはあと息を
切らせてしまっていた。最低限の
食事しかしていなかったので、
体力がもたなかったのだ。
「でも、心配だったんだよ」
「シオン……」
ルーは少し気分をよくして、
ベッドから起き上った。
ずっと彼のことを考えていたのだ。
ルーにとって彼は友人であり仲間で、
一人の少年として、異性として見たことなど
なかった。その彼がいきなり告白してきたのだ。
かなり悩み、ルーはその答えを導き出したのだった。
「私、シオンのこと仲間としか思ってなかった。
だけど、シオンの気持ち嬉しかったし、
まだ分かんないけど、付き合ってみる?」
「はああっ!?」
気の抜けたような声を上げたシオンは、
じろりとルーに睨まれたが、それも
無理はなかった。まるで一緒に買い物でも行く?
と聞くかのような気軽な気持ちで言われたのだ。
「何よその反応!!」
「ふつうはそう返すだろ!! 何でそんな何でも
ないような声で付き合うとか聞けるんだよ。
馬鹿だろお前馬鹿!!」
「バカってなにようっ!! 好きとかって
よくわかんないんだから仕方ないでしょっ!!
だいたいシオンがもっと早く言わないから!!」
「人のせいにするな!!」
真っ赤になりながらもお互いを罵りあう姿を、
サヤたちはほほえましそうに見ていた。
投稿するのに時間がかかって
すみませんでした。
シオンたちの恋愛も少しずつ
書いてく予定です。