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ホラーギルドへようこそ!!  作者: ルナ
狼少女と魔導師の恋
14/28

狼少女と天邪鬼の息子の買い物 前編

 サヤ=ライリーは、布団を深くかぶって

中で震えていた。あの状況は、小さい頃、

子供たちを殺してしまった状況と同じだった。

 何故か、血を見ると頭が真っ白になってしまうのだ。

そして、気づいたら何かを殺している。

 怖かった。自分で自分が怖かった。自分の力が怖かった。

誰かを、大事な仲間を傷つけてしまうかも知れない。

 そのことが、たまらなく怖い。

「……っく!! もうやだよう……殺したく何て、ないよう……」

「リーダー?」

 サヤはぴたりと泣きやみ、顔を服の袖でぬぐった。今、一番

会いたくない相手である。この前の仕事で、サヤはルーンと倉木ルカに

失態を見せたのだった。これ以上の恥をかきたくなくて、必死で

泣き顔を見せないようにしている。

 だが、声が震えているのでバレバレだった。

「……んだよ、何か用かよ?」

 ルカは許してもいないのに、勝手に部屋に上がり込んできた。

サヤはムッとなって殴りかかろうとしたが、まだ涙の痕が

残っているのを思い出してぐっとこらえた。

「泣いてるんですか、リーダー?」

「泣いてねえよ」

「嘘です。声が涙まじりですよ」

 サヤは舌打ちした。ルカはいつになく冷静だ。

彼の顔を見たら、また泣いてしまいそう気がして、

彼女はいらいらしていた。早くどこかへ行け、と

心の中で願う。しかし、ルカは出て行かなかった。

 それどころか、サヤが寝ているすぐ隣に座っている。

「出ていけよ。リーダーの命令だぞ」

「いやです」

「出てけって!! ……泣き顔見られたくないんだよ」

 サヤは怒鳴りつけると、涙でぬれた紅い目でルカを睨みつけた。

ルカはひるまず、布団を引っ張ってサヤを引きずりだそうとする。

 サヤは抵抗したけれど、力が入らず、ルカに布団を取り上げられてしまった。

「何なんだよ、バカッ!! 俺のことはほっとけよ!!」

 サヤは子供のように手足を振りまわした。

「エリオットさんに命令されたんですよ。俺は影のリーダーだから

言うこと聞けって」

「はあ!? 何だよ影のリーダーって!!」

 途端にサヤはふくれっつらになった。ルカは小さく笑い、

彼女の鮮やかな髪にそっ、と触れた。サヤはもう抵抗しなかった。

「エリオットさんは、僕の背中を押してくれたんですよ。

僕が、リーダーが心配なのに行動できなかったから」

「……心配してくれたのか?」

「そうですよ!! あ、でも、僕だけじゃないですよ?

 他のみんなも心配してます……」

 結局、サヤの紅い目には涙が浮かんでしまっていた。

悲しい涙ではない、嬉し涙だ。サヤは必死で声を押し殺した。

「何だよ、結局泣いてんのか、サヤ」

 続いて部屋に入ってきたのは、話に上がっていた、

エリオット=アディソンだった。

 サヤの髪を乱暴にかきまわし、彼女が悲鳴を上げる。

「ちょっ! 痛い痛い痛いエリオットぉ!!」

「みんなに心配かけた罰だ。ちゃんと、嫌なこととか

心配なこととかあったら、説明しろよな」

「うっせえ!! 言いたくないことだってあるんだよ!!」

「何だと?」

 エリオットの目が険しくなった。サヤの頭に当てた手に、

かなりの力が込められる。あまりの痛みにサヤは再び涙ぐんだ。

「やめてください!!」

 ルカが二人を引き離し、エリオットは舌打ちする。

「何が分かるんだよ!! ハーフでも何でもないあんたに、

何が分かるんだ!!」

 サヤの力が不安定なのは、混血のせいだった。

人間と人狼ルー・ガルーとしての力が、

サヤの力を安定させない。混じり合った血が、

最悪の形で作用していた。普通、そういうときは片親が

教えるのが常だが、サヤの親はどちらかが教える前に

なくなってしまった。だから、サヤは血の抑え方が

分からないのだ。

 エリオットは黙っていた。その顔はどこか悔しげである。

「リーダー外出ましょう」

「え?」

「話なら僕が聞きます。僕は、リーダーと同じですから」

 サヤは同じことを言う訳にもいかず、黙り込んでいた。

言い返すことができない。ルカは最後にエリオットに合図

を送り、彼の顔が少し和らいだ。


 サヤとルカは、町の市場にやってきた。食べ物・服、

何でも売っていた。サヤはひさしぶりの外出に、

笑顔になっている。ルカは少し安心した。

「なんでも買いますよ。何がいいですか?」

 この前の依頼で給金をもらっていたので、小金持ちな

ルカは笑顔で言った。ちなみに、サヤは大食いなので、

もらった金はすべてお菓子に変えてしまっていた。

「まだ残ってんのか、すげえなあ」

「一日で使ってしまうのは、リーダーだけですよ」

 仲むつましげな彼らを見張っている、二つの影があった。

その一つは、壊れた仮面を手に持っていたーー。


 ルイーズ=ドラクールとシオン=エレットは、

サヤたちを見張るために外出していた。

 ルーは頬をふくらませて二人を見ている。

「ちょっとくっつきすぎよ、二人とも!!」

「あのさ、ルー。こういうの、よくないんじゃない?」

 付き合わされたシオンは、困った顔をしていた。

この前壊された仮面は、修復がされていなく、

今日は素顔で歩いている。赤面症なのも相まって、

顔がひどく紅かった。

「何よ、シオン!! 止めなかったじゃないの!!」

「止めようとしたけど、ルーがさえぎったんじゃないか……」

 ルーはどなり返そうと口を開いたが、くらりとなって

その場に膝をついた。最近仕事ばかりで、一切の〝食事〝を

していない。ルーの命の源は、血液なのである。

「ルー!! しっかりしろ!! 血なら僕のをやる!!」

「えっ!?」

 シオンはルーの手を掴み、自分の近くに引き寄せた。

ルーが彼に飛びつき、あらわになった首筋に牙を突き立てる。

「う……あ……」

 予想外の痛みに、シオンは声を殺しきれずに声をもらした。

ごくりごくり、とルーが血を飲む音が耳を震わせる。

 彼女はただ食事を楽しんでいるだけだ。そう思うのに、

恍惚としたような目の輝きを見ていると、シオンは思わず

愛しさを感じてしまうのだった。

「ふうっ。お腹一杯……」

 と、ルーはようやくシオンから離れた。いつもは青白い

頬が、血液を取ったばかりなので少し赤味がさしている。

「ありがとね、シオン……きゃっ!!」

 シオンはぐいっと再びルーを引っ張った。いくら力の強い

彼女でも、とっさのことには反応できずに、引き寄せられる。

 シオンは彼女の唇にキスをした。

甘い熱が二人を支配する。焼けつくように唇が、体が熱く

感じた。ルーはしばらくあまりの心地よさに動かなかった

けれど、正気に返ってシオンを突き飛ばした。

「な、何するのよっ、いきなり!!」

「好きだ……」

「何!?」

「ルーが、好きだ……」

 ルーは訳が分からなくなった。シオンが、私を好き?

ずっと仲間だとしか思っていなかったシオンが?

 顔が赤らんでくるのがはっきりと分かる。

ルーは泣きそうな顔でシオンを見つめるとーー。

「おい、ルー!! 返事は!?」

 そのまま身をひるがえし、暁の色に似た翼を

広げ、逃げ出したーー。



ルカとサヤのデート模様は、次回にやります。

今回は進みだしたルーとシオンの恋愛を

見てやってください。

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