思い出してきたこともあるよね
いつ頃戻れるかとか、なんで私が異世界人だって分かったとか、そういうことはあの夜もそれ以降も聞かなかった。多分その時がくれば分かるんだろう。多分。
そして悩みの大部分が解消された私はどんどん元気なっていった。
もとより自分はバイタリティーのある方だ。
自由時間である午前は、釣りをしたり、浜辺で海の幸を取ったり、食料を探すことに力を注いだ。
ただでさえ食い扶持一人分増えているのだ。
これくらいはしたい。
街の人とも仲良くなった。
とても陽気で、踊ることが好きな人たち。
祭りの日は特に盛大で、朝まで笑いが止むことがなかった。
そんな人たちに囲まれて、笑うことが多くなった気がする。
みんな私に何かを急かしたり、何かを期待したりなかった。住民だったらまた違うかもしれないけど。
私はすっかり気を抜いて、毎日を楽しく過ごしていた。
月が綺麗な夜だった。
ちなみに異世界の月は二つだった。
この世界では、双子月と呼ばれている。
なんだか身体がざわざわして、聖堂に向かった。
そこにはあの日の夜と同じようにルゲラ司祭がいた。
ルゲラ司祭の微笑みを見て唐突に理解した。
この日が来た、と。
「ニカさん、手を」
手を差し出すと、ルゲラ司祭が聖堂でよく配るお守りくれた。普通と違うのは、多分銀で出来ていることだ。
言葉が詰まって、小さく「ありがとうございます」と言った。
ここでの思い出が去来する。
もう、二度と来ることは出来ない世界。
穏やかな暮らし。
優しい人たち。
私は無理やり微笑んだ。上手くできているか分からない。
「さようなら」
「さようなら」
気が付くと、私は玄関の前にいた。




