どうしようもないことってあるよね
寝苦しくて、寝起きが悪かった。
窓を見ると雨で、びしゃびしゃと土が水に打たれる音が聞こえる。
土砂降りだ。
こういうときの為に、井戸汲みは余裕を持って行われる。
この地域は、ある時期は特に雨が多いらしい。
雨のせいでなんだか憂鬱だ。
今日は聖堂の掃除をする。
箒で床を掃いていると、憂鬱な気分も忘れられる気がした。
「大丈夫ですか?」
「ハルさん、大丈夫です。多分?」
少しおどけて言うと、ここの修道女をしているハルさんが心配そうな顔をして、「無理しないでね」と言ってくれた。
雨の打撃音が凄い。元の世界だったら絶対音楽流していたな。
そんなとき、ふと思った。
私は元の世界に戻りたいのだろうか?
それはもちろん、そうだ。全てを捨てる覚悟をするのは、あまりに愛しすぎたものが多すぎた。
でも、元の世界に帰ったとて、特にやりたいことがあるわけじゃない。
帰れると分かった訳じゃないし。
やっぱり、ここで生きていくことを考えた方がいいのだろうか。
悩みは深まるばかりだ。
夜、雨足はますます強くなって、嵐を思わせる。
私は眠れないでいた。
聖堂の方へ向かう。
偶像の前で、ルゲラ司祭が祈っていた。
「こんばんは」
「こんばんは、こんな夜更けに。寝れませんでした?」
「まあ、はい。そんなところです。ルゲラ司祭は?」
「私もそのようなものです」
お互い長椅子にとりとめのない話をした。
しばらく時間がたった後、ルゲラ司祭がためらうように聞いてきた。
「ニカさん、旅立ちの予定は…?」
「あ、えと…」
私の様子に、ルゲラ司祭が口を大きく開けて笑う。
「いいです。いいんですよ。分かっています。分かっています」
何を分かっているのか、ルゲラ司祭は明言しなかった。でも、分かる。異世界のことを言っているんだと。
ルゲラ司祭は私の目を真っ直ぐ見つめた。ハシバミ色の綺麗な瞳だ。こんなに純粋で、切実な瞳がこの世にあるのか。
「大丈夫。あなたは戻れます」
気が付いたら、ベッドに横になっていた。
意識が落ちる間際、お守りのようにルゲラ司祭の言葉を反芻した。
「大丈夫。あなたは戻れます」「大丈夫。あなたは戻れます」「大丈夫…




