第二話 生きてる証
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翌朝、村の鐘の音で目を覚ました。
剣だった頃、朝なんてものはなかった。
眠る必要もなかったし、目覚める必要もなかった。
「早いな...朝か...」
そう呟いて、自分の声に驚く。
“声を出す”ということに、俺はまだ慣れていない。
ベッドから起き上がろうとすると、脇腹がずきりと痛んだ。
「っ!」
無意識に歯を食いしばる。
痛み。
それは、キーナが俺によく言っていた言葉だ。
「痛みってのはさ、今を生きてる。そのことを伝えてくれることなんだよ」
――痛みは、生きてる証だ。今なら分かる。
部屋のドアがノックされる。
「ハレさん、体調は大丈夫ですか?」
レイの声だった。
「あぁ、かなり良くなったよ」
「よかったです!あと、朝ごはん持ってきました」
木製の盆に、白いお粥と、味噌汁。
剣だった頃、味なんて分からなかった。今は、匂いだけで腹が鳴る。
「食べていいのか?俺は、何も...」
「いいんですよ。早く体力つけて元気になってもらわないと」
スプーンを持つ手が、少し震える。
食べ物を“自分で”口に運ぶのが、妙に難しい。
「うまい」
ふと出た言葉に、レイが笑った。
「でしょう?教会の畑で採れた野菜です」
外を見れば、確かに畑があった。
「今日は無理しないで、外を少し歩くだけにしましょう」
「……歩く、だけか」
それだけで、修行のように思える。
食事の後、レイに支えられて外へ出る。
土の匂い。
風の冷たさ。
鳥の鳴き声。
全部、“世界に触れている”感じがした。
「……なあ、レイ」
「はい?」
「俺は……しばらく、ここにいていいんだよな」
「もちろんです。行く場所、ないんでしょう?」
一瞬、言葉に詰まる。
「……ああ」
本当は、行く場所はある。
“王都”だ。
“ライツ”がいる場所。
だが――今の俺は弱い。
剣でもない。
英雄でもない。
ただの、怪我人の子供だ。
「……力を、取り戻さないと」
「え?」
「いやなんでもない。独り言だよ」
教会の庭で、風に揺れる木を見ながら、思う。
この体で、この世界で、俺は何ができる?
剣だった頃の技。無属性魔法。
誰にも使えない力。
――なら、俺が使えばいい。
夜。教会は静まり返っていた。
レイは隣の部屋で寝ている。
足音も、話し声もない。
「……今しかないよな」
俺はそっとベッドを抜け出した。
傷はまだ痛むが、昼よりはマシだ。
向かったのは、教会の裏手。
使われていない古い物置小屋。
扉を開けると、埃っぽい空気が鼻を刺す。
「……ここなら、多少派手にやってもバレないだろ」
壁際に立ち、深く息を吸う。
剣だった頃、魔法は“振る”ものだった。
今は、“流す”感覚に近い。
胸の奥にあるものを、意識する。
(……ある、な)
まだ小さい。
だが、確かにある。これが……俺の魔力か。
手を前に出す。そして、魔力を使い、透明な剣を創り出す。
「一斬・一閃」
空を、なぞるように剣を振る。
ザン、と乾いた音がした。
何もない空間に、白い線が走る。
次の瞬間、棚の上にあった花瓶が、
“真っ二つ”に割れた。
「……」
俺は自分の手にある剣を見る。
「……使えたな」
魔力は、減っていない。
感覚も、剣だった頃とほぼ同じだ。
「じゃあ……次」
息を整える。そして発動させる。
「二斬・又旅」
一歩、踏み込む。
トン、と床を蹴り、剣を突く。
刹那、目の前の空気が“突き抜ける”。
ズガン、と鈍い音。
奥の壁に置かれていた木箱が、表と裏、同時に穴を開けて崩れた。
「……貫通、か」
防御無効。間違いない。
少し、胸が高鳴る。
「……三斬」
剣を地面に突き立てる。
「――不壊」
透明な“剣”が俺を囲むように現れた。
触れると、
確かに“硬い”。が、まだ軟い。
「……盾、も出る」
一斬から三斬。
魔力消費、ほぼゼロ。
剣だった頃と、同じ。
「……やっぱり、使える」
だが――
次が問題だ。
四斬。
床に剣を振り下ろす動作を取る。
「――四斬・海峡」
振った瞬間、胸の奥が、きゅっと締め付けられた。
ゴォンッ――!!
物置の床が震える。
衝撃波が走り、壁が一部、粉々に砕け散った。
使えはした。が、キーナが使っていた時のものと比べれば、弱すぎる。
「……っ」
息が、少し重い。
(……これが、魔力消費)
汗が、背中を伝う。
「……五斬は、やめとくか」
ここで撃てば、
確実に気づかれる。
俺は深く息を吐いた。
「……よし」
確認は終わりだ。
1〜3斬:問題なし
4斬:使用可 だが、少し危険
6斬以上:使用が確認できていない。
この体は、“剣の頃の俺”ほどの魔力を持っていない。
「……鍛えないとな」
その時。
「……ハレさん?」
背後から、声がした。
「っ!」
振り返ると、
ランプを持ったレイが立っていた。
「……物音がしたので……」
割れた木箱と、壁の穴。
言い逃れはできない。完全にアウトだ。
「えっと、見てた?」
「今の、魔法……ですよね?」
レイの目は、怖がるよりも、
"驚き"で見開かれていた。
「……見ちゃったか」
「……はい」
少し、沈黙。
「……無属性魔法だよ」
「え……」
レイの顔色が変わる。
「……使い物にならないって、言われてる魔法だ」
「……でも……今の……」
レイは壊れた壁を見る。
「……すごかったです……」
俺は、少し笑った。
「……だから、隠してた。悪いんだが......」
「わかってますよ。誰にも言いません」
「ありがとう。そうしてもらえると、助かる」
月明かりが、床を照らす。
その床に浮かぶ影は......。
作者が少し風邪をひいてしまい。更新が遅れました。すみません。
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