第0話 剣の勇者は死んだ。
ーー嫌な予感が、頭の中で反響する。
魔王討伐の為、魔王城へと向かう森の道。
九人の勇者が一列の中で、俺ーー剣のハレは、主であるキーナの腰に掛けられていた。
「なあハレ、森が静かすぎる」
キーナが俺にかける言葉は普段より少し低い。
確かに、森のざわめきが聞こえない。
唯一あるのは、九人が鳴らす足音だけ。
『気を付けてキーナ。...嫌な予感がするよ。』
俺はキーナに思念で返事を返した。
キーナは少し笑い、
「お前がそんな弱音を吐くようじゃ、相当だな。」
九代勇者。それぞれがとてつもなく大きな武功を立てた英雄。
その英雄が今この場にいる。
全員が頼りになる存在で、心強いはずだった。
ーーなのに...。
キーナの背後で空気を切る音がした。
キーナが振り向いたその時、
背中に、凄まじい痛みが走った。
「ぐっ!」
背中から血が吹き出す。
『キーナッ!?』
俺が叫ぶより早く、今度は左右から炎の矢が襲ってきた。その上、地面には拘束の魔法。
キーナは、炎の矢の、魔法を切る。
そして、拘束の魔法の陣内から転がり出る。
攻撃してきたのはーー
「...お前ら.........っ!?...一体、何故...」
目の前にはさっきまで並んで歩いていた"仲間"の姿があった。
俺は思念で言った。
『大丈夫か!キーナ!』
「あぁ、刺された所は否定で応急処置した!恐らく大丈...。」
キーナは吐血する。
「確かにっ、否定で治したはずだっ!なんだ、これはっ!」
そこでようやくキーナを刺した張本人、光の勇者、ライツが口を開く。
「ほぉ、まだ喋れるか。流石の否定でも剣に塗った猛毒は癒せなかったようだな。剣なんて、使いたくないんだったんだがな」
「なんでだよ!仲間だろ!俺たち!笑い合ってきたじゃないか!」
キーナは血を吐きながら怒鳴る。
「うるせぇな、俺らは誰1人、お前を仲間だと思ったことねぇよ。何故、ね。...そうだな。私情はあるさ、王様の命令もあるしな」
炎の勇者は嘲りながらキーナに話す。
「てなわけだ。悪いな。死んでくれ、キーナよ!」
一斉に、魔法陣が展開された。
『逃げてっ!キーナ!』
俺は叫んだ。
しかしキーナは逃げなかった。
俺を支えに震えながら立ち上がる。
「なあ、お前らの私情ってなんだよ」
あたりに静寂が訪れる。
そして、様々な属性の魔法がキーナに降り注ぐ。
キーナは地面に叩きつけられ、俺を手放していた。
「そうだな...。王様も言ってたんだが、お前、強すぎたんだよ。俺たちはこの国の象徴になりたいんだ。だから、お前、邪魔なの。」
勇者はキーナたちから離れていく。
「それだけの攻撃を喰らい、尚且つ猛毒に体を侵されてるんだ。せめてもの情けだ。トドメは刺さないでやるよ」
理解ができない。
キーナが何をしたっていうんだ。
魔物を殺し、人を助け、人からはなにも奪っていない。
少しして、残されたのは俺たちだけだった。
キーナは、血溜まりの上に倒れている。
ーー死んでいない。まだ。
微かだが,息をしている。
『キーナ......』
俺は震えながら呼び掛ける。
キーナは薄く目を開けた。
「...ハレ...か...」
その声は今にも消えそうなほどに小さかった。
「...なあ...」
『もういいっ!しゃべらないで!』
「いや...いい」
「...お前もわかるだろ...長い事一緒に過ごしたんだからな......もう手遅れだ...」
『まだだよ!諦めちゃ...!』
キーナが涙を流す。
「ごめんな...ハレ...ごめんな...」
『なんで謝るんだよ!』
「もっと...いろんなところに連れて行きたかった...もっと...知らない景色を見せてやりたかった...」
キーナの声が、かすれる。
「...ハレ...もし来世があるんなら......」
『...キーナ...』
「俺の分まで...精一杯生きてくれ......」
キーナは自身の持つ全ての力をハレに注ぐ。
「お前は...生きろ!」
その言葉を最後に、キーナの全身は灰になった。
ーーキーナが死んだ。
その場には剣が残った。
もう何も聞こえない。
何も感じない。
だが、胸の奥に、
焼けるような何かが残った。
怒り?悲しみ?
違う、全てだ。
『...許さない...」
誰にも向けることのない言葉を俺は呟いた。
裏切った勇者。私欲のために人を殺す王。
ーー必ず、暴く。
そして、復讐する。
俺を死ぬ時まで大事にしてくれた、勇者の為に。
その瞬間、視界が歪んだ。
意識が薄くなる。
ーーそうして。
目を開けると、ベッドの上に寝転がっていた。
俺は剣ではなかった。
「は?」
最初に目にしたのは、
"人の手"だった。
ーー二十年後の世界で。
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