第7話「王都への凱旋」
王都へ続く街道は、人で埋め尽くされていた。
先頭を歩くのはアレンとエリス。その後ろにはガルド率いる警備隊、そして数万に及ぶ支持者たちのデモ行進が続く。
彼らは武器を持っていない。代わりにプラカードや旗を掲げ、歌を歌っていた。
『自由を』『選挙を』『未来を』。
その歌声は地鳴りのように響き、大地を震わせていた。
王都の正門前には、王立騎士団が陣を敷いていた。
重装歩兵が盾を並べ、城壁の上からは弓兵が狙いを定めている。
空気は張り詰め、一触即発の状態だった。
「止まれ!これ以上進めば反逆とみなし、攻撃を開始する!」
騎士団長が拡声魔法で警告した。彼はかつてのアレンの知人、レオナルドだった。真面目だが融通の利かない男だ。
アレンは歩みを止めず、1人で騎士団の前に進み出た。
拡声器のスイッチを入れる。
「久しぶりだな、レオナルド団長。元気そうで何よりだ」
「アレン……貴様、何を考えている。民衆を扇動して内乱を起こす気か」
「内乱?勘違いしないでくれ。我々は陳情に来ただけだ。国王陛下に対し、正当な権利である『解散総選挙』の実施を求めるためにね」
「戯言を!そのような制度は認められていない!」
「認められているさ。建国王アルトリウスの名においてね」
アレンは背後の民衆を指した。
「見ろ、この数を。彼らは暴徒ではない。この国の主権者だ。君たちは誰を守るために剣を握っている?腐敗した一部の貴族か?それとも、ここにいる守るべき民か?」
レオナルドの眉がピクリと動いた。騎士団の中にも動揺が走る。彼らの多くもまた、実家は平民や下級貴族であり、現在の政治に不満を持っていないわけではなかった。
「彼らを見ろ!君の故郷の村の者もいるかもしれない。君の家族がいるかもしれない。その彼らに、君は矢を放てるのか!」
アレンの叫びが騎士たちの心をえぐる。
弓を下ろす者が現れ始めた。
レオナルドは葛藤していた。騎士としての忠義と、人としての正義の間で。
「団長!撃ってはなりません!」
副官が叫んだ。
その時、城壁の上から別の声が響いた。ダグラスだ。
「何を躊躇っている!撃て!全員射殺しろ!」
宰相が狂ったように叫んでいる。
その醜悪な姿を見て、レオナルドの中で何かが切れた。
「……騎士団、傾注!」
レオナルドが剣を抜いた。だが、その切っ先は民衆には向けられなかった。彼は剣を鞘に納め、一歩横に退いた。
「道を開けろ!」
その号令と共に、重装歩兵たちが左右に割れた。
巨大な門が、ゆっくりと開かれていく。
ワァァァァァッ!!
大歓声が上がった。
戦わずして勝ったのだ。民意が、武力を上回った瞬間だった。
アレンはエリスの手を取り、開かれた門をくぐった。
かつて泥の中に放り出されたあの門を、今は勝者として通過する。
「ただいま、王都」
アレンはつぶやいた。
だが、これはゴールではない。ここからが本当の戦いだ。王都という魔窟で、ダグラスとの直接対決が待っている。
選挙戦本番の火蓋が、今切って落とされた。




