第6話「闇からの刺客」
王都の宰相執務室。
ダグラスは報告書を握りつぶし、ワイングラスを床に叩きつけた。
「ええい、どいつもこいつも役立たずめ!アレンだと?あの追放した元役人が、なぜこのような力をつけている!」
リバーサイドでの敗北は、ダグラスにとって屈辱以外の何物でもなかった。自分の息のかかった市長が、平民たちの投票ごときで追放されたのだ。
「閣下、奴は『建国の契約』なるものを持ち出し、民衆を扇動しております。放っておけば、王都にも火が点くかと」
側近の男が青ざめた顔で進言する。
「魔法契約か……忌々しいアルトリウスの遺物め。だが、所詮は古臭いおとぎ話だ。力でねじ伏せればいい」
ダグラスの目は冷酷に光った。
「影の部隊を使え。事故に見せかけてアレンを消せ。それと、あのエリスとかいう小娘もだ。見せしめにしてやる」
***
その夜、改革党の拠点は静まり返っていた。
アレンは深夜まで作戦会議の資料をまとめていた。エリスは隣の部屋ですでに眠っている。ガルドは見回りに出ているはずだ。
ふと、アレンはペンを止めた。
静かすぎる。
虫の声が止んでいる。
「……来たか」
アレンは机の下に隠していた短剣を手に取った。行政官時代とは違い、今は常に命を狙われる立場だ。警戒は怠っていない。
窓ガラスが音もなく切り取られ、黒装束の男たちが滑り込んできた。暗殺者だ。足音1つ立てず、手慣れた動きでアレンに迫る。
3方向からの同時攻撃。逃げ場はない。
だが、アレンは動じなかった。
彼が指を鳴らすと、床に描かれていた魔法陣がまばゆい光を放った。
「なっ!?」
暗殺者たちが怯む。それは捕縛用の魔法罠だった。目潰しの閃光と同時に、粘着性の糸が彼らを絡め取る。
「お前たちの動きなど、想定内だ」
アレンは冷たく言い放った。
しかし、暗殺者の一人が無理やり糸を引きちぎり、毒塗りのナイフを投擲してきた。
躱しきれない――そう思った瞬間、金属音が響いた。
「させるかよ!」
ガルドが窓を突き破って飛び込んできたのだ。その巨大な体でナイフを受け止め……いや、彼が着ていたのは、ガンツ特製のミスリルコーティングされた防護服だった。
「へっ、痛くも痒くもねえな!」
ガルドのこん棒が唸りを上げ、暗殺者をなぎ倒す。
騒ぎを聞きつけたエリスも起きてきた。彼女の手には、護身用のスタンロッド(これも魔法具)が握られている。
「アレン様!ご無事ですか!」
「ああ、おかげさまでね」
捕らえた暗殺者を尋問する必要はなかった。彼らの装備にある紋章、それはダグラス家の私兵団のものだったからだ。
「……愚かな奴だ」
アレンは縛り上げられた暗殺者たちを見下ろした。
「彼らは致命的なミスを犯した。暴力に訴えた時点で、彼らは『議論』の場から逃げ出したことになる」
翌朝。
広場には巨大なスクリーン(幻影魔法)が設置され、昨夜の襲撃の一部始終が放映された。
アレンが設置していた監視カメラ魔法の映像だ。
寝込みを襲う暗殺者たち。それを指示するダグラスの手紙。
民衆の反応は劇的だった。
「卑怯者!」
「議論で勝てないからって、殺しに来るなんて!」
「これが国のトップのやることか!」
アレンは包帯を巻いた姿(演出で少し大げさに巻いている)で演台に立った。
「見ましたか、皆さん!これが彼らの正体です!彼らは我々の声を恐れている!真実を恐れている!だから暴力で口を封じようとしたのです!」
被害者としての立場を最大限に利用する。ネガティブキャンペーンを仕掛けてきた相手に対し、それを何倍にもして返すカウンターだ。
この事件は決定打となった。
もはや地方だけの騒ぎではない。王都の市民たちも、ダグラス政権に対する不信感を爆発させ始めていた。
「時は来た。王都へ戻ろう」
アレンは宣言した。
逃げ出した門へ、今度は堂々と凱旋するのだ。




