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第5話「改革党、始動」

 アレンたちの活動は、瞬く間にスラム街を超えて広がっていった。


 アレンは組織を「改革党」と名付けた。党首はアレンだが、実質的なシンボルはエリスだ。彼女の「悲劇の没落令嬢が民衆のために立ち上がった」というストーリーは、特に女性や老人たちの同情と支持を集めるのに効果的だった。


 アレンが次に導入したのは「ビラ配り」だ。


 通常、本や紙は高価だが、ここでも現代知識が役に立った。木版印刷に簡易的な複写魔法を組み合わせることで、大量の紙を安価に生産するシステムを構築したのだ。


 再生紙に刷られたビラには、ダグラス派の悪政の証拠と、改革党のマニフェストが分かりやすい絵付きで描かれている。


『消費税の廃止』


『貴族特権の見直し』


『教育の無償化』


 シンプルだが、生活に直結する言葉は強力だ。


 スラムの子供たちが新聞配達のように街中を走り回り、ビラを配る。「号外だよー!ダグラス宰相のヅラ疑惑だよー!」などと興味を惹く言葉を叫びながら。子供たちはアレンから駄賃をもらい、同時に社会参加の意義を教えられていた。


「アレン様、この『どぶ板』というのは……本当に効果があるのですか?」


 ある日、エリスが疲れた顔で尋ねた。彼女の美しい靴は泥だらけだ。


 アレンが指示したのは、一軒一軒の家を回り、直接話を聞くという地道な活動だった。


「あるよ。人はね、理屈では動かない。感情で動くんだ。『あの時、私の話を聞いてくれた』『手を握ってくれた』という記憶は、どんな高尚な演説よりも強い絆になる」


 アレン自身も率先して動いていた。商店街の店主の愚痴を聞き、井戸端会議の主婦たちに混ざって節約術を語る。その姿は、かつての冷徹な行政官とは別人のようだった。


「意外といける口ですね、アレン様も」


「生き残るためだ。それに……」


 アレンは路地裏で遊ぶ子供たちを見つめた。


「彼らの笑顔を見ていると、悪くないと思えるんだ」


 そんな中、最初の大きな試練が訪れた。


 王都に隣接する衛星都市、リバーサイドでの市長選だ。


 現職はダグラス派の太鼓持ちであるバロン市長。彼は選挙など形だけのものだと高を括り、対立候補を脅して辞退させていた。事実上の信任投票だ。


 アレンはここに目を付けた。


「ここを実験場にする。バロンを落とす」


 改革党は独自の候補者を擁立した。地元のパン屋の組合長だ。実直だが地味な男。しかし、アレンの演出にかかれば彼は「街の良心」へと変貌する。


 アレンはバロン市長の公開演説に乗り込んだ。


「バロン市長!貴方は先月、橋の修繕費をカジノで使い果たしたというのは本当ですか?」


 拡声器を使ったアレンの質問が広場に響く。


 バロンは顔を真っ赤にして怒鳴った。


「無礼者!そんな事実はない!」


「では、この証拠は何でしょう?」


 アレンが掲げたのは、魔法映像を記録した水晶だ。そこには、バロンがカジノで豪遊し、「橋なんて壊れても平民が困るだけだ」と放言する姿が映し出されていた。空中に投影されたその映像に、市民たちは唖然とし、次いで激怒した。


「嘘つき!」


「出て行け!」


 バロンは狼狽え、衛兵を呼ぼうとしたが、すでに群衆の怒りは制御不能だった。


 結果は圧勝だった。


 パン屋の組合長が新市長に選ばれ、バロンは夜逃げ同然に街を去った。


 小さな勝利。だが、それは「選挙で貴族を倒せる」という事実を証明した歴史的瞬間だった。


 このニュースは風に乗って王都へ、そして地方へと広まっていった。


 アレンの元には、各地から「助けてくれ」「我々の街でも選挙を」という依頼が殺到し始めた。


「風向きが変わったな」


 アレンは集まった手紙の山を見てつぶやいた。


 だが、これはまだ序章に過ぎない。本丸であるダグラス宰相が、黙って見ているはずがなかった。

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