エピローグ「そして伝説へ」
数年後。
王国の公立図書館には、1冊の絵本が置かれている。
タイトルは『言葉の魔法使いと、泥だらけの姫君』。
子供たちに大人気のこの本は、ある2人の英雄の物語を描いている。
悪い魔法使いを、剣ではなく「みんなの声」という魔法で倒す物語だ。
読み聞かせをしていた若い母親が、子供に尋ねる。
「ねえ、このアレン総理って、本当にいたの?」
「ええ、いたわよ。今も、この国のどこかで一生懸命働いているわ」
王都は今日も平和だ。
広場では、次の選挙に向けた演説が行われている。
そこには、自分の意見を堂々と述べる候補者と、それを真剣に聞く市民たちの姿がある。
かつては「家畜」と呼ばれた人々が、今は胸を張って国の未来を議論している。
王宮の執務室。
少し白髪の混じり始めたアレンが、窓からその光景を眺めていた。
隣には、変わらぬ美貌のエリスがいる。彼女のお腹は少しふっくらとしていた。
「また、選挙の季節ですね」
「ああ。うるさくてかなわないな」
アレンは憎まれ口を叩くが、その口元は緩んでいる。
彼が作ったのは、完璧な楽園ではない。
喧騒と、議論と、時に争いのある、人間らしい社会だ。
だが、それこそが彼が求めたものだった。
「あなたも、そろそろ引退ですか?」
「まさか。まだまだやりたいことは山ほどある。……それに、生まれてくるこの子のためにも、もう少し良い国にしておかないとな」
アレンはエリスのお腹にそっと手を触れた。
そこには、確かな未来の鼓動があった。
机の上には、あの日から使い続けている鉄のペンが置かれている。
剣よりも強く、魔法よりも深く、世界を変えた一本のペン。
アレンはそれを手に取り、新しい書類に向かった。
物語は続く。人々が声を上げ続ける限り、永遠に。




