番外編「ガルドの選挙対策本部」
これは、選挙戦の最中。スラム街の片隅で起きていた、もう一つの戦いの記録である。
「おい、そこの!ポスターの向きが逆だ!アレン様の顔が逆さまになってんじゃねえか!」
ガルドの怒号が飛ぶ。
ここは改革党・スラム支部。元冒険者やゴロツキたちが、慣れない手つきで選挙活動の準備に追われていた。
彼らの手には、剣やこん棒ではなく、糊とハケが握られている。
「へい、すいやせん!でも兄貴、この糊、ベタベタして扱いづれえんですよ」
子分の一人が泣き言を言う。
「あぁん?魔獣の体液に比べりゃマシだろうが!気合い入れろ!この選挙に勝てば、俺たちはただのゴロツキじゃなくなるんだ。この街の英雄になれるんだぞ!」
ガルドはハッパをかける。
実はガルド自身、最初は半信半疑だった。言葉だけで国が変わるなんて、おとぎ話だと思っていた。
だが、アレンの演説を聞き、エリスの涙を見た時、彼の荒んだ心に火がついたのだ。
これまで力で奪うことしか知らなかった自分が、誰かのために汗を流している。それが意外なほど心地よかった。
「隊長!三丁目の婆さんが、腰が痛くて投票所に行けねえって!」
「よし、おんぶして連れて行け!絶対に揺らすなよ、卵を運ぶつもりでやれ!」
「四丁目のガキどもが、ビラ配り手伝いたいって言ってます!」
「お菓子を配ってやれ!あと、迷子にならねえように紐つけとけ!」
ガルドは的確(?)に指示を出し続けた。
その姿は、かつてのダンジョンのリーダーそのものだった。
夜。作業が一段落し、皆で安酒を酌み交わす。
疲れ果てているはずなのに、誰もが充実した顔をしていた。
「なあ兄貴。もし選挙に勝ったら、俺たちどうなるんですかね」
「さあな。だが、少なくとも……今よりはマシな明日が来るんじゃねえか?」
ガルドは夜空を見上げた。
そこには、王城の明かりが見えた。
あそこには、自分たちが信じた男がいる。
「頼むぜ、アレンの旦那。俺たちの期待、裏切ってくれるなよ」
ガルドはニカっと笑い、酒を一気に飲み干した。
翌日、スラムからの投票率は、驚異の98%を記録することになる。それは、彼ら「裏方の英雄」たちの努力の結晶だった。




