第13話「新しい夜明け」
それから1ヶ月後。
王都は急速に変わりつつあった。
ダグラス一派から没収した莫大な財産は、国庫に組み入れられ、即座に福祉と公共事業に充てられた。スラムの環境改善、孤児院の支援、壊れた橋や道路の修復。
街には活気が戻り、人々の顔には笑顔が見られるようになった。
新政府の初代首相に就任したのは、もちろんアレンだ。
彼は王制を廃止したわけではない。幼い王女を保護し、彼女を象徴的な元首として立てつつ、実質的な政治は選挙で選ばれた議会が行う「立憲君主制」へと移行させたのだ。
執務室で書類の山と格闘するアレンの元に、秘書官となったエリスが紅茶を持ってきた。
「総理、少し休憩されては?根を詰めすぎです」
「まだやることが山積みなんだ。教育制度の改革案も詰めないといけないし……」
アレンは苦笑するが、その表情は生き生きとしていた。かつてのような「やらされている仕事」ではなく、「自ら作り上げる仕事」だからだ。
「そういえば、ガルド警備隊長から報告がありました。スラムの治安が劇的に良くなって、彼、失業しそうだとか」
エリスがクスクスと笑う。
「それはいいことだ。彼には、新しい警察組織の指導役を頼むつもりだよ。腕っ節だけじゃなく、人の痛みを知る警官が必要だからね」
アレンはペンを置き、窓の外を見た。
夕日が街を茜色に染めている。
追放されたあの日、冷たい雨の中で見た絶望的な景色とは、何もかもが違っていた。
「……エリス。ありがとう」
「え?」
「君がいてくれたから、ここまで来られた。君があの日、ガルドに立ち向かっていなければ、私はただの復讐鬼になっていたかもしれない」
アレンはエリスの手を取り、その甲に口づけを落とした。
「これからも、私を支えてくれるか?」
エリスは顔を真っ赤にしながらも、しっかりと頷いた。
「はい。どこまでも、お供します。……私の総理」
2人の影が、夕日の中で一つに重なった。
この国の物語は、ここで一旦の区切りを迎える。
だが、彼らの作る新しい歴史は、まだ始まったばかりだ。
剣ではなく言葉で、血ではなく票で戦った彼らの伝説は、長く語り継がれることになるだろう。




