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  作者: 劉・小狼☆
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第十三章 集う焔

 六角が、再び動いた。


 今度は、小谷城ではない。

 山を越え、谷を抜け、

 人が人として戻るための道を、断つ動きだった。


「逃げ道を、潰しに来ております」


 報せを聞いた瞬間、

 長政は立ち上がった。


 地図の上で、指が止まる。


 ――そこには、名がない。


 城でも、砦でもない。

 ただ、人が通るだけの場所。


「……出る」


 命令は短かった。


 守るための戦ではない。

 奪い返すための戦でもない。


 ――戻るための戦だ。


 同じ頃、

 香蓮は、庵を離れていた。


 戦の気配が、風に混じる。

 逃れてきた者たちが、山を越えられずにいる。


 ――ここだ。


 香蓮は、占わなかった。

 祈りもしなかった。


 行かねばならぬ場所は、

 もう、見えている。


 胡蝶もまた、動いていた。


 六角の動きは、分かっている。

 この戦は、

 命令でも、裏切りでもない。


 ――終わらせるための場。


 谷に、霧が降りていた。


 視界は悪く、

 音は、鈍くなる。


 長政は、前に出た。

 いつものように、

 背を見せる位置に立つ。


 兵が、続く。


 その背を、

 香蓮は、少し離れた高みから見ていた。


 鎧の背。

 迷いのない立ち姿。


 ――あれは、

 ――一人で、燃える者の背だ。


 胡蝶は、谷の側面にいた。


 敵の動きも、

 浅井の配置も、

 すべてが見える場所。


 三人は、

 互いを探してはいない。


 だが、

 焔は、自然と集まる。


 六角の兵が、動いた。


 谷の出口を塞ぐ。

 逃げ場は、ない。


 その瞬間、

 香蓮は、山を下りた。


 僧衣のまま、

 戦場へ。


 兵が、ざわめく。


「……尼僧?」


 長政は、振り向かなかった。

 だが、気配で分かった。


 ――来たな。


 胡蝶も、気づいた。


 ――来てしまったか。


 矢が放たれる。


 狙いは、香蓮だった。


 胡蝶が、走る。


 同時に、

 長政が、動いた。


 二人の動きが、

 一瞬、重なる。


 だが、間に合わない。


 香蓮は、立ち止まった。


 逃げない。


 その背を、

 胡蝶が、庇った。


 刃が、肉を裂く音。


 胡蝶が、倒れる。


「……胡蝶」


 香蓮は、初めて、その名を呼んだ。


 胡蝶は、笑った。


「……呼ばれたな」


 血が、地に落ちる。


 六角の兵が、さらに矢を番える。


 今度は、長政が、前に出た。


「――退け!」


 声が、谷に響く。


 兵が、動く。


 混乱が、広がる。


 香蓮は、胡蝶を抱きかかえた。


「……なぜ」


 胡蝶は、息を整えながら、答えた。


「……選ばぬ、という場所を

 ……見てみたかった」


 長政は、二人の前に立った。


 矢を受け、

 刃を受ける覚悟で。


 ――ここだ。


 焔が、最も強く燃える場所。


 戦は、短かった。


 六角は、引いた。

 狙いは果たせなかった。


 だが、

 焔は、確かに、ここに残った。


 胡蝶は、もう、立てない。


 香蓮は、涙を流さなかった。

 ただ、手を握る。


「……名を」


 胡蝶は、首を振った。


「……もう、いい」


 長政は、空を見上げた。


 勝ちでも、負けでもない。

 だが、

 取り戻したものが、ある。


 夜が、谷を包む。


 焔は、

 三つが集い、

 二つになり、

 やがて、一つになる。


 終わりは、

 もう、すぐそこにあった。

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