満月が照らす中で
◆ ◆ ◆
「ルシータ! 」
ツカサが私の名を呼んだ。恐らく助けに行きたいのだろうけど——なにか嫌な感じがする。
「ツカサ、なにか嫌な感じがするんだ」
「でも、誰かが助けを求めているよ! 」
「……わかった、ツカサがそこまで言うのなら」
ツカサに戦う能力は残っていない。だからこの先何かあれば、私がツカサを守らないと。
「行く、よ」
私とツカサは屋上への階段を駆け上がる。そして先頭を行く私がドアノブを握り鉄扉を開け放つと、映像が見える。それは数秒先の未来の映像。そして満月が屋上を照らす中、青白い線を引く鋭いナイフが私の首筋を切り裂く映像が。
そこで私は咄嗟に刀で首をガードすると、ナイフが刀に衝突する金属音が鳴った。そうして私に攻撃してきた学生服に身を包む逆さにぶら下がる男は、着地をしバックステップを踏み間合いを広げるとその口を開く。
「へぇー、今のを防ぐだなんて、かなりやるな」
「おっ、お前はいったい? 」
そのツカサの問いに、男は落ち着いた状態で言葉を落とす。
「藤堂怜」
この者がこの世界を作った者達の一人。
そして藤堂は話を続ける。
「……そう言うお前達は、マリアレーゼの手の者か? 」
「そうだよ、ボク達は女神様に呼ばれて来たよ」
「女神様か、くくくくっ」
「それより女性の悲鳴が聞こえたけど、どこに隠した? 」
「女性? あぁ、先程の声か。あれはDPを使って音声だけを出しただけだ」
そして言葉を千切った藤堂は、底冷えする声で次の言葉を話す。
「お前達を俺のテリトリーに侵入させるためにな」
「テリトリー? 」
「おっと、お喋りはここまでだ。お前達も素直に死んで、我がDPとなれ」
「ツカサ、下がってて」
「うん」
藤堂が両の手に鋭利で肉厚なナイフを一本づつ握り直すと、こちらへ向け疾走してくる。
迎え打つ私は『時よみの瞳』を発動してサブマシンガンから銃弾を発射させる。そのため藤堂が避けた場所に弾が飛来して行くため、その全弾が高確率で藤堂に命中していく。そして藤堂は堪らず後退した。
「かはっ、なんなんだお前のその銃の腕前は? この俺の動きに当てるとか、神がかりすぎだろ。……なにか能力を使っているな」
「お前に答える必要はない」
「くくくくっ、まあ良い。DPを多く使うがジャックから変更するか。次は軍隊に所属している中で殺人を楽しんでいた根っからのシリアルキラー、モツゥラレル少佐で行かせて貰う」
そう言うと、着ている制服がはち切れんばかりに藤堂の身体が盛り上がる。そして手に持つ武器がナイフから鉤爪へと変わる中、こちらへ駆け始めた。
そこで私は再度、未来を見通す瞳で藤堂の動きを先読みしながらサブマシンガンを乱射するのだけど——
今度は避けない! ?
そう、銃弾の雨を胸に喰らいながらも藤堂は私の方へと接近して来ていた。なんて突破力!
そして突進そのままに勢いに乗って右の鉤爪を振り下ろして来る。
私はこの場から逃げるわけには行かない。私の後ろにはツカサがいるのだから。そうして私の刀と鉤爪が衝突。弾かれる各々の武器だけど、瞬時に互いに次の一手となる攻撃を繰り出していた。
◆ ◆ ◆
ルシータと藤堂の攻撃が交差する度に鳴る金属音が、まるでメロディーを奏でるように辺りに鳴り響いて行く。
二人とも凄い、早くて目が追いつかない。
そして感じる、完全にボクがルシータの足手纏いになってしまっている事が。またボクが災いを呼び込んでしまった事実。
それに藤堂兄妹に遭遇したら説得しようとも思っていたけど、そんな事が通じる相手でもなさそうだし。
今のボクは無力だ、今のボクは祈るしか出来ない。お願いだからルシータが傷つかないで。
そして息も詰まる長い長い時間が流れた後、ボクの願いが届いたのか、ルシータの一振りが藤堂の腕を捉えて斬り離した。片腕を失った藤堂は、後退りをする。対するルシータは隙を見せずに構え、その場で藤堂を目で追っているだけだ。恐らくルシータは、ボクがいるからこの場から動けないでいるのだ。
「これ以上のDPの無駄遣いは、心愛がうるさいからな。また会える日を楽しみにしているぞ」
そう言うと、藤堂は屋上から身を投げ出し闇夜に溶けるようにして消えてしまった。
「ごめんなさい、ルシータ」
「謝る事じゃない、かな。兎に角二人とも無事で良かったね」
それから学校を後にしたボク達は、ルシータのマンションにまで戻り無事現実世界へと帰還するのであった。
目が覚めると、ボクとルシータはソファーに腰掛けていた。そしてそして、外はまだ明るかった。時刻を確認すると、17時半を過ぎた辺り。
あれっ? ボク達は夢の世界に何時間も居たはずなのに、あれから全然時間が経っていない。
「二回召喚合体しているから、最低でも二時間は夢世界に居たはずなのに。……どう言う事? 」
不思議に思っていると、隣で目を覚ましたルシータが口を開く。
「あの世界の中では時間の流れが酷く遅いみたいなんだ。だから現実世界では数分しか経っていない、かな」
そうなんだ。夢世界、どこまでも不思議な世界のようだ。とそこで、ルシータが真剣な表情になっている事に気がつく。
「ツカサ、ごめんなさい。私が不甲斐ないばかりに、危険な目に遭わせてしまって。しかも藤堂はかなり強かった。……こんな事ならツカサを巻き込むべきではなかった。でもツカサも女神様と契約してしまったから、眠ればあの世界に呼ばれてしまう。私はどうしたら——」
「ルシータ、謝るのはボクの方だよ。足手纏いなのに、力が無いのに、他人を助けようとしてしまった。そして罠にハマってルシータまでも危険に晒してしまった。もう同じ失敗はしない。そして次に藤堂と戦う時は、ボクも頑張る。召喚合体しているボクは自分で言うのもなんだけど、かなり強いからね。ボクも戦えたら、藤堂でも簡単に倒せるはず」
「ツカサ、私を許してくれるの、かな? 」
「当たり前じゃないか。と言うか、ボクの方こそごめんなさい。ルシータを危険な目に合わせてしまって」
「ありがとうツカサ、ありがとう」
涙が溢れるルシータ。そんな彼女に引っ付いたボクは、座ったまま彼女を横からグッと抱き締めると頭に手を置いて優しく撫でていく。そして暫くそうしているとルシータが顔を上げたので、恥ずかしかったけどほっぺに軽くキスをした。
「……元気出たかな? 」
すると見つめ合うボクとルシータ。やっぱり恥ずかしいよ。
「ありがとうツカサ。早速だけどキスのお返し、するね」
そうしてボク達は、不安定な今の自分を塗り潰すように、不安な未来を打ち消すように、互いを求め合うキスを時間も忘れてずっとずっとするのであった。




