悪魔の転生者
誰よりも先に動いたのはルシータだった。両腕を真横に伸ばして十字架のように浮遊する藤堂妹に向かって、浮かぶ瓦礫群を避けながら地を這うようにして駆ける。そして放たれるルシータの銃撃。しかし高速で発射される弾は、その全てが藤堂妹に当たる寸前でまるで透明な壁があるようにして弾かれてしまう。
そこで藤堂妹が腕を振り下ろした。すると浮遊する多くの瓦礫が、ルシータ目掛けて真上から降り注ぐ。
それをルシータは躱していき、躱せない瓦礫は刀で弾いていく。そしてルシータは飛んだ。浮遊する瓦礫を足場にして藤堂妹に向かって間合いを詰めていく。そうしてルシータがあともう少しで刀の間合いに藤堂妹を入れようとしたのだけど——
藤堂妹がルシータに向かって突き出した手の平を握り込む。するとルシータが宙に浮かんだ状態で静止した。そこで藤堂妹が嗜虐的な笑みを見せる。そして藤堂妹が握り込んでいる腕とは別のもう片方の腕を振ると、瓦礫の群れが大の字で浮かんでいるルシータに向かい容赦なく降り注ぐ。
「ルシータ! 」
瓦礫が通り過ぎた後に残されたのは、ボロボロになっているルシータであった。
ボクは回復魔法をルシータに向けて瞬時に飛ばすと、彼女を助けるため駆けた。
そんな中、通り過ぎた瓦礫の群れが旋回して再度ルシータに向けて迫る。
「うおおおっ! 」
ルシータが吠えた。そして動きを封じていた念動力みたいなものを腕だけ力づくで破ると、刀を高速で振り回す。すると見えない力を切り裂いたようでルシータが自由落下を開始し、瓦礫の群れを間一髪の所で避ける事に成功した。
そうしてルシータに向けて握り込みをしてくる藤堂妹に、それを時には転がりながらも躱していくルシータ。
ルシータが防戦一方だ。ここはボクがなんとかして状況を打破しないと!
回復は出来なくなるけど、移動に特化したキャラクターを召喚合体するべきだ。その上で空を自由に移動出来るのは、数多いキャラクターの中で一人しかいない。
そうしてボクはエンジェルオーラにより生成された防御力が高い鎧を身に纏い、同じくエンジェルオーラにより作られた天使の輪と翼を生やした『エル=トルフォ』の名を強く念じる。すると斜め上方の空間にキラキラと輝く光の粒子が溢れ始め、そこから冒険者服に身を包むエルが現れた。そして降りて来たエルがボクに重なると、溶けるようにしてボクと一体化する。
また一体化するとボクの服がエルの冒険者服に変わり、髪の毛が栗色に染まった。
そしてボクはすぐさま自身にも天使の輪と翼と鎧を構築すると、翼を羽ばたかせて一直線にルシータに向けて飛翔する。その速さは圧倒的で、瞬く間にルシータの近くまで移動出来ていた。
「ルシータ! 」
「ツカサ! 」
手を取り合うボク達はそのままボクがルシータの後ろに回り込み、ギュッと抱きしめたまま宙を舞う。
そこに藤堂妹の瓦礫攻撃が四方八方から降り注ぐ。
しかしボクの移動スピードの方が若干早いようで、なんとか躱していく。と思っていたら、死角から飛んできた鋭利なガラスの破片がボクの顔面に向かって突き進んで来る。しまった——
そうして切り裂かれたと思ったボクの顔は、無傷であった。そう!エンジェルオーラの防御力の方がガラスの攻撃より高かったのだ。
「ツカサ、素早く藤堂妹に接近したら私を離して! 」
「うん、わかった! 」
そしてボク達を押し潰そうと迫る馬鹿でかい瓦礫を必要最小限で躱しながら藤堂妹に向けて飛翔するボクは、最接近した時にルシータの身体に回していた腕を離す。
「喰らえぇぇー!!」
叫ぶルシータ。それに対してまるで睨み殺そうとする形相で、伸ばした腕を握りしめてくる藤堂妹。
ルシータが勢いのまま突きを繰り出そうとする。けど動きが途中で止まる。
「はぁああああ! 」
再度叫ぶルシータ。そして念動力を打ち破り、藤堂妹に向けて刀で渾身の突きを放つ。しかし捉えたと思った突きが、藤堂妹の胸にもう少しで当たるといった所で止まっていた。あの藤堂妹の眼前に展開されている見えない障壁によって。
障壁は貫いていたため、あと少し、あと少しで倒せていたのに。
そこで次は自分の番だと言わんばかりに藤堂妹は笑みを見せると、瓦礫を操作するため腕を振ろうとする。
しかしルシータは諦めていなかった。刀を一気に引き抜くと同時に、出来ていた障壁の穴に銃を差し込む。そして銃撃音が軽やかに鳴りマズルフラッシュで照らされる中、ありったけの銃弾が藤堂妹の身体を貫いていった。
可愛らしいドレスが真っ赤に染まり、銃撃の反動で身体が小刻みに跳ねる。
その傷口を両手で押さえる藤堂妹は、吐血をした後自由落下を開始してトサリと地面に落ちた。そして真っ赤に支配されていた空は闇色に戻り、浮遊していた瓦礫が次々と落ちてくる。そうして全ての瓦礫が落ちて一帯が静寂に包まれた後、地鳴りが始まった。その地鳴りは止まる事を知らず、次第にその大きさを強くしていく。
「ルシータ」
「えぇ、この世界が崩壊を始めたみたい、だね」
ボクとルシータは手を繋ぐと、この場から離れるため不安定な足場の中を駆ける。そして暫く走っていると——
突然のサンサンと降り注ぐ陽光に、思わず瞳を閉じてしまう。そしてすぐさま目を開き辺りを見回すと、ボク達は草原の真ん中に佇んでいた。
ここは——
「御二方、ご苦労様でしたわ」
声がした方へと振り向く。するとボク達の背後に、抜ける様な透き通った白肌で金と銀の碧眼である美しい女性、女神様が佇んでいた。女神様は扇子で口元を隠した状態で話しかけてきている。
「気分が良いですわね。そうですわ、頑張ったご褒美に特別にあの者達、藤堂兄妹が何者だったのか教えてあげますわね。藤堂兄妹は最近覚醒した元々は普通の人間でしたの。しかし妹の心愛の真の姿は超常なる存在である悪魔の転生体。そして何度も人間の生を送る内に藤堂怜の魂に恋をしてしまい、考えが180度変わってしまい人間の味方をしてしまうようになりましてよ」
……えっ、聞き間違い?
藤堂妹が人間の味方?
そこで遠くを見ながら話していた女神様が、一瞬だけボクの方へ視線を送る。
「ふふふっ、自身達の力を増大させるために人間を利用していましたが、最後の決戦には神の軍勢に加担するようでしたの」
最後の決戦?
女神様はいったい何を言っているの?
「まぁ少なからず人間を狩っていますので、決戦の後罰を受ける覚悟はあったようですが。因みにダンジョンを生み出していたのが妹の心愛で、自身をダンジョンの核に設定していました。そしてその核を管理していたダンジョンマスターが兄の怜でした。このダンジョンが厄介で、人間には効果がありませんでしたが、我々超常なる存在には短時間しか存在出来ないルールなどが敷かれていましたのよ。だからわたくしは刺客を送り込んでいたのですが——」
女神様が嬉しそうな表情を扇子で隠しながら、ボク達を見やる。
「よくやりましたわ。これで七柱から出た裏切り者が再度転生して来ようにも、もう手遅れと言う事ですわね」
そして扇子をピシャッと音を立てて閉じると、その扇子の先をボク達に向ける。
「そうそう、与えていた力を返して頂きますわね」
するとボクの変身が解けて、ルシータの手にしている刀と銃が消失した。




