人助けは誰がため?
磯の香りと共に波が押し寄せては引いていく音がする中、ボク達は海に向かって平行に歩みを始めた。
「ルシータ、男の人を助けるって話だけど、具体的に夢ではどんな感じで見つけたの? 」
「砂浜を歩いていたらどちらかが見つける感じ、だったかな」
「えっ、ボクとルシータのどちらが見つけるのもわからないの? 」
「そうだよ」
うん、なにかおかしい。ルシータはなにか隠している気がする。いや、それとも言い辛いなにかがあったりするのかな? うーん、いらぬ詮索はやめておこうかな。
と言うか——暗い事もあり、かなり怪物に接近しないとその存在を確認出来ない。また徘徊している怪物の方も目視で動いているようで、遠くに見つけた怪物はボク達に気付かずに遠退いて行った。
そこでボクは小声でルシータに話しかける。
「ルシータルシータ、戦闘で銃を使ったら音と光で敵が集まってくるかもしれないから、刀だけで戦った方が良いかもだね」
「そうだね、そしたら極力サブマシンガンは使わないでおこうかな」
とその時、ルシータの背後に青白い顔が一つ浮かんでいる事に気がつく。ボクは悲鳴を上げるのを必死に飲み込むと、拳に力を込める。そしてそこからは一瞬だった。砂浜に窪みを作る程の踏み込みで地を蹴ると、瞬時に間合いを詰め怪物の顔面に強烈な右ストレートをぶち込む。
その一撃を受けた怪物は、後方の暗闇の中にすっ飛んでいった後破裂音と共に霧散した。
「ツカサ、凄い速さだね」
「えへへへっ」
そして敵を避けて進むため、行ったり来たりしていると——
「軽く囲まれてしまったみたいだね」
言われて周りを見てみれば、全方位に多くの青白い顔が浮かんでいた。そこでボクとルシータは背中合わせに構えを取る。
「ルシータ、背中は任せて」
この台詞、一度言ってみたかったんだ。
「オッケー。じゃいこう、かな」
その言葉を合図にボク達は地を蹴った。一撃一撃に呼吸を込めながら正面の怪物達を高速フックや小回し蹴りで滅殺していく。そしてその数を多く削る中、息切れしそうになったので一度バックステップを踏む。そうして同じく後退してきたルシータとまた背中合わせになると、ルシータ側の怪物達が同時に首を切断されて黒霧になるのが背中越しに伝わって来た。
そして残りの怪物達を狩るため、ボク達はまた敵達に襲いかかる。するとものの数秒でこの場の怪物は一掃され静寂が戻った。そこでボク達は再度砂浜を歩き始める。
「ルシータ、敵を倒すのは良いとして、男の人はいったいどこにいるの? 」
「それは——ツカサの足の下だよ」
とその時、ボクはなにかをグニュッと踏んでしまい、あまりの驚きでその場から大きく飛び退いてしまう。
「実は夢でもツカサが踏んで見つけるんだけど、言ってしまえば逆に気をつけすぎてしまって見つけれないかも知れないと思ったんだ」
確かに、前もって言われていたら気にしすぎて遭遇しなかったかもしれない。
「それよりルシータ、この男の人踏まれたのに起き上がらないね」
「どうやら酔ってこの世界に来てしまったようだね」
「うん、夢の中で寝息を立てて寝ているよ」
そうしてボクとルシータは男の人を挟み込む形で肩を貸して、男の人を歩かせるようにして車まで運ぶ。そして来た時と同じように猛スピードで車を走らせると、ボクの自宅よりルシータのマンションの方が近いと言う事でルシータの部屋に戻って来ていた。
「そう言えば、この男の人をルシータの部屋にあげて良かったの? この男の人の記憶にルシータの部屋が残ってしまうんじゃないの? 」
「それは大丈夫だよ。私達みたいに女神様から召喚されている人間以外は、この夢世界の記憶は起きれば綺麗さっぱり無くなってしまうからね」
「へぇー、そしたら助けてもありがとうの一つも言って貰えないんだね」
「そうだよ、ちょっと悲しいかもしれないけど、私はツカサだけでもこの人助けの記憶が残ってくれるならそれで良いかな」
「……ルシータ」
そうして見つめ合うボクとルシータ。そしてボクの肩にルシータの手が置かれ、耳元で囁かれる。
「じゃ、そろそろ現実世界に戻ろう、かな」
「えっ、うっ、うん」
それから男の人の肩を揺さぶって起こすと、目が覚めろと念じるように説明する。そして男の人がこの場から消えたのを確認してから、ボク達も現実世界へと帰るのであった。
◆
次の日の朝——
ボクはかなり欲求不満だ。それは昨日の夢世界で良い雰囲気になりかけたのにルシータがキスをしてくれなかった事と、今朝見た夢の中でルシータとデートの後キスをするほんの直前で目が覚めてしまったからだ。
べっ、別にキスがしたかったわけでは決してない。ただ恋人同士ならもう少しラブラブしても良いのではと思うのだ。
……いや、やっぱりボク達は付き合っていないのかな?
『フォンッ』
ルシータからのメールだ。
それからメールのやり取りをしたのだけど、ルシータはボクと違って新たに夢を見ていた。その内容とは街に唯一ある大きな病院内で、害悪を撒き散らす大型の怪物の討伐をしたいと。なんでもそいつをほったらかしにしていると多くの犠牲者が出る可能性が高いかもなので、夢にも見たので積極的に狩りに出ようと言う事だ。
そしてそして、今日はルシータのお家に集まらなかった。必要な情報は全てメールで済ませたのだ。
なんだかルシータ、今日は淡白すぎない?
そんな感じでボクはモヤモヤする中、夜を迎え夢世界へと赴く。それから自室のベットから起き上がると、動きやすい服装に着替える。そして自室から出ると、今回も廊下にルシータが待っていた。
ルシータはボクに視線を向けると、にこやかになる。
「今日は手強そうな相手だから、気を引き締めていこうね」
「……うん 」
「あれっ、元気がないかな? 」
「別に」
「うん、今日はなにかおかしい、ね」
「別におかしくないよ」
そうしてボクはルシータの隣をすり抜けて下の階に行こうとするのだけど——
『ドンッ』
瞬間、心臓が丸裸にされて握りしめられたかのようにドキリとする。それはルシータに壁ドンされて、その整った顔がボクの間近に来たから。
「なにがあったのか、聞かせてくれないかな? 」
その問いに答えるべきか。……答えてしまえばボクはイヤな女になってしまうかも知れない。でも、イヤな女になったとしても聞きたい。ルシータの本心が聞きたい。そう、これは逆に言えばチャンスなんだ。ただ恥ずかしいから直接ルシータの瞳は見れないので、顔は背けて聞いてみる事に。
「……ボク達がキスしているのは、夢に見たからなの? 」
するといっときの間が空く。
「それってもしかして、私の気持ちが伝わっていないの、かな? 」
「えっ、ルシータの気持ち? 」
「そうだよ、私がツカサを大事に思っている気持ち。そして私がツカサを大好きな気持ち。第一、私も夢に見たからと言って好きでもない人に、あんな濃厚なキスは、しないよ」
「それは本当? 」
「本当だよ。だから今もこうしている間も、明日のツカサとのデートが楽しみだからね」
「そっ、そしたら何故今日はルシータのお家に集まらなかったの? 」
「それはあまり家に呼びすぎるとツカサが大変だと思ったし、面倒くさがられたらイヤだったからだよ」
「そうだったんだ」
「でもごめんね、ツカサの不安な気持ちに気付いてあげられなくて。どうしたら許して貰える、かな? 」
恥ずかしくて自分からはおねだり出来ない。だから再度俯き——
「……ルシータが考えて」
「わかった」
そこで頭を撫で撫でされる。そのため顔を上げると、ルシータから触れるか触れないかの軽いキスを口にされる。
「今はここまで。続きは明日だけど、我慢出来る、かな? 」
「……うん」




