第3章 17歳の夏 高校3年生
これはキロくんと修斗の高校1年からの3年間の夏休みについてを書いたものです。全3章構成
7月20日(土) 夏が、始まっていた
蝉の声が、今年も始まりを告げていた。
高校三年生の夏休みが始まった。
終業式のあと、校門を出た修斗は、何かが違うと感じていた。去年までの夏と、どこか温度が違う。空気が重く、時間が早く流れていくような感覚。
「修斗〜!」
校舎の陰からキロくんが現れた。白いシャツに、ギターケースを背負っている。
「アイス、食ってこうぜ」
同じ台詞、同じコンビニ、同じ場所のようで、何かが違った。
「来年は、ここにはいないんだな」
キロくんがぽつりと呟く。
「そうだな。受験、あるし」
受験、進路、最後の夏。
それでも、ふたりでこの夏を“今まででいちばん”にするって決めていた。
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7月26日(金) 秘密基地、再訪
いつもの林道。毎年草は伸びるが、道は残っていた。
鍵を回し、扉を開くと、去年と変わらない木の匂い。机の上には、去年の『2024年の続編』ノートが置かれていた。
ページをめくる。朝焼けの写真、手書きの歌詞、風鈴。
「今年は、アルバムにしようぜ」
キロくんが言った。
「最後の夏、って感じにしたくない。でも……やっぱ、覚えてたい」
ポラロイドカメラを取り出し、パシャッとシャッターを切った。
「お前、ちょっと大人っぽくなったな」
「そっちこそ」
それは互いに一年分の時間をちゃんと見てきた証だった。
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8月1日(木) ライブハウスの音
キロくんが初めてのライブに出る。
地元のライブハウス、観客は30人ほど。緊張した顔でステージに立つ彼の姿を、修斗は客席から見守った。
3曲目、キロくんは修斗のために作ったオリジナルを披露した。
「『Shuto』ってタイトル。……今のオレが歌えるの、これしかない」
胸が熱くなった。歌詞の一つひとつが、去年、一昨年、共に過ごした夏の断片だった。
演奏後、楽屋でハイタッチした時の笑顔を、修斗は一生忘れないと思った。
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8月7日(水) 受験と逃避
塾帰り、修斗はふと秘密基地に立ち寄った。
中には、ギターを弾くキロくんがいた。暗い目をしていた。
「最近、音が出ないんだ」
「え?」
「音は出てるんだけど、自分の気持ちが、音になってくれない。……どうしようもない焦りだけが残る」
修斗は、黙って横に座り、ノートを広げた。
「じゃあ、今のことを、書こう。何でもいい。書いて、残そう」
ふたりで、ノートに言葉を重ねた。
"不安のまま、夏を走る。答えはまだわからないけど、それでもここにいる"——。
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8月15日(木) 夏の旅
小さな冒険をしようと、日帰りで鎌倉に行った。
電車に揺られ、海を見て、鶴岡八幡宮でおみくじを引く。
「大吉! これ、受かるな」
「オレ、末吉……」
「でも、お前は大器晩成型って顔してる」
「なんだよそれ」
笑いながら歩く道に、ふたりの影が重なった。
帰りの江ノ電、静かに流れる車窓の風景に、修斗は「夏の終わり」をほんの少し感じた。
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8月24日(土) 誓いの音
最後の秘密基地訪問。
この夏で、扉の鍵を閉じることに決めていた。
キロくんが最後に弾いた曲は、去年のメロディに新しいコードを加えたものだった。
「来年、もしお互いに進む場所が違っても……これがある。これが、俺たちの“青春”だった証」
録音した音を、USBに保存して、それを交換した。
「お前だけの1本。来年も、それが鳴ってたら、また会おう」
「うん。また、ここで」
鍵を回す音が、夕暮れに静かに響いた。
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8月31日(土) 始まりへの一歩
夏の終わり、秘密基地の跡地にふたりで立った。
扉は閉まり、草が伸びはじめていた。けれど、確かにそこにあった時間が、ふたりの中で燃えていた。
「来年は、夏休みないかもな」
「でも、夏は俺たちのものだった。そう思えば、いつでも取り戻せる」
ふたりで自転車に乗り、最後の下り坂を駆け抜ける。
風が頬を打ち、笑い声が広がる。
——そして、ふたりの“夏”は静かに幕を閉じた。
初めての作品で表現や内容がおかしい部分もあったと思います。この作品はこれで終わりますが、これからも頑張って書こうと思うので応援よろしくお願いします。