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バグまみれゲームの悪役令嬢

【単話/別視点】こんなバグまみれの乙女ゲームの主人公に転生ですか!?〜そして悪役令嬢は転生したバグ動画投稿者でした〜

作者: 折巻 絡

主人公視点も書いてみました。


↓悪役令嬢視点↓

https://ncode.syosetu.com/n0646in/

「ーーヴィルラーナ・ドラクロア侯爵令嬢! ミーリア・シャルトル男爵令嬢に対し陰湿な嫌がらせなどの危害を加えた罪で、貴様との婚約を破棄し国外追放とする!」


私を腕で護るように抱えた王太子が彼女に断罪の言葉を投げる。何故か彼女ーーヴィルラーナ様を照らす光がキツくて前が見づらいのだが。光源はどこだろう。見回しても何故か見当たらない。


彼女は王太子から責めるように告げられた言葉に対して口を開き、


「お言葉ですが、わたくしにそのような事実はございませんわ」


と凜とした姿で答える。


本当に身に覚えがないようだ。それもそう。実は私は嫌がらせなど受けていない。つまり彼女に冤罪をふっかけているのだ。我ながら酷いことをしていると思う。


眩し過ぎる光に目を逸らす。私たちがいる壇上から、王太子以外にもこれまた煌びやかな服装のイケメンたちが数人揃って彼女を睨みつけている。彼らは宰相や騎士団長の息子など、錚々たる顔ぶれで、皆、私の味方だ。


そして彼女に婚約破棄を突きつけたこの王太子はこれから私と婚約するという手筈となっている。


会場は王城の中の大広間で、今は王立魔法学園の卒業パーティー開始の挨拶中である。


ここで大々的に王太子の婚約者を悪女として(冤罪だが)断罪し、国外追放。そして私と彼は邪魔者もいなくなり無事に結ばれるのだ。彼もそれを心から望んでくれている。


ヴィルラーナ様、可哀想に。こんな茶番に巻き込まれて地位も婚約者も奪われるのね……。


悪役令嬢(こちらがふっかけた冤罪のせいだが)の境遇に哀れみを感じていると、ふと違和感が過ぎる。


……うん? ヴィルラーナ? ヴィルラーナ・ドラクロア? いや待て待て、それってもしかしてーー。


急に頭の中に現れた『記憶』に頭の中では混乱している。大混乱だ。ちょっと待ってほしい。5分くらいでいいから。ちょっと手汗かいてきた。思わず手汗を王太子の袖でそっと拭く。なんかごめん。


そしてそんな願いも届かず、私を護る彼らはここぞとばかりに彼女に追撃をする。


「今後に及んで嘘を吐くとは。証人も揃っている。観念するんだな!」


「……証人の方々が本当の事を仰っているとは限りませんわ。あなた方がそこにいらっしゃるご令嬢に懐柔されているのではなくて?」


そうです。その通りです。


「黙れ! 貴様が複数のご令嬢に嫌がらせをしていたという隍?焚縺ョ逶ョ謦???′縺?k縺ィ縺?≧縺ョ縺ォよくも何も知らぬフリをできるものだ!」


いや何つったよ今。


みんな聞き取れなかったのか会場に「?」がたくさん浮かんでいる幻覚が見える。誰か聞き返してはーーくれないか。なんかそういうのが許される雰囲気じゃない。これは私でもわかる。私も無理。


こういうこと、よくあるのだ。


何故か聞き取れない言葉があったり、急に目の前の人の腕がめちゃくちゃ伸びたかと思ったら一瞬で戻ったり、何故か動物が壁にめり込んでいたり。数えたらキリがない。


なんだか世界がそういう風になってるようなーー


その時、私の頭の中に入ってきた『記憶』が明確になった。そう、これは前世の記憶だ。


そしてその瞬間、私は絶望した。


わかってしまったのだ。


ここは『バグが多すぎて腹筋が保たないせいでストーリーが頭に入ってこないwww』と各所で話題になったあの伝説の乙女ゲーム『魔法は永遠に恋の病』の世界だと。略してマジヤミ。


内容としてはよくある魔法学園ファンタジーからの世界を救う旅をしながら恋をするタイプのゲーム。


詳細は割愛するが、このゲーム、油断するとすぐバグるため、普通にバグを起こさずにクリアするのは至難の業(多分無理)と言われたゲームである。


ちなみにストーリーやスチルなどにはたっぷりと開発費がかけられたためそこの評判は良い。そこだけは。バグさえなければなぁと常々言われている。


本当にバグさえなければ。


そのマジヤミの世界、私は主人公ミーリア、ミーリア・シャルトル男爵令嬢になってしまったようだ。


嘘でしょ。終わったわ……。


バグがーー。


えっ、いや待ってバグが存在するってことはこの王太子、浮いてるの?


「おい、何か言ったらどうなんだ!」


先程から黙り込んだ彼女を責める王太子の足元をそっと見ると、よく見えないがなんとなく3センチくらい地面から浮いているような気がする。


マジでバグってやがる(絶望)!

逆になんで今までコレに気がつかなかった!?


今まで「足音しないなー」って思ってたけどそういうこと!?


浮いてるとかそれ未来から来た国民的ロボットじゃん!


ということは、もしかしてあんなバグやこんなバグも起こるってこと!? 助けてイヤすぎるどうしよう……!


実は前世? では結構なゲーマーだったのだ。色んな乙女ゲームをやりこんでおり、このゲームも普通に恋愛とストーリーを楽しもうとしていたのだ。


そう、普通に楽しみたかったのだ。


ただあまりにもバグりまくるせいで攻略が難航し、もう半ばヤケクソになって動画サイトの面白バグの再現動画を見て笑い転げていたけれど!


しかし見ているのと実際に体験するのは違う。


ヤバい。緊張でめっちゃ手汗出てきた。


あれもこれもリアルで起こるかもしれないということ!?


……怖い。迂闊に動けない。逆に今までよく動けてたよ。知らないって怖い。いや、このまま知らない方が良かったのかもしれない。


とりあえず早く帰って寝たい。寝て起きたら夢オチになってないかな。


だが今、断罪イベント中だ。

王太子派閥の彼らはヴィルラーナ様に「なんか言え」コールをしている。


いや、逆にもう断罪シーンだし、この後は悪役令嬢の断罪が終わって私たちはハッピー! で今はいいのでは? 後でヴィルラーナ様は復讐に来るけどそれはその時どうにかすれば。


あー、ヴィルラーナ様、バグり易かったな。グラフィックが細かかったからかな。パーツが多いせいかポリゴンが急におかしくなりがちでーー


そんな感じで現実逃避をしていると、彼女がゆっくりと口を開く。


「そんなに、そんなにわたくしの言葉が信用できませんか」


私がハッとして彼女を見ると、悲しみに暮れたようなしおらしい表情で足元をよろめかせ、フラフラと後ろに下がっていく。そして一瞬、ほんの少しだけだが軽く跳ねたように見えた。


そして、彼女はすっと壇上を仰ぎ見る。


すると私と王太子の横に立っていた宰相の息子の纏っていた衣服が突如、


フワフワのウサギの着ぐるみになった。


全身を包む着ぐるみだが、何故か顔だけは顔出しパネルのように出ている。素敵なメガネが(デザイン的に)浮いている。


うわっ、早速バグった!?

ていうかこのバグ、知ってる!

動画で見た!!!


心の中で懐かしい前世を思い出す。

どうしたら良いかわからず顔は真顔だが。


「なっ!? はぁ?」

「お前、服、えっ!?」

「えっ? ウサギ!?」


違和感に気がついた宰相息子(以下、フワフワウサギ)が声を上げ、壇上を含め会場内は騒然となる。そりゃそうだ。


ちなみにこのフワフワウサギの着ぐるみはイベント装備で防御力、魔法防御力共に優れた一級品の装備である。ただ見た目があまりにも可愛らしく、何故か出ている顔がちょっとシュールであるが。


動画での説明によると、このバグは所定位置でジャンプすると宰相の息子の装備が強制的にフワフワウサギになるという、ただそれだけのものだ。特に危険性はない。


もう一つ、騎士団長の息子が装備無し(パンイチ)になる似たようなバグもあったが……そっちじゃなくて良かった。反応に困る。いや、こっちでも困るけどまだマシだ。


動画では断罪イベント中でも何故か動き回れる(これもバグ)主人公ミーリアを操作して起こしていたバグだが、どうやらこの世界では実行者は誰でもいいようだ。それはそれで怖い。


ちなみにゲーム内ではこのバグが起こっても何事もなかったかのように歩き回るミーリアと立ち尽くすフワフワウサギを無視してそのまま断罪シーンが続けられていた。


誰一人として突如出現したフワフワキュートな着ぐるみ男を気にしないという、それはそれでプレイヤーのシュールな笑いを誘った迷シーンだったけどリアルではそうはいかないか。


このバグの通称は『笑ってはいけない令嬢断罪』である。


動画で見た時はあまりにもシュール過ぎて笑い転げたものだ。


今は急なバグのインパクトで動けないが。


……ふと見たヴィルラーナ様はこの状況でも冷静さを保っているように見える。すごい。最初から全てわかってたようなーー


はっとして、そして、あることを思い出す。


このバグ、再現がかなり難しいと動画で解説されていたのだ。


ジャンプをする位置が重要なのだが、そこが少しでもズレると何も起こらない。私も折角だからと真似をして何回かやってみたのだが、100回やって3回くらいしか成功しなかったのだ。めちゃくちゃジャンプしまくった。ジャンプするだけなのにそれだということは、つまりそれほどシビアなバグ再現なのだ。


それを一発で決めるなんて。美しいバグ再現。そんなのあの動画の、あの人しか考えられない。


これは偶然の出来事なのか、それともーー。


ごくり、と唾を飲む。後で確認する必要がありそうだ。もし本当に『そう』だったらーーこのバグ世界で生きるのは怖いから助けてほしい。こちらから冤罪をふっかけておいてムシが良すぎるけど! 本当に謝るから許して。


しかし今はこうなってしまった以上、話を真面目に続けることもできず、壇上の私たちはそそくさと下がるしかなかった。断罪、途中だったけどな。去り際に見た会場はざわざわしていた。そりゃそうだ。


……なんか結局断罪、有耶無耶になっちゃった。でも卒業パーティーはその後も一応続けられたらしい。みんなメンタルつよすぎ。こっちはマジ病みだよ。



後日、


結局、王太子とヴィルラーナ様の婚約破棄は成立し、私はそのままの流れで王太子と婚約した……のだが、今はそれはいいとして。


要約するとヴィルラーナ様は「一応、断罪しとくね」という感じのとても曖昧な国王の命令で婚約破棄と国外追放になったのだ。そんなんでいいんだ。いやダメでしょ。


ていうかヴィルラーナ様が国外追放されたら確かめられないじゃない! もう復讐に来るのを待つしかない? ……いや、追いかけた方が早い気がする! 善は急げだ。どうにか旅に出る方法を考えよう。


ちなみにフワフワウサギはちょっと落ち込んでいたが5日ほどで立ち直り、フワフワなウサギ柄のアイテムの流行に一役かっていた。意外と逞しい。



ーーその後、やっぱりバグ動画の人の転生者だったヴィルラーナ様を追いかけ回したり面白バグの再現に巻き込まれてたら成り行きで世界を救ったりしたけど、それはまた別のお話。


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