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「え、一緒に住みたい?」
「はい」
どうするか普通に悩む。
だってここは工場からは少し遠いからだ。
あくまで一日の仕事が終わった後に行ったり、休日に遊びに行くのとでは訳が違ってくるわけで……。
「どうなるのかは分からないけど、保留にさせてくれ」
「分かりました」
自宅に帰ってから父に相談してみた。
「それなら由貴ちゃんがこっちに住めばいいだろ?」
と、言われて一瞬いいかもなんて考えてしまった。
ここからなら学校から近いし、こっちも工場に近いことになる。
それでも言ってみなければ分からないからその旨の話をしてみたら、
「だ、大丈夫なんでしょうか?」
すぐにそう言われて固まった。
大丈夫とはなにに対して聞いているのか。
「えっと、なにが?」
「だって公夜君がこっちに移動するのと違ってお父様がいるわけですし……」
「ああ、由貴のことを相当気に入っているから大丈夫――」
「……キスとかできなくなるじゃないですか」
いや、そんなの一度もしたことがないぞ……。
「分かった、とりあえず一週間ぐらいお試しでそっちに泊まるよ」
「いいんですか……?」
「ああ、俺としても毎日直接話せた方がいいからな」
通勤が大変だと分かったらこっちで過ごしてもらうか、この話はなかったことにしてもらうしかない。
体力をかなり使う仕事だから朝から疲れているわけにもいかないしな。
それになにより、慣れてきた頃ってのが一番怖いからまだまだ油断しているわけにはいかないんだ。
恋愛にばかり意識を向けていて怪我しました、休みましたじゃ迷惑をかけてしまうからできない。
「というわけだから」
「俺は構わないぞ」
こういうときに普通に許してくれる父がありがたかった。
まあ、金を稼げていないときであったなら流石に許可してくれなかっただろうが。
だってそれは=として高校生とかってことになるんだから教師である由貴となんていさせようとするわけがない。
「由貴――ど、どうした?」
「……あなたはずるいですよ」
「え、こうして来ているのに?」
それにはなにも言わずに中に入ってしまった。
少ししか荷物がないから辛かったとかそういうことはないが、それでもすぐに上がらせてもらった。
「これを」
「もう作っていたのか?」
「私、結構無くしたりするので最初の頃に作っていたんです、こんな形で役立つとは思いませんでしたけど……」
じゃあ役立つ日はこれまでなかったということか。
そりゃそうだよな、だってそんなドジっ子属性とかがあるわけではないんだ。
「家事はなるべく俺がするから任せてくれよ」
「私もできる限りやります」
「ああ、協力してやろう」
とにかく一週間、それで大体分かるだろう。
それでもいまはのんびりするべく床に寝っ転がったのだった。