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幼馴染を親友の彼女にしようと幼馴染の妹に協力をしてもらったら、裏目に出て何故か僕と幼馴染が付き合うことになった

作者: 井村吉定

 異性の幼馴染との関係――これをどう捉えるかは、人それぞれである。


 妹のような存在だったり、姉のような存在だったり、はたまた友達以上恋人未満の存在だったりするわけだ。 


 漫画やアニメだと、どっちかが幼馴染に片思いしているパターンが多いが、実際のところはどうなんだろう?


 現実世界ではそんなに多くない気がする。なんとなくだけど。


 そもそも幼馴染という存在自体稀だ。高校生になった今、僕は幼い時の友達なんてほとんど名前すら覚えていない。


 だけど例外的に名前を覚えている女の子が2人いる。世間一般的な考えであれば、彼女達は僕の幼馴染と言って差し支えがないだろう。


 1人は――有ヶ谷(ありがや)和左(かずさ)、僕――赤沼(あかぬま)隆輔(りゅうすけ)と同い年だ。彼女は僕と同じ高校に通っている。


 和左とは家が近所ということもあって、よく顔を合わせるし、遊んだりもする。幼稚園の時から現在に至るまで交流が途絶えたことはない。


 ただ、和左が僕に片思いをしているかは微妙だ。そんな素振りは見せないし、僕の顔を見て頬を赤くすることなんて皆無に等しい。


 じゃあ僕はどうなのかと言うと、それもまた微妙だ。そもそも、和左を1度としてそんな目で見たことがない気がする。


 もう1人は美玲(みれい)ちゃん。彼女は和左の妹だ。だから今でも美玲ちゃんと僕は今でも付き合いがある。


 美玲ちゃんは中学生にして、既に元カレ10人というビッ――もとい恋愛猛者である。元カレの数も相まって経験した人数もそれなりに多いらしい……。


 美玲ちゃんの恋愛話は聞いていると胃がキリキリする。男のこういうところが苦手だとか、無理だとかそんなことばっかり僕に喋ってくる。


 そんな彼女だが、現在はフリーなのだそうだ。彼氏募集中とのこと。次の彼氏は、背の高い年上のイケメンなら誰でもいいらしい。


 誰でもいいと言っているけれど、中々厳しい条件だ。条件に該当する人に、彼女がいないというのは稀だと思う。


 当然僕は当てはまらない。唯一当てはまるのは年上というところだけ。


 まあ、僕は別に美玲ちゃんの恋人になりたいわけじゃない。だから、正直どうでもいいことではある。


 でも僕は、条件に当てはまる男を知っている。


 彼は中学時代からの僕の友人。数少ない僕の友人の中でぶっちぎりのイケメンだ。そして性格もいい。


 ただ1つ残念なことがある。それは――。


「頼む赤沼! 有ヶ谷さんとの仲を取り持ってくれ」


 彼――西谷(にしや)(けい)は美玲ちゃんの姉――和左のことが好きなようなのだ。


 圭からファミレスに誘われたのは授業終わりの放課後。


 突然だった。圭は帰宅部の僕と違って部活がある。それなのにその部活をサボって僕と話がしたいと言ってきた。


 今日は全部奢りだと言われた時は、何事かと思った。


 彼は部活があってアルバイトをしていない。する余裕がない。収入源は親からもらう小遣いだけである。


 そんな中での大盤振る舞い。一体何を僕に頼みたいのかと思っていたら、圭の頼みは意外と単純なものだった。


「いいけど……僕に何かできるかな?」


 単純なものではあるが、それを実現できるかはあやしい。仲を取り持つと言っても、正直何をしたらいいのか分からない。


 中学時代、和左と圭は同じクラスになったことがある。だからお見合いのように僕が和左に圭を紹介する必要がない。


 第3者の僕が、2人をそういう雰囲気にするというのは中々難しい。結局のところ当人同士の気持ちによるのだから。


「ダメか?」


「いや、そうじゃないんだけど……」


 圭はそのハンサムな見た目と打って変わってシャイだ。自分からグイグイ行くようなタイプじゃない。


 それは僕にも同じことが言える。僕も生粋の陰キャだ。必死に両手を顔の前で合わせている圭には悪いけど、やっぱり僕にはできることがない。


 そうなると、恋愛事に積極的な他の誰かに手伝ってもらった方がいいように思う。


「そのハンバーグ、旨いか?」


 だけど問題なのは、僕はもう既に、料理に口を付けてしまったということだ。


 断るに断れない状況になってしまっている。食べるだけ食べておいて、何もしないというのは流石に気が引けてしまう。


 ………………。


 しょうがない。少し嫌な予感もするけど、美玲ちゃんに協力してもらおう。経験豊富な彼女ならきっと、なんとかしてくれるかもしれない。


「わかったよ。自信はないけど、やるだけやってみるね」


「ありがとう!!」


 果たしてどうなることやら――。




 ★☆★☆★




「同じ高校の友達の話なんだけどさ、和左のことが好きで、付き合いたいらしいんだよ。どうしたらいいと思う?」


 正直、自分でも誤解を生むような言い方だと思う。これだとまるで、僕が和左のことが好きだと言っているように聞こえるだろう。


「ふーん、友達ねぇ……」


 案の定、美玲ちゃんは怪訝な顔をしている。友達というのが、僕のことだと疑っているようだ。


「言葉通りの意味だからね!? 僕じゃなくて、本当に僕の友達が和左のことが好きなんだって!」


「本当? じゃあさ、そのお姉ちゃんが好きだって言う人の写真見せてよ」


「…………」


 インドア派の僕には、写真を撮るという習慣がない。当然スマホの画像フォルダにはほとんど何も入っていない。


「ねえ? もしかして、写真もないの? 隆輔くん、やっぱりお姉ちゃんのこと好きなんでしょ!」


 今の僕には、疑いを晴らす術がない。まずい、このままだと本当に勘違いされてしまう。


 思わず目が泳ぐ。泳いだ視線の先には、部屋に本棚があった。


「!?」


 そこに中学の卒業アルバムを入れてあったことを思い出す。


 本棚からアルバムを取り出し、圭の所属していたクラスのページを開く。美玲ちゃんにも見えるようにアルバムを大きく広げ、圭の顔写真を指差す。


「ほ、ほら、この人だよ!!」


「何よ…………このイケメン…………。じゅるり……!」


 よほどタイプだったのか、美玲ちゃんは血走った目で食い入るように圭の写真を見つめている。餌を目の前にちらつかされた猛獣のように、舌舐めずりまでする始末だ。


「ペロペロペロペロペロペロペロペロ!!」


「わぁ!」


 美玲ちゃんが狂った。彼女は突然、圭の写るアルバムのページをキャンディをしゃぶるように舐め始めた。


 舌使いが卑猥だ。まるであれを…………おっと、これ以上はいけない。


「み、美玲ちゃん? 念のために言っておくけど、写真の人は和左のことが好きなんだからね?」


「はっ!? ああ…………うん、隆輔くんのお願いは分かったよ。この人とお姉ちゃんを付き合わせたいってことでしょ?」


「その通りだよ」


 アルバムを見せてから、美玲ちゃんは僕の言うことを疑わなくなった。


 その代わり、彼女から圭の個人情報を根掘り葉掘り聞かれた。名前、生年月日、連絡先、血液型にいたるまで。


 連絡先を教えたあと、美玲ちゃんは僕の知らないところで、いつの間にか圭と連絡を取り合うようになっていた。肉食系女子恐るべし。


 相談した日から数週間が経ち、美玲ちゃんから連絡があった。


 美玲ちゃんの調査によると、どうやら和左も圭のことが好きだったらしい。


 僕なんにもする必要なかったじゃん、と思ったのだけれど、和左は圭に告白する勇気が湧かないのだそうだ。


 いきなり告白するのはハードルが高い。練習して、準備万端にしてから幼馴染は告白したいらしい。


 当然本人を相手に練習をする訳にはいかない。でもだからと言って、同性の友達に練習に付き合ってもらうのは恥ずかしい。


 そんなこともあって、僕は和左に告白の練習相手に指名されてしまった。なんやかんやで僕は今、和左と2人で学校の屋上にいる。


「こうして2人で話すの久しぶりな気がするね。りゅう、今日は練習に付き合ってくれてありがとう」


「いいよ。気にしなくて」


「早速で悪いんだけど、始めよう、練習」


「うん」


 練習を開始した途端、和左の雰囲気が一変する。表情も普段のものから、幼馴染の僕ですら今まで見たことのない真剣なものになった。


 フェンスの向こう側の太陽が赤く光っているせいなのか、和左の頬が染まっているようにも見える。


 練習なのだから気楽にやればいい。そう思っていたのだけれど、何だか少し緊張してきた。


「ねえ……りゅうは私のことどう思ってるの?」


「えっと……」


 この場合、どう答えればいいのだろう。とりあえず好きって言えばいいのだろうか。


「私はずっとりゅうのこと好きだったよ。幼馴染としてじゃなくて、男の子として」


「僕も……好きだよ」


「ホント? なら証明してよ! 私を好きだってこと!」


 幼馴染が急に距離を詰めてきた。その勢いにたじろいで後退するものの、彼女はさらに前進してくる。


 気が付いたら和左の顔が目の前にあった。鼻先がくっ付くんじゃないかと思えるほど近くに。


「キスして!」


「へ……?」


 練習にしてはやり過ぎだ。何も知らない人がこれを見たら、本気で告白をしているようにしか見えないだろう。


 誰かに見られたらやっかいなことになる。そう思い、和左から距離を取ろうとした瞬間――――。


 ――チュッ!


 僕と和左の唇が触れ合った。


 これは不可抗力だ。僕は何もしていない。和左の方から唇を合わせにきたのだ。


 おかしい。和左が好きなのは圭のはずなのに、何で僕が和左とキスしてる?


「んんっ!!」


 僕の思考を遮らんとばかりに、口の中に異物が侵入してきた。


 異物はヌメヌメとしていて、今まで感じたことのない舌触りだ。幼馴染と口付けをしているこの状況下で、僕の口の中に入り込む余地のあるものと言ったら…………。


 ――ガチャ!


 不意に屋上のドアが開いた。


 今、生徒のほとんどは部活をしている。この時間に屋上に人が来ることは滅多にない。


「有ヶ谷さん、美玲ちゃんから話があるって聞いたんだけど…………え?」


 あ。


 開いたドアから、顔を出してきたのは圭だった。


 見られてしまう。僕と和左がキスしているところを。


「そうか、そういうことだったのか……。ごめんな、赤沼。俺が有ヶ谷さんのことを相談した時、お前が乗り気じゃなかった理由が、ようやく分かったよ……」


 何故圭がここにいるのか分からない。彼の口振りから察するに、美玲ちゃんから呼び出されたのだろうけど、一体どうして?


「わ、わわわわわ! これは、その…………」


「あぁ…………大丈夫だよ。恨んだりなんかしないさ。じゃあな、赤沼。有ヶ谷さん、お幸せに」


「待って!!」


 僕の制止も聞かず、圭は逃げるように屋上から出ていってしまった。


 誤解を解かないといけない。そのためには、まず圭を追いかけないと。


「ダメ!!」


 走りだそうとしたその時、和左から腕を掴まれる。力は思いの外強く、振りほどけそうにない。


「りゅう……。私達、人が見ている前でチューまでしちゃったんだよ? こうなったら私達、もう付き合うしかないよ」


 いやいやいやいや、その理屈はおかしい。人前でキスしたからと言って、付き合う理由にはならない。


 そもそも僕は、告白の練習がしたいと幼馴染に呼び出されたのだ。和左は僕のものだと圭に見せつけるためじゃない。


「それはちょっと……。和左を圭にくっ付けると言った手前、圭に申し訳ないよ」


「中途半端に夢を見させられる方がキツくない? キスしておきながら付き合ってません。あれはただの事故ですなんて言われてもさ、辛いだけだよ。可能性があるように思わせられるよりも、最初から可能性なんてなかったって方が気が楽だと思うけどなぁ」


「うーん……」


 確かにそうではあるけれど、それはそれで血も涙ない。これじゃあまるで、僕が和左を圭から寝取ったみたいじゃないか。


「せめてもの罪滅ぼしだよ。私達が付き合わなかったら、西谷くんも浮かばれないでしょ?」


「そうなのかなぁ……」


 和左の意見に対して、反論が思い浮かばない。確かにあれを、告白の練習と言うには無理がある。


 逃げ道がない。どう頑張ったって言い逃れはできない。


「2人で西谷くんを裏切った罪を背負っていこうよ。今さらなかったことになんてできないよ。だからこれから彼氏としてよろしくね、りゅう」


「うん……」


 どうしてこうなった。美玲ちゃんに相談したのが良くなかったのか。贖罪という名目で、幼馴染と付き合うことになるなんて……。


「ねえ、折角恋人になったんだし、土曜日どこかに遊びに行こうよ! 久々に2人きりで!」


 僕の気持ちとは裏腹に、幼馴染は晴れやかな顔をしていた。


 ………………。


 もしかして、最初から練習なんかじゃなく本気だったんじゃないんだろうか。


 和左の言葉は、練習にしてはあまりにも感情がこもっていたような気がする……。アハハハ…………まさか、そんなこと――――。




 ★☆★☆★☆




 ウフフフフ。お姉ちゃん、おめでとう。初恋の隆輔くんと付き合えてよかったね。お姉ちゃん、ずっと隆輔くんのこと好きだったもんね。


 どう? 練習のつもりでいたのに、いきなりガチになっちゃった作戦。お姉ちゃんは不安がってたけど意外と上手くいったでしょ?


 隆輔くんはお姉ちゃんのことを好きじゃないって言ってたけど、本当に好きじゃなかったら勢いで付き合ったりなんかしないよ。


 私2人はお似合いだと思ってたんだ。お姉ちゃんも隆輔くんも、天の邪鬼なところがそっくりだよね。


 あ、そうそう。お姉ちゃん、西谷くんのことは大丈夫だよ。お姉ちゃん優しいから、間接的とは言え、西谷くんをフッたことを気にしてたよね。


 安心して。西谷くんは今私の隣で寝てるから。


 知ってた? お姉ちゃん、男の子はフラれた時に慰めてくれる女の子に弱いんだよ?


 実はね、隆輔くんとお姉ちゃんがキスしているところに、西谷くんを呼び出したのは、私が西谷くんを貰うためだったの。


 ありがとう、お姉ちゃん。隆輔くんと恋人になってくれて。おかげでイケメンの初めてを美味しくいただくことができました。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
なんか笑って読んでしまった(半分乾いた笑いかもしれんけど) これが恋愛強者と言うやつなのか! こうやって女性の手のひらでコロコロされながら愛される幸せも良いよね(脳死
[良い点] ビッチ「(ぷはぁー」 西谷くん「穢されちゃった……お婿に行けない」
[一言] えーん、ビッ…恋愛経験者って怖いよ〜
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