プロローグ:歪む正義
その男の眼は妖しい光でぎらついていた。
アパートの一室、電気も点けずに暗闇の中で、男は毛布を頭から被りながらテレビでニュースを見ていた。
『若手のホープとして期待されていた政治家ハチロウ・ベックフォード氏の贈収賄疑惑ですが、今日証拠不十分として不起訴になりました』
『皆さま、私の不注意で誤解を生んでしまい本当に申し訳ありませんでした。今後はこういうことのないように身を引き締め、皆さんに寄り添う政治をすることで信頼を回復できたらなと思います』
画面の中で深々と頭を下げるスーツを着こなす青年政治家にカメラのフラッシュが浴びせかけられる。
(本当にやってないのか?とてもじゃないがおれは信じられん……!)
テレビ越しに同じくフラッシュを受けた男の顔が険しく歪んだ。
画面が切り替わり、青年政治家の過去の政務映像が流れるが、今までは爽やかな笑顔だと思えていた顔がひどく胡散臭く見えた。
『続いての事件です。イフイでイエローポイズンに所属していると自称する男達が、金を奪おうと会社員を路地裏で襲撃した模様です』
『カウマは国際的にも治安がいいことで有名なのですが、最近こういう事件が多いですね』
『それについてはどうしてこうなったと?』
『ひとえに舐められているんでしょうね、警察や特務部隊が。シニネ島のオリジンズ災害についても政府の思惑があったとはいえ、まともに機能しなかったですし、この間の秘密結社T.r.Cの件に関しても蚊帳の外だったじゃないですか。だからイエローポイズンなんてセコいギャングもどきが調子に乗るんですよ。まったく嘆かわしい』
「くっ……!!」
解説者の辛辣な言葉に男は二の腕を強く握りしめ、さらに顔を強張らせた。彼にとってそれは決して他人事ではないのだ。
(その通りだ。おれ達がもっとしっかりしていれば、こんなことには……さっきのベックフォードが言っていたように、我ら特務部隊も信頼を一刻も早く取り戻さないと。そのためにはもっとおれが強く、もっと強く……!)
強さを求めるのは雄の性ともいうべきものだったが、その男のものはかなり危うい領域に入っていた。
追い詰められた彼の中で知らず知らずのうちに、あくまで手段の一つであったはずのそれを手に入れることこそが唯一絶対の目的になり代わり始めていたのだ。
(おれが求める強さ……それは……)
『そんな中、明るいニュースと言ったら謎のヒーロー、ブルーディーのことですよね』
「!!」
画面が再び切り替わり、青き龍のような異形の存在が巨大なトレーラーを止める映像が流れると、男は釘付けになった。まるで羨んでいるような、恨んでいるような複雑な感情の入り乱れた瞳の中に龍の勇姿が映り込む。
『確かに彼の存在は今のカウマにとっては希望です。このトレーラー事故の一件に関しても、彼がいなかったら大惨事でしたから』
『はい。一部では自警団気取りだの、法律的にはここまでの力の行使は許されてないだの、批判の声もありますが、多くの人は彼に感謝し、その活動を応援しています』
『確かに問題がないわけではないですが、それ以上に有益ですからね。彼ほど強い力を持ちながら市民のために働くエヴォリストなんて中々いないですよ。もっとみんな彼に感謝すべきです』
『はい!私もそう思います!』
(違う。奴がやっているのは紛れもない違法行為だ。本来はそれを許しては絶対にいけないはずなんだ。だが、それが必要とされているのはおれ達が……)
激しい苛立ちを感じているのは、青き龍に対してか、それとも不甲斐ない自分に関してか、それともその両方か……ただ一つ確かなのは男の精神は限界に近かった。
(おれにも奴のような力があれば、本当の正義をカウマにもたらせるのに……!)
男の眼は、イフイ第三ピースプレイヤー特務部隊隊員『ショーン・ヴォークス』の眼は妖しくぎらついていた。
その光の源は正義かそれとも……。




