エピローグ:晴れぬ心
T.r.Cとの戦いから数日後、アスト、ウォル、メグミの三人はファミレスに集まっていた。
「それでは事後処理も終わったことですし……祝勝会を始めようじゃないか!!」
「おおう!!」
「おう……」
たくさんの料理が並ぶテーブルの前で一人だけ、アストだけ元気がなかった。ここ数日ずっとだ。実のところこの会はそんな彼を元気づけるためのものだったのだが……あまり効果がなかったようだ。
「アスト……君ね~」
「わかってるよ。オレが落ち込んでいても仕方ないことも、お前らがオレを気遣ってくれていることも……」
「本当に……恵まれているのだな……敵であるわたしにその顔ができるのは……お前が周りから大切に愛されてきた証拠だ……」
(イグナーツ……あんたの言う通り、オレは恵まれている……)
敵との最期の会話の一節が脳裏に甦ると、さらにアストの顔に陰がかかった。
「アスト、マジで大丈夫?」
「ほっとけ、ウォル。こうなったら他人がどうこうできる問題じゃない」
「そうかもしれないけど……」
「少なくともおれは知らん!おれはおれの心と腹を満たすことに集中する!!」
そう言うとメグミは目の前の料理を目一杯口に頬張り始めた。
「バカはいいね。単純で羨ましいよ」
「んぐっ!ついさっきまで無免許運転を説教されてた奴に言われたくねぇよ。お前、本来はここじゃなくてブタ箱に入るべきなんだぜ」
「うぐっ!?それは言わないでおくれよ~」
「プッ……ははっ!」
幼なじみの何気ないやり取りに険しかったアストの顔も綻ぶ。その表情を見て、ウォルとメグミも嬉しそうに微笑んだ。
「大分マシな顔になったね」
「おかげさまで。ただ一つ気になることが」
「無免許運転の罰は後々きちんと受けるよ。教習場にも通うし。ぼくの頭脳なら余裕、一発で免許ゲットだぜ!」
「なら最初からやれよ……じゃなくて、捕まったT.r.Cの連中の話も聞いてきたんだろ?それを聞かせてくれよ」
「あぁそっち。リサさんとパットさん曰く、ぼくが見事打ち倒した超難敵ナータンと君と戦ったパーヴァリとトシムネはだんまり決め込んでるみたいだね」
「あいつらは捕まったからって、自分が属していた組織のことをあっさりゲロッちまうタイプじゃないか。仁義というか美学がある」
「対照的に残りの奴らは積極的に色々と話してくれるけど、口から出るのはもうみんな知っているような情報ばかり。きっと信用されてなかったんだろうね。いつでも切り捨てられるように、あまり重要なポジションにはいなかったみたい」
「けっ!マノリトの野郎、やっぱり腕っぷしだけのクズかよ」
メグミはなんだか無性に腹が立って、慰めに肉を口に放り込んだ。
「そうか……何も情報を得られなかったか」
「気になる?」
「そりゃこんな目に会ったらな……T.r.Cのことは知りたいよ」
「違うでしょ」
「え?」
「てめえが知りたいのはT.r.Cのことじゃなくて、T.r.Cに始末されたエヴォリストのことだろ」
「今までは罪無きエヴォリストが襲われていると思って、憤っていた。だけど今は……」
「そいつらは……もしかしたら殺されるべきようなことをやっていたかもしれないと思い始めている」
「同じエヴォリストとして、そんな奴はいないって心の底から言い切れなくなっていることがモヤモヤして、気持ち悪いんだよね」
「……あぁ。オレはエヴォリストなのに、エヴォリストのことも、それを取り巻く環境も何も知らない……それがオレは……」
目の前にあるコーラに刺さったストローを不意に回す。渦はできても答えが浮かび上がってくることは決してなかった……。




