ラストソルジャー
「うっ……ううっ……!?トシムネの後、しかもコナー達の暴走で、想定以上の展開だったというのに……私は……!!」
「………」
地に這いつくばり、悔しさから地面を叩くパーヴァリを青き龍はただ静かに見下ろした。この立ち位置が二人の力の差を如実に表している。
「殺すのなら殺せ……」
「オレのことを調べたなら、それだけはしないってことはわかるだろ?」
「手段を選ばず君を嵌めようとした私を見逃すというのか……?」
「別に許すわけではない。ただ法治国家の住人として最終的決断は司法に任せる」
人々はアストをヒーローだなんだと持て囃すが、彼自身は自分を特別な人間だとは思っていない。ましてや人を裁く資格などあるはずないと、心の底からそう思っていた。
だからこそ人々は彼をヒーローと呼ぶのかもしれないが。
「どこまでも綺麗ごとを……」
「それはお互い様だろうに。手段を選ばない?バリバリ選んでるじゃないか」
「……は?私がか?」
「あぁ。まず一般の人が寄り付かないこの場所を戦場に選んだ。関係無い人間には被害を出したくなかったんだろ?」
「T.r.Cの信条に従ったまでのこと。私は別に……」
「なら、コナーやモーノみたいに構わずに街中で暴れれば良かった。そういう選択だってできたのに、あなたは選ばなかった」
「君を陥れるフィールドの準備には、人目が多いところは都合が……」
「そもそもオレから水分を奪いたいなら、辺りに火を着けて回ればいいじゃないか。それなら準備なんて必要ないし、オレ的にもずっと厄介だった」
「…………」
「この倉庫でもその方法は使えた。だけどあなたは使わなかった。この国に被害を与えたくないから」
「……買いかぶり過ぎだ」
「かもな。だが、オレはそう思ったんだから、それを踏まえて勝手に行動させてもらう。オレはあんたを殺さない……どれだけあんたがそれを望んでいたとしても」
「私が殺されることを望んでいるだと……!?」
パーヴァリは驚いたような顔をした。彼自身気づいていなかったのだ、自らの本心に……。
「あなたは自分だけが生き残ったことに負い目を感じていた。強い罪の意識を。だからきっと……断罪して欲しかったんだ。力に目覚め苦しむ娘に何もできなかった無力な自分は、他の家族と同じくエヴォリストに殺されるべきだと、望んでいたんだよ」
「私がそんなことを……」
何の抵抗もなく言葉が浸透してきた。
腑に落ちるとはこういうことなのだと思った。
ようやくパーヴァリは自らの真の願望を自覚した。
「くくっ……エヴォリストを駆逐するなど息巻いておいて、実際はそいつらにこの命を絶って欲しがっていたとは……」
「オレはあんたを許さない。だからあなたの望みは絶対に叶えてやらない。パーヴァリさん……罪を償って生きてください。そしてあなただからできるエヴォリストとの向き合い方を模索してください。それがあなたの罰だ」
アストの言葉には彼の本質である優しさがにじみ出ていた。
「………完敗だな。あらゆる点において、私の負けだ……」
それを耳にした瞬間、パーヴァリの心は妙な清々しさに包まれ、自らが完全に敗北したことを素直に認めることができた。
全身から力が抜け、憑き物が落ちたように穏やかな顔になると、静かに目を閉じ、眠りにつく……。
「できることなら、夢の中でだけは平和に……」
ささやかな祈りを呟くと覚醒アストはパーヴァリから背を向け、二階を見上げた、たった一人の観戦者がいた場所を。
「フッ……やはりこうなったか」
その観戦者、イグナーツは先ほどまで持っていなかった長大なライフルを担ぎながら、満足そうな笑みを浮かべた。
「残るはお前だけだ……多分」
「多分ではない。お前らが戦っている間に残りのメンバー、ナータンとマノリトに連絡しようとしたが、一向に繋がらない。きっとお前のお友達がうまくやったのだろう」
「そうか……」
改めて友人の無事を確認してホッとしたのが半分、目の前の男を倒せばようやく終わると安堵したのが半分、アストもまた僅かに顔を緩ませた。
「フッ……大分気が抜けているな」
「そう思っているなら痛い目を見るぞ。オレとしてはそれでいいけど」
「他の奴らならともかく、わたしはそう簡単にはやられんぞ」
「わかっている。あんたには注意しろとトシムネに言われているからな……イグナーツ」
「自己紹介の手間が省けたな。ならば早速始めようか」
イグナーツは服の前をはだけさせ、首にぶら下げたタグを露出させた。そして……。
(来るか!!)
「行くぞ!ジベ……の前に、T.r.Cフライングソーサー!!」
バババババババババッ!!ドゴオォォン!!
「な!!?」
ピースプレイヤーを装着すると見せかけて、外に待機してあった人間一人が乗れるようなその名の通り空飛ぶ円盤を呼ぶ!
それは機関銃と突進で扉を破るとそのまま……。
ゴッ!!
「――ぐっ!?」
動揺する青き龍に猛スピードで突撃!アストを勢い任せに押し込み、倉庫を縦断すると……。
ドゴオォォォォォン!!
「ぐあっ!!?」
向かいの扉に彼ごと再び激突し、外へと出た。
グンッ!!ドサッ!!
「うおっ!?」
そして少し上昇してからくるりと空中で反転、ゴミを捨てるように端っこに引っかかっていたアストを雑に払い落とす。
「ッ……この野郎……!」
「悪いな。あまり狭いところは好きじゃないんだ。パーティー会場は変更させてもらうぞ」
「そういうのは口で言えよ……!!」
「次からはそうする。次があったらな」
遅れて出てきたイグナーツは怒り心頭のアストと打って変わって軽口を叩けるほど悠々とした余裕のある態度。それにすり寄るように空飛ぶ円盤が彼の隣にゆっくりと移動する。
「さっきはああ言ったが、やはりやらないと締まらんな。よっと」
それなりの重量がありそうなライフルを肩に担ぎながら、イグナーツは円盤に飛び乗ると、これまたゆっくりと高度を上げ、自分の方が上だと言わんばかりに地を這う青龍を見下ろす。そして……。
「なので改めて名乗らせてもらう。オレは秘密結社T.r.C第一特殊工作部所属の狙撃手、イグナーツ。お前を狩る男だ」
自らの名を高らかに宣言する。その目には自信が溢れていたが、過信はない。一流の狩人の眼差しであった。
「改めて……強そうで嫌になるね……」




