勉強ができないだけ
ナイティンは槍を構え、対するジベ・パワーはハンマーを引きずりながら、間合いを維持するように旋回する。
まるで全ての感情と力を爆発させる瞬間を待ち望んでいるようにゆっくりと……。
「てめえ、まさか昼間のリベンジができるとか思ってないよな?」
「だったら悪いか?」
「悪くはねぇさ。負けん気が強い奴は嫌いじゃねぇ。ただ……」
「ただ?」
「ドラマや、ゲームを盛り上げるために逆転を促すルールがあるスポーツならともかく、実戦においてリベンジなんてことは早々起こらねぇ。最初に付いた差がいつまで経っても縮まらずに負け続け、引き際を間違えると最悪の結果をもたらすことになる……これ、オレの持論な」
「おれよりたくさんの経験をしたあんたがそう言うなら一理あるのかもな。だが、おれの持論ではバカほどわけのわからない持論を作って発表したがるからな~。実際はそれが正しいかどうかは、やってみないとわからないぜ」
「フッ……どっちが本物のバカかは結果次第か……いいぜ!すぐにてめえのバカさを証明してやるよ!!」
「できるもんならやってみろよ!バ~カ!バ~カ!!」
バババババババババババババババッ!!
子供みたいなことをいいながら盾の銃口から弾丸を連射するナイティン。
キンキンキンキンキンキンキンキン!!
それをものともせずジベ・パワーは一気に距離を詰める!
「ウオリャアァッ!!」
そして勢いそのままに両腕で振りかぶり、撃ち下ろす!
「よっと」
ドゴオォォォン!!
ナイティン回避成功!ハンマーが炸裂したのは床だ!衝撃から近くに散乱している壊れた自立型ジベやドローンの残骸が震えたが、それだけだ。
「全然ダメじゃねぇか!バカ!!」
銀色の騎士はくるりと反転。勢いをつけて、槍で横に薙ぎ払った!昼間にやったように!あの時は僅かに切っ先を掠める程度であったが……。
スカッ!!
「ッ!?」
今回は掠りもしなかった。片手を離し、身体を仰け反らせてジベ・パワーは完璧に回避してみせた。
「砂浜で言ったよな?お前の槍のリーチは把握したって!ましてやあの時と違って本調子じゃねぇんだから、どうやったって避けられるつーの!!」
「くそ!?」
「ほれ!反撃行くぞ!!」
ジベ・パワーは手首を返すと下からハンマーをかち上げた!
「くっ!!」
それに対し、回避は不可能だと判断したナイティンは盾での防御を選択。さらに衝撃を抑えるために、もう一方の腕で上から押さえつける。
ゴッ!ゴォン!!
「――ぐうっ!?」
そこまでしても完全に衝撃をシャットダウンできなかった。
大柄で筋肉質、決して軽くもない肉体をさらに上から機械鎧で覆ったヘビー級のナイティンは一瞬宙に浮き、すぐに着地し直すと、酔っぱらいのように一歩二歩と千鳥足で後退した。
「もう一発!!」
ジベ・パワーは休ませはしないと言わんばかりにハンマーを弓のように引くと、ねじり込むように突きを繰り出した。
ガァン!!バギィ!!
「――ッ!!?」
これもなんとか盾で防いだが、先ほどと同じく衝撃で吹っ飛び、さらには亀裂まで入れられた。
(ヤバい!一方的になってきた……流れを変えないと、このまま持っていかれる……!だけど!!)
「オラアッ!!」
(どうにもできない!!)
ガンガンガンガンガンガンガンガンガァン!!
「――ぐうっ!!?」
上から下から右から左から、ありとあらゆる角度からハンマーで滅多撃ち!ナイティンに施された高貴さを演出する装飾が削られ、抉られ、破壊されていく!
「はっ!やっぱ本来の愛機を使ったオレ相手じゃ、リベンジどころか一矢報いることもできねぇか!惨めだね~!!」
(好き勝手言いやがって!だが、この状況じゃ反論できない……イクライザーとの戦いを見ていた時も思ったが、使い難そうなマシンなのに、よくぞここまで自由自在に……おれなんかとは大違い……)
人間性はともかくマノリトの戦いっぷりは同じピースプレイヤー使いとして、敬意を覚える出来であった。メグミの闘志が揺らぐほどに……。
(だからどうした!!)
闘志が揺らぐとかそんなことはなかった。メグミ・ノスハートの芯にはこの程度では揺るがない確固たる決意と記憶が根付いているのだ。
メグミは時間を見て、アストやウォルと訓練を続けていた。
「ウリャアッ!!」
バギャアァン!!
「――ぐあっ!?」
パワーアストの一撃で盾と装甲を粉砕されると、ナイティンの活動限界を迎えて腕輪の形に戻り、生身のメグミが地面を転がった。
「またアストの勝ち~」
「わざわざ宣言しなくてもいい……痛いほどわかってる……くそ!!」
ゴッ!!
悔しさからメグミは地面に拳を叩きつけた。
「負けん気が強いのはお前のいいところだが、これは仕方ないだろ。パワフルなオレとナイティンでは性能差があり過ぎる」
「ん?今のは聞き捨てならないな。ぼくのデータでは受け方さえ良ければ、もっと耐えられるはず。この結果はひとえにメグミが弱いからだよ」
「ウォル、お前もうちょっと手心を……」
「いや、ウォルの言う通りだ……おれが弱いから……おれはもっと強くならないといけない……どうしても勝ちたい奴がいるからな……!!」
メグミは闘志の炎が灯った瞳で、パワーアストの金色の瞳を真っ直ぐと睨み付けた。
「メグミ……」
「こんなところで足踏みしてらんねぇ!!もう一本だ!!」
「次、ぼくだから!順番は守ってよ~!!」
(そうだ……おれはこんな奴に苦戦してる暇はないんだ!!もっと強く!もっと先に行くんだ!!)
決意を新たにしたメグミはマスク裏のディスプレイに表示されたナイティンの現在の状況を確認する。
(今、おれがこうしてまだ足りない頭を動かせるってことは、ウォルの言っていたいい受け方ができてるってことだ。うまいこと致命的なダメージを食らわないように、攻撃を外せてる。そもそもアストの拳骨に比べればへなちょこもいいとこだぜ。けど、それもいつまでもつか……早く逆転の一手を見つけねぇと)
続いて戦場である倉庫の中を改めて観察し出す。
(……一つだけ思いついた。一発芸みたいなしょうもない策だが……いや、ああいう自信に満ち溢れた手練にはこれくらいの方が意外と効果あるかもな。多分これ以上のもんは出て来ねぇし……やりますか)
ハンマーの嵐の中、ナイティンは再び盾を両腕で、さらに全身に力を込め、全力で構えた。
「まだオレの攻撃を正面から受け止められると思ってんのか!!バカは死ななきゃ治らないってのは本当みたいだな!!」
ジベ・パワーは盾を、そしてそれを構えるメグミのプライドを砕こうと、こちらも渾身の力を込めてハンマーを振り抜いた。
戦鎚と盾が再度ぶつかり合おうとするその時だった。
「一発限りのスペシャル!シールドバースト!!」
ドゴオッ!!
ハンマーに砕かれるまでもなく盾は弾け飛んだ……自ら勝手に!
正確には表面の装甲だけが凄まじい勢いで吹き飛び……。
ガリッ!ゴッ!ガリッ!ガリッ!!
「――うおっ!!?」
ハンマーを押し返し、弾丸となってジベ・パワーの装甲に傷をつけた!マノリトにとっては完全に予想外、特にハンマーはその重心から後ろに返されると、釣られて本体まで体勢を崩した。
「今だ!!」
好機来たれり!ナイティンは不恰好によろけるジベ・パワーに容赦なく追撃の槍を……。
「驚きはしたが……それだけだ」
ガッ!!グンッ!!スカッ!!
「――な!?」
ジベ・パワーはコントロールを失ったハンマーを力任せに地面に突き立てると、それを利用して、ポールダンスの要領で腕力だけで身体を無理矢理宙に浮かし、ナイティンの槍を回避した。さらに……。
「オレを出し抜こうなんて百年早いんだよ!!」
ガァン!!
「――がっ!!?」
そのまま両足蹴り!きれいにカウンターが決まり、ナイティンは散乱する自立型ジベやドローンの残骸に突っ込んだ。
「ふん。必死に頭を使ったようだが、結局オレとの差を埋めることはできなかったな」
「何、終わった雰囲気出してんだよ……勝負はまだ着いてないぜ……!!」
言葉こそ勇壮だが、ボロボロでやられっぱなしのナイティンでは説得力がない。マノリトからしたら鼻で笑う気にもなれなかった。
「まぁ、そう思いたいなら、そうだと思っておけば。で、地獄で他の奴らにバカだアホだと笑われればいい」
ジベ・パワーは恐怖を駆り立てるようにハンマーをガリガリと引きずりながら、ゆっくりとナイティンに近づいていく。
「くっ……!?」
「断末魔は決まったか?最後の言葉なんだからカッコよく決めろよ」
「う、うわあぁぁぁぁっ!!」
追い詰められ過ぎて恐慌状態に陥ったように見えるナイティンはジベ・パワーに背を向けた。またあの槍による回転薙ぎ払いを放つために。
(結局最後もそれか。二度も攻略した技なんて、目を瞑っても躱せるぜ。最小限のモーションで避けて、即踏み込み、ハンマーをぶち当てる……それで終いだ)
勝利への道筋を確定させたジベ・パワーはハンマーを両手で掴み、振りかぶると、槍の切っ先がギリギリ届かない位置に陣取った。今までと同じ攻撃なら、それで彼の思惑通り事が進み、勝利を手にすることができる……はずだった。
「うわあぁぁぁぁっ!!」
(当たらねぇ――)
ドゴオォォォン!!
「――よ!!?」
無防備な脇腹に衝撃が走り、ジベ・パワーは横におもいっきり吹っ飛んだ!
「がっ!?ぐはっ!!?な、何が起き……た!?」
息も絶え絶えになりながら顔だけ上げると、そこには腹に受けた衝撃以上の予想だにしない光景が広がっていた。
ゴウサディン・ナイティンの槍の切っ先に自立型ジベの頭部やドローンの残骸が氷で固められて、ハンマーのようになっていた。
つまり……リーチが伸びていたのである。
「てめえ……それは……!?」
「砂浜で言ったよな?おれは勉強はからっきしだが、ダチとは違うタイプの天才だって。てめえにリーチが見切られているなら、それを利用してハメる方法くらい余裕で思いつくんだよ」
「くそ!?こんなしょうもない手で……!!?」
「案外こういうシンプルな方がいいんだ。てめえなら、わざわざ言葉にしなくても身をもって理解してるだろうけどよ~」
「こいつ……!!」
なんとかハンマーを杖代わりにして立ち上がるジベ・パワー。だが、その足は小刻みに震え、とてもじゃないが戦闘を続けられる状態ではなかった。
「ギリギリで急所を守っていたおれと違い、もろに入った。肋骨や内臓にダメージを食らったんじゃ、さっきまでみたいにハンマーを振り回せない……この差は逆転不可能だ」
「ぐっ……!?」
「断末魔は決まったか?最後の言葉なんだからカッコよく決めろよ!!」
氷でコーティングされた槍を投げ捨て突撃!決着をつけるために疾走する!
「こ、このぉ!!」
対するジベ・パワーもハンマーから手を離し、迎撃のために拳を突き出す……が。
ヒュッ!ガァン!!
「――がっ!!?」
あっさりと躱され、カウンターの盾パンチ!さらに……。
「オラアッ!!」
ドゴオッ!!
「――ぐふっ!!?」
さらに先ほど氷と残骸のハンマーを叩きつけたところにボディーブローで追撃!痛みで悶絶するマノリト!そこに……。
「でりゃあぁぁぁぁぁっ!!」
ガンガンガンガンガンガンガンガン!!
「ぼへぇーーーっ!!?」
幼なじみであり、絶対に負けたくない相手でもあるアストを彷彿とさせるラッシュ!珍妙かつ間抜けな鳴き声を上げるジベ・パワーの顔面を、胴体を叩きに叩きまくる!
「ラスト!!」
ドゴオッ!!
仕上げの一発!全体重を乗せたナックルを顔面に受けたジベ・パワーは木の葉のように吹き飛び、銃で撃ち抜かれた小型オリジンズのように地面に落下した。中身であるマノリトの意識はとっくに途切れている。
「何が最後の言葉なんだからカッコよく決めろよ、だ。てめえのできねぇことを他人に要求するなよな」
そして最後にビシッと決める。メグミの、ゴウサディン・ナイティンの完全勝利、リベンジ成功である。




