救出・強襲・分断
アストがパーヴァリと戦っている頃、イクライザーも目的地である友人がいるであろう倉庫に到着した。
「ここが頭も良くなければ、可愛くもないお姫様が囚われている場所か」
「味気ないっすね。もっと雰囲気のあるお城とかならテンション上がるのに」
「そういう配慮ができる奴ならT.r.Cなんかに所属してないさ」
「思いやりの気持ちが根本的に欠けてるってことっすね」
「そんな気配りのできない奴らとは、関わらないのが吉だ。とっととメグミを回収しておさらばしよう」
「そうなるといいんすけど……」
願望と不安を抱きながらイクライザーは倉庫の扉に手をかけた。
ギィ……
扉には鍵はかかっておらず、簡単に開くことができた。
「頼も~う……なんてね」
「マスター、早速目標発見しました」
倉庫の奥の柱に鎖に繋がれたメグミをイクライザーのカメラが捉える。パッと見、怪我もしてないし、意識もあるようだ。
「メグミ!!」
「イクライザー……ウォルか……」
「君なんかのことをわざわざ助けに来たよ!」
「そりゃどうも……だけどはしゃぐのは、実際に助けてからにしてくれないか……」
「そうだね。今すぐ君を……助けたいところだけど、その前に片付けないといけないことがあるみたい」
「はっ!さすがに気づくか」
メグミが繋がれた柱の陰から背の高い男が出て来た。見張り役を買って出たマノリトだ。
「あんたは?」
「秘密結社T.r.C第四資材調達部所属マノリト……あんたの友達がこんな目に合わせた元凶の一人さ」
ゴッ!
「いてっ!?」
マノリトは身動きできないメグミの脇腹を爪先で軽く小突いた。
「人質の安全は保障するって聞いていたんだけど、その仕打ちは何?」
「てめえらが約束を守んなかったことへのお仕置きだ。ブルードラゴン一人で来いって言ったはずだよな?」
「このイクライザーはブルーディーの頼れるサイドキック。一心同体、二人で一人と言っても過言ではない。だから約束は破ってない!!」
イクライザーは大きく堂々と胸を張って、無茶苦茶な主張をした。
「屁理屈ここに極まれりって感じだな。これじゃあどっちが悪役かわからねぇ」
「自分達が悪役って自覚はあるのか。なら、とっとと正義の味方に倒されてくれたまえ」
「やなこった。悪だって生きたいし、幸せになりたい。そのために手段を選ばないから、悪なんだ」
マノリトがパチンと指を鳴らすと、二階から五体の自立型のジベと同じく五機のドローン、百貨店でアストを襲ったものと同型のものがぞろぞろと姿を現した。
「子分を呼んでけしかける……悪役ムーブ最高だね」
「いつまで軽口叩けるかね……やれ!!」
「「「!!」」」
マノリトの命令に従い、ジベが飛び降り、ドローンが飛来する!
「マルチランチャー、ノーマルショットで」
「マルチランチャー、ノーマルショットでセットアップ完了」
対するイクライザーは重工な銃を召喚、銃口をジベに向けると、マスク裏のディスプレイにカーソルが表示され、ターゲットと重なる。
「目標捕捉、誤差修正……ここまでやれば子供でも当てられるっす」
「じゃあたくさん訓練したぼくなら余裕だ……ねっと!!」
バシュ!バシュ!ドゴォッ!ドゴォッ!!
手始めに二体撃破!引き金を引くと同時に発射された光の弾丸が見事にジベの胴体に命中、穴を開け、機能を停止させた。
「「「!!」」」
仲間をやられたことに怒ったわけではないが、残るジベが電磁ロッドを一斉に召喚、そして一斉にイクライザーに飛びかかった……が。
ブゥン!!
しかし、ターゲットはあっさりと攻撃を回避し、射程の外に逃げられてしまう。
「はっ!殴り合いなんて天才のぼくには似合わないけど、対策は……って、これさっきも言ったな」
「どんだけ避ける訓練頑張ったことを知って欲しいんですか。天才名乗るなら、そういう部分は隠さないと」
「うっ!言われてみればそうかも……」
「そうっすよ。天才ならもっと涼しい顔で敵を翻弄しなきゃ」
「こんな風にか!!」
バシュ!バシュ!バシュ!ドゴオォォォン!!
引き撃ち三連発!からの三連続撃破!
ジベは先ほどの同型機と同様に身体に穴を開けられ沈黙。これにて全滅だ。
「機械人形ごときがぼくに勝てるわけないだろ」
「それ、機械差別です。然るべき場所に訴えさせてもらいますよ、人間……!!」
「おお……ぼくの才能は人類にとって、忌むべき存在を産み出してしまった……」
バババババババババババババババッ!!
「ふざけてる場合じゃないか」
「っすね」
ジベの次はドローン!空中から覚醒アスト対策のために搭載された電撃弾を浴びせかける……が、いとも容易くこれも回避されてしまった。
「解析完了、アスト様用の電撃攻撃のようっすね」
「なら避けずに吸収すれば良かったか」
「安易にイクライザーの能力に頼って攻撃を受ける癖がつくのは宜しくないっすよ」
「それもそうか。んじゃ大切なことを思い出させてくれたドローン君を使命から解放してあげようかね」
イクライザーは銃口を上に向けた。しかしドローンは無軌道に動き回り、狙いがうまく定まらない。
「ちょこまかと……!的も小さいし!!」
「そこがドローンの良いところっすからね」
「褒めてないでスピードショットに切り替えて!質より量で勝負だよ!」
「OK。スピードショット、セットアップ」
「喰らえ!!」
バババババババババババババババッ!!
マルチランチャーから発射されたのは、先ほどよりも速く、細かい弾丸の群れ!これには小回りが自慢のドローンも……。
ドゴォッ!ドゴォッ!ドゴオォォォン!!
避けられず。一発ひっかかったら、それで最後。蜂の巣にされて爆散、倉庫中に破片を撒き散らした。
「これで雑魚は一掃!」
「あとは……」
「本命だな。めんどくさいがやってやるよ」
自分がやらなければと渋々決断したマノリトは服をはだけ、首にぶら下がったタグを露出させた。
「イクライザー!そいつは電気を使う黄色いマシンを使うぞ!!」
「電気で黄色……」
刹那、ウォルの脳裏に百貨店で相対したジベ・エレキの姿がフラッシュバックする。
(あれなら威力据え置きのスピードショットのままいけるか?)
「ジベ……」
「つーか迷っている暇はないか!出鼻を挫く!!」
バババババババババババババババッ!!
再び火を噴くマルチランチャー!けたたましい音と共に無数の弾丸が発射されると、マノリト、そして地面に着弾し、土煙を巻き起こし、彼の姿を隠してしまう。
「やったか?」
「それ失敗フラグっすよ」
「いや、天才であるぼくにはそんな常識適用されな――」
「ジベ・パワー」
「――い!?」
普通に適用された。
土煙が晴れて姿を現したのは、思い描いた黄色いマシンとは面影こそ似てるが、全くの別物、各部が増強され、長い柄のついたハンマーを持つジベであった。
「ジベ・エレキだと思ったか?悪いな、こいつがオレの本来の愛機ジベ・パワーだ。その弾の速度と連射性を重視したセッティング?とにかくそれじゃあこいつの装甲は抜けねぇぜ」
「ちっ!また面倒そうな機体を……」
「見るからにバリバリの近接格闘型っすね。懐に入り込まれたらヤバいっすよ」
「なら近づけさせない!ルビー、パワーショットだ!」
「ラジャー、パワーショットセットアップ……完了。絶対に当ててくださいね」
「もちろん!!」
ドシュウッ!!
放たれた弾丸は先ほどよりも大きさ、熱量が明らかに違った!力強かった!だが、その反面……!
「遅っ」
ヒュッ!ドゴオォォォン!!
弾の速度はスピードショットとは比べるまでもなく、ノーマル以下の鈍足。鈍重そうなジベ・パワーでも、かなりの余裕を持って避けられた。
「それは倉庫の風通しを良くするための最新の工具か何かか?」
「ふざけやがって……ルビー!もう一発だ!」
「いや、パワーショットが冷却やら溜めやらで連射できないのは、作った張本人ならわかっているでしょ」
「……あ」
「だから必ず当てろって言ったのに」
「はっ!もう打つ手無しか!ドラゴンのおまけその二!!」
「ッ!?」
イクライザーがもたついているあからさまな隙を見逃してくれるはずもなく、ジベ・パワーは自分の最も得意とするレンジ、逆に相手が最も警戒しているレンジに侵入する!
「潰れろ!!」
そして勢いそのままに振りかぶったハンマーを叩き下ろす!
ブゥン!!ドゴオォォォン!!
ハンマーは見事に命中し、破壊した……倉庫の床を。
「避けるのは以下略!!」
間一髪、ここでも訓練の成果を発揮し、イクライザーはかろうじて一撃必殺となりかねない協力な攻撃をバックステップで躱した。
「なるほど……本当に逃げ足だけは一丁前なんだな!だが、オレ相手にはいつまでもつかな!!」
ブンブンブンブンブンブンブンブン!!
「くっ!?」
まるで暴風雨のようにハンマーを振り回すジベ・パワーに対し、イクライザーは防戦一方、避けることに精一杯で反撃の余地もない。
「このままダンスを続けるか?オレは明日の朝までだって付き合ってやるぜ」
「君となんて一刻も早く離れたいよ……!!」
「そう思うなら倒してみな!!そのスピードとかパワーとか、仲良しのブルードラゴンと同じダサいセンスの銃とか使ってさ!!」
「ネーミングセンスなら君のところの会社も変わらないだろうに!ジベ・パワーって……そんなんでブルードラゴンの形態変化に対抗できるか!!」
「かもな。特上のエヴォリストは確かに無理かも……だが!!」
ガチッ!!
「――ッ!!?」
「てめえ程度の凡百の雑魚を倒すには十分だ」
ハンマーがイクライザーの特徴である赤い半透明のパーツを削り取った!
その触れるか触れないかのギリギリのヒットは物理的には微小であったが、ウォルの精神には大きなダメージを与えた。
(ヤバい!?あんな鈍そうなマシンなのにもう当ててきた!?動きを見切られ始めている……ぼくではこいつに勝て――)
「マスター、下がって」
「!!」
ブゥン!!
横方向に薙ぎ払いのハンマー!ルビーの言葉がなければ、イクライザーの胴体にぶち当たり、勝負が決まっていただろう。
「助かったルビー……」
「おせっかいついでに提言します。相性的に、ちょっと無理っぽいですよ、こいつ」
「ぼくもちょうどそう思っていたところだ」
「では……」
「プラン変更だ!準備はできてる?」
「もちろん。うちは優秀っすから」
「またAIと漫才してんのか!!もう見飽きたんだよ!!」
ジベ・パワーは高らかにハンマーを掲げ、突撃!先ほど同様また一撃で決めに来た。
それをイクライザーは待っていた。
「今だルビー!!」
「イクライザーフラッシュ発動」
カッ!!
「よし!!」
イクライザーの赤い半透明なパーツから強烈な光が放たれ、倉庫内を照らした!
これを間近で食らったジベ・パワーは自分を見失っているはず……そう信じてイクライザーは幼なじみの下に走り出した。
(ぼく一人で無理ならメグミの力を借りる!二人がかりならきっと……)
「おいおい、あいつはオレを倒した時のご褒美だぜ」
「な!?」
目が眩んでいるはずのジベ・パワーがカットイン!さらに……。
ガシッ!!
「――があっ!!?」
全力疾走して、すぐに止まれないイクライザーの首根っこを掴み、片手で悠々と持ち上げた。
「てめえのマシンに付いてる小細工なんてこっちはお見通しだ。こんな子供騙しにすがるしかないなんて……情けねぇな~。つーか、報酬だけ掠め取ろうなんて、盗人猛々しいにも程があるつーの」
マノリトはなんて浅はかなんだとウォルのことを鼻で笑った。情報を遥かに下回る雑魚だと、心の底から嘲った。
そんな彼を……。
「フッ……そこまでしか頭が回らないなんて……T.r.Cもたかが知れるね……」
「あ?」
そんな彼をウォルもまた嘲笑した。勝ち誇ったようにマスクの裏で笑みを浮かべた。
「強がりはよせ。てめえの作戦はご破算になったんだよ」
「これだから凡人は……どこをどう見たらそうなるんだよ……」
「いや、どっからどう見ても失敗だろ!助けに行こうとしたのをこうして止められたんだからよ~!」
「メグミから何でピースプレイヤーを取り上げなかった……?」
「は?」
「何でだ?答えてよ……」
「そんなもんあいつが生きていることを知らせるためだ。だからてめえは遥々とこんなところまで来たんだろうが」
「そうだね……だけどさすがに無防備過ぎやしないか?あいつがピースプレイヤーを装着すれば鎖なんて一発だよ……」
「わかってるよ。だが、それはできない。ピースプレイヤーに深刻なダメージを与えたからな。ある程度のレベルまで自己修復が終わらねぇと、装着した奴が危ないってんで、起動できないことになってるのを知らないのか?」
「もちろん知ってるよ……ぼくは天才だからね……」
「なら!」
「ゴウサディン・ナイティンを作ったのもこの天才のぼく……ならば遠隔で無理矢理リブートするのも容易い……!」
「ッ!?しまっ――!!?」
自分の決定的なミスに気づいたジベ・パワーはイクライザーから手を離し、振り返った。そこには……。
「どりゃあぁぁぁぁぁっ!!」
盾で殴りに来た銀色の騎士の姿があった。
ガァン!!
「――ぐっ!!?」
顔面をブン殴られたジベ・パワーは倒れ、地面を転がった。
その間にイクライザーとナイティン、幼なじみは合流する。
「助かったぜウォル……」
「お礼ならルビーに言って。君のマシンの再起動を頑張っていたのはこいつだから」
「崇めろ、讃えろ、跪いて頭を垂れろ人間」
「素直に感謝させてくれよ……いや、マジありがとうだけど」
「まっ、そういう話は全部終わってからすればいいよ。まずはきっちりかっちり……」
「こいつを倒さねぇとな……!!」
「てめえら……!!」
ジベ・パワーは顔面に亀裂が入り、転がったせいで身体が汚れていたが、健在であった。少なくとも戦力が落ちたようには見受けられない。
「まだまだ元気って感じだね。むしろぼく達への憎しみでパワーアップしてる気がする」
「ナイティンが万全じゃないにしても、もう少しどうにかならなかったっすかね……」
「あいつが強いんだよ。あの状況で自分から後ろに跳んで、オレの攻撃の威力を減らしやがった」
「腐ってもT.r.Cの部長候補か。でも……」
「二人がかりなら倒せない相手じゃないっすね」
「卑怯くさくて、あんまり気が乗らねぇが、それが最善策か……!!」
イクライザーが銃をターゲットに向けると、ナイティンが盾を構え、槍を引いた。どちらもやり慣れている動作だ。
「練習通り、ぼくが援護するから」
「おれが前線で暴れればいいんだろ。わざわざ言わんでも、身体が覚えてる。実戦でもおれ達の連携が十二分に通用するってところを見せてやろうぜ」
「おう!努力の成果をここで――」
「高熱源反応!!二人とも散開するっす!!」
「「!!」」
刹那、二人は迷うことなく電子頭脳の言葉に従って、お互いに離れるように横に跳んだ。
時を同じくして、同じようにジベ・パワーも横へと移動する。
次の瞬間であった。
ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
「「な!!?」」
ジベ・パワーの後方の壁を突き破り、強烈なビームが強襲!そのまま向かいの壁にまで穴を開ける。もしあのままじっとしていたらなんて想像もしたくなかった。
「おい……あわよくばおれごと吹き飛ばそうとしただろ?」
「まさか。そう思っているなら、事前に通信で注意なんてしない」
いまだに赤熱化しているビームが出て来た穴から出現したのは、ここにいる他のマシンより一回り大きいピースプレイヤーであった。
その右手に装備されたこれまた大きな砲口から、白い煙が昇っている。こいつが今の攻撃の発生源なのは明らかだった。
「ウォル……あのマシンは?」
「クリラ・テクノロジーズの第三世代ピースプレイヤー、『ヘヴィードッグ』だよ」
「正確にはヘヴィードッグ“改”だ。秘密結社T.r.C第二新兵器開発部所属の自分、ナータン自らカスタマイズしてある。この日のためにな」
「あんたがナータンか。少しだけ会いたかったよ」
「自分もだイクライザー」
「そうか……なら」
「あぁ、そうだな」
イクライザーはナイティンに、ヘヴィードッグ改はジベ・パワーに目配せする。相棒の言いたいことを察した二人は示し合わせたかのように首を縦に振った。
「決まりだね……付いて来いナータン!!メカニック同士で決着をつけよう!!」
「望むところだ!!」
イクライザーは自分の背後に空いた穴から飛び出し、外へ。後を追うように来たばかりのヘヴィードッグ改もスラスターを吹かしながら、出て行った。
つまりこの倉庫内に残ったのはナイティンとジベ・パワー、メグミ・ノスハートとマノリトの因縁の二人……。
「図らずも望んだ通りのマッチアップになったな……!」
「さっきのパンチの借り……早速返させてもらうぜ……!!」




