怖いのはどちら?
パワーアストはまたまた面倒ごとに巻き込まれた苛立ちを胸に秘めながら自立型のジベの軍団をゆっくりと見定めた。
(数は六……今、潰したのを含めると七か。気配を感じないから自立型だと思ったら案の定。デザイン的に昨日の謎のスナイパーに似ているが、奴と関係あるのか?)
再び脳内にフラッシュバックする昨日の刹那の邂逅。それが小さな後悔となってアストの心にのしかかる。
(あの時、ちゃんと追っていればこんなことにならなかったのかな……みんなの笑顔が溢れる場所に悲鳴を響かせることには……!!)
どうしようもない不愉快な感情が巨大化した拳を固く握らせ、全身から強烈なプレッシャーを迸らせた。
「ひっ!?」
「――!?しまった!?」
青き龍の中に渦巻くだけには飽きたらず、背中からも放出された激しい怒りの感情を少女の敏感かつ繊細なセンサーが感じ取り、ジベを見た時以上に恐怖で顔をひきつらせてしまった。
「あ!あの!オレはこう見えて、悪い奴じゃなくて……」
「ひいぃぃぃっ!!?」
弁明する顔もまた金色の瞳が爛々と輝いて怖かった。状況をさらに悪化させただけだ。
「参ったな……もう何でもいいから安全な場所に」
「アキちゃん!!」
「ママ!!」
困り果てた青龍の前に救世主が颯爽と参上!母親が現れ、少女を抱き抱えた。
「助かった……お母さん、その娘を」
「ひいっ!!」
「あ……両親とも同じ感性なのね」
母親にとっても異形のパワーアストは恐怖の対象でしかなかった。お礼も言わずに一目散に娘を連れて逃げ出してしまう。
「まぁ、こんな“なり”じゃ仕方ないか。別に感謝されたくてやったわけじゃないし……とにかく目の前のことを片付けようかね」
気を取り直してパワーアストは再びジベ軍団と向かい合った。少女やその母親とのいざこざの間も彼らは直立不動でその場から一切動いていない。
「子供に手を出さずにお利口に待機していたのは褒めてやる。ドッキリをやり過ぎたと謝るなら許してやってもいい。だが、オレの経験上……」
「!!」
「やっぱりな」
ジベの一体が警棒を召喚、振り上げながらこちらに向かって来る。ことごとく当たって欲しくない予想が当たることに辟易しながら、パワーアストはその逞しい腕でガードポジションを取った。
ゴッ!!
「ちっとも効かねぇよ」
各部モーターを最大出力で連動して撃ち下ろされた警棒だったが、空気中の水分を集め、鎧のように纏っているパワー特化と同時にディフェンス特化でもある今のアストには僅かな痛みすら与えることはできなかった。
「別に戦闘のプロってわけじゃないが、それなりに場数を踏んでいるんでな……人形相手に遅れは取らんよ」
勝ち誇るアスト。その目の前でジベは警棒に付いているスイッチを押し込んだ。
バリバリバリバリバリバリバリバリ!!
電撃放出!警棒から激しい電気が流れ、小さな稲光がけたたましい音とともに明滅した。しかし……。
「痺れるな……マッサージにはちょうどいい」
しかしこれもアストには効かず。それもそのはず、この姿はこういう状況に対応するためのものなのだから。
「通常覚醒形態だったら、少しはダメージを食らったかもしれないが……パワフルなオレにはそんなちんけな電撃!脅威にもならない!!」
ドゴッ!!バギャアァァァァン!!
鉄拳一撃!力任せに振り抜かれた巨拳をもろに食らったジベは全身がひび割れ、砕け、中から様々な部品を撒き散らしながら、百貨店の小綺麗な壁に叩きつけられ、機能を停止した。
「……とはいえ、電気がオレにとって鬱陶しいには変わらない……だから一気に決めさせてもらうぞ!!」
ヒュッ!ガシッ!!
パワーアストは間髪入れずに次の獲物を強襲!
一気に距離を詰めると巨大化した手のひらで精密機械がぎっしり詰まったジベの頭、そしてもう一方の手で腕を掴んだ。
「千切れろ」
バッ!バギイィィィィィィィン!!
これまた強引に引き裂く!さらに腕と頭が千切られた胴体を……。
「はっ!!」
ドゴッ!!
前蹴り!残りのジベの軍団に向かってシュートした。
けれど残念、散開して避けられてしまった。
「………」
「………」
右と左から同時に迫るジベ。ネットワークで繋がれているのか寸分違わぬタイミングで電磁警棒を振り下ろした。
ヒュッ!!
だが、タイミングを合わせ過ぎたのか、バックステップ一つで避けられてしまった。
「もしかして古いモデルか?あんまり動きが良くないなぁ!!」
ガシッ!!
青龍は右手で再びジベの頭を掴むと……。
「うおりゃあ!!」
ドッ!!バギイィィィィィィィン!!
おもいっきり振り回し、もう一体のジベにぶつけた。衝撃で二体同時にバラバラになり、どのパーツがどちらのものかわからないほどぐちゃぐちゃの状態にされてしまう。
「残りは……」
残りは二体。その二体が縦に真っ直ぐ並んでいるのを金色の瞳が目敏く捉える。
その瞬間、勝負は決した。
「まとめて吹き飛べ!!」
パワーアスト、その巨体の全てを使いタックル!
ゴッ!!
「「!!?」」
二体のジベは回避運動も取れずにまとめて龍に凄まじい衝撃と共に捕らえられ……。
ドッゴオォォォォォォォォォォン!!
百貨店の壁と挟まれ、潰され、ただのスクラップになり果てた。
「これで全部……」
ブウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン……
「………ちっ」
残念ながらまだ戦いは終わっていなかった。七体のジベと入れ替わるように、七機のドローンが飛来し、アストを嘲笑うかのように頭上を旋回する。
「一難去ってまた一難……機械人形の次は機械仕掛けの羽虫か」
「「「!!」」」
バババババババババババババッ!!
ドローンはアストの気持ちなどお構い無しに銃弾の雨を降らす。
「ふん」
それに対し青き龍はその歪な姿に似合わぬ軽やかな動きで回避……しようと思ったが。
(さすがに多いか)
経験則からそれは失敗すると即座に方針転換。根を張るようにワックスの効いたピカピカの床を踏みしめ、防御体勢を取った。
バリバリバリバリバリバリバリバリ!!
「――ッ!!?お前らもか!!」
弾丸は龍の腕に命中した瞬間に先の警棒同様に激しい電撃を放った。こうも自身の特効となる攻撃が続くと偶然では済まされない。
(一度目の警棒はたまたまでも、二度目となると……こいつらオレへの対策としてわざわざ電気で攻撃できる装備を用意しているな。つまりこの騒動はオレの……)
再び罪悪感が心の奥底から湧き上がり、アストの顔を歪める。
電撃なんかよりも自分のせいで、何の罪もない人達に怖い思いをさせてしまったのが苦しかった……。
(……自分を責めても何も解決しないよな。いつまでも射的の的をやっているのも癪だし、とっとと終わらせよう。空中にいる相手には……)
刹那、先ほどの少女や逃げ惑う群衆の姿を思い出した。
(涙閃砲や散青雨、特訓中の新形態で撃ち落とすのが一番楽だが、流れ弾がどこかに隠れている人に当たったらまずい。ここは面倒だが……!!)
「はあッ!!」
厄介な害虫の駆除方法を決めたパワーアストは自慢の防御力を存分に発揮し、電撃弾を弾きながら前進、そして跳躍した。
「アウェイ!!」
ゴッ!!
「ク!!」
バギッ!!
「スピード!」
ドゴッ!ブシュウゥゥゥゥゥゥッ!!
三機のドローンを飛び移り、蹴り落としながらパワー特化からスピード特化へと形態変化。以前は通常形態を挟んだ上で、かなりの時間が必要だったが、今はこうしてホップ、ステップ、ジャンプしながら短時間で直接変形ができるほど大きく進歩している。
「さてと……」
肩と脚、そして背中から水蒸気を勢い良く噴射し、ドローンに負けじと空中を浮遊するスピードアスト。残る四機の敵の位置を、姿形は変わっても、こちらに弾丸をばらまく時の輝きだけはいつもと変わらない金色の瞳に焼き付けた。
「目標捕捉……二秒以内に撃破する」
ヒュッ!ドゴオッ!!
目にも止まらぬスピードで接近からの膝蹴り!一機撃破!
「次!」
バギィッ!!
反転しながら距離を詰めて回し蹴り!二機目も粉砕!
「さっきの奴らと同じで……最後は二体まとめて!ブルーシュート!!」
ゴッ!ドゴオォォォン!!
三機目をサッカーボールのように蹴り出し、四機目にぶつける。有言実行、二秒以内にドローン軍団を壊滅させた。
(今度こそおしまいか?ならウォルとピンキーズに連絡を入れて、残骸を調べてもらおう。いや、これだけの騒ぎ、オレが言わなくても勝手に来るか――)
「ブラボー!!」
パチパチパチパチパチパチパチパチ!!!
「――!!?」
スピードアストの無双っぷりを称える声と拍手の音が静かになった百貨店に響き渡った。
音のした方、先ほどまでいた一階の広場を見ると、身体を鍛え上げているであろう筋肉質な大男が不愉快なにやけ面を浮かべながら手を叩いていた。
「お前がこの騒ぎの元凶か……?」
「そうだと言ったら?」
「少し痛い目を見てもらう」
「その言葉そっくりそのまま返すぜ。おれはあんたを痛い目に会わせるために遥々カウマまで来たんだ」
「お前は……何者だ?」
「おれは秘密結社T.r.C第二戦闘部所属のトシムネ。世界をあるべき姿に戻すための聖戦士の一人にして、スペードのAを引いた男……なんてな」




