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No Name's Awakening  作者: 大道福丸
離島編
7/70

闇の中での出会い

 学校から少し離れた場所にある森の中、こんな夜更けに普段なら人っ子一人いないであろう場所を学生四人が歩いていた。

「肝試しで来た以来かな……」

 一番背の低いウォルター・ナンジョウが呟いた。

「……ガキの頃はよく遊びに来てたよな……」

 一番背の高いメグミ・ノスハートが答える。

「へぇ、そうなんだ……」

 転校生のアイル・トウドウが覇気のない相槌を打つ。

「……………」

 青き龍の紋章を継ぐ者、アスト・ムスタベは黙っていた。

 そこで会話が途切れ、四人とも沈黙してしまう。口が重い、そしてそれよりも重いのが彼らの足取りだ。

 それでも彼らは進み続ける。この狂った状況から脱出するために。そのためにウォルが再び重苦しい口を無理矢理開いた。

「……キョウコ先生達をアストが制圧したと思ったら、次々と他の先生達も……一体、なんなんだ……」

 彼らはなんとか豹変した教師達から逃れ、その結果としてこんな場所を歩いているのだ。精神的にもかなり参っているのだろう、満を持して放たれたのは愚痴だった。けれど、ウォルが本当に問いたいのは別のことだ。

「で、これからどうするの……?このまま宛のない逃亡劇を続けるのかい?ねぇ、アスト……」

 幼なじみに問いかけられ、先頭を歩いていたアストの足がピタリと止まった。彼に続いていた残りの三人も当然止まる。

「理由はわからないが……先生達がみんなあれじゃあ、他の島民もきっと……!」

 友人の方は振り向かず、発した言葉は若干震えていた。暗闇だから分かりづらいが、身体も震えている……。

「だったらよぉ!どうするってんだ!この島から出るっていうのか!?」

 メグミは苛立っていた。この訳のわからない現実に対してはもちろんだが、終生のライバルだと勝手に思っているアストの落ち込む姿は見たくなかったのだ。

 そして、ぶっきらぼうに考え無しで言ったその言葉ははからずもライバルが今まさに言おうとしていたことを言い当てていた。

「あぁ……この島から出よう……」

「あぁん!?どうやって!?」

 苛立つメグミの言葉を浴びながら、アストはここでくるりとみんなの方を振り返った。その顔は決意に満ち溢れている。

「そりゃあ、船に決まってるだろ。連絡船で本土に向かう」

「連絡船?それって今日は欠航してるんじゃ……つーか、お前の言う通りなら操縦する奴もおかしくなっているんだろう?鍵なんかもかかったいるだろうし……」

 アストは視線を質問してきたメグミからウォルへと向けた。

「鍵なんてどうにでもなるだろう……ピースプレイヤーのロックを外せるお前ならよ、なぁウォル?」

 幼なじみから熱い信頼を寄せられたウォルの顔はみるみると明るく……というより悪巧みをしているような不敵なものへと変化していった。

「誰に言ってるのさ……ぼくは天才ウォル君だよ、そんなの余裕さ。っていうか、前にもやったこともあるし」

「えっ、前にも!?あるのかよ!?」

「おうよ!」

「お前って奴は……」

 予想を越えてきたウォルの答えにアストは驚いた。多分、あんまり、いや間違いなくそんな経験あってはいけないのだが、今は心強い……そう思うことにした。

「まぁ、いいや……それなら安心……でいいんだよな……?」

「だから、任せといてって。自動操縦もばっちり起動させて、快適なクルーズをお届けするよ」

「そうか……ぶっちゃけ沖まで、本土まで行かなくてもスマホが繋がるところまで行ければいいんだけどな。でも、これで……」

 方針が固まった。こうなってしまった原因も解決法もわかっていない、ただ逃げようと言っているだけなのだが、不思議と皆、心に火が灯ったように感じていた。

「トウドウ君もそれでいいね?」

「もちろんさ」

 トウドウは微かに笑みを浮かべながら首を縦に振った。

「メグミは……どうしても嫌ってんなら置いていくけど?」

「おい!」

 メグミは相変わらずの扱いに吠えた!だけど、その顔は嬉しそうだ。


ポトッ……


「ん?」

 そんなメグミの顔に水滴が一滴……。

「こりゃ、ふざけてる場合じゃないな……」

「それはまぁ、ずいぶん前からそうだけど……」

「いや、トウドウ君、そうじゃなくて……」

「そうじゃなくて……?」

「雨降ってきたっぽい」

 メグミは顔に感じた水分を雨だと勘違いした。普通誰だってそうだ。

「雨……?アスト君……?」

「オレは何も感じないし、確かしばらく予報じゃ晴れが続くって……」

 トウドウとアストはお互いの顔を見合せ、首を傾げた。湿気こそ肌に僅かに感じるが雨の気配とは思えなかった。

「こういう場合って……」

「ウォル……?」

 この場で正確な状況を把握しているのはただ一人、天才ウォルター・ナンジョウ……とは言っても、たまたま、偶然の産物だが。そして、それが正解なら喜ばしいことではないので口が重い。でも、言わなければもっと悲惨なことにもなりかねないので覚悟を決める。

「ちょうど……少し前に見たホラー映画だとさ……」

「ホラー映画……」

 だんだんと雲行きが怪しくなってきてアストは自分の言葉より、メグミが正しいことを心の中で祈る……無駄なことなのに。

「そう、ホラーだと……上を向くと……」

「上を……」

 ウォルの言葉と共に四人同時にゆっくりと目線を上へ。するとそこには……。


「ギシャアァァァァァッ!!!」


「「で、出たぁぁぁぁぁッ!!?」」

 木の上から人間一人、男がギロリとこちらを睨み付けていて、視線が交差した瞬間、全員が叫び声を上げた。

「ギシャアァッ!!」

「散らばれ!!」

「うおっと!!」

 男は間髪入れず真上から強襲!しかし、アストの指示で事なきを得た。

「なんなんだ!?こんなところにもこの島は人がいるのか!?」

 トウドウはてっきりこんな緑が生い茂った手入れのまったく行き届いていない場所で人間と遭遇するとは思っていなかった。その認識が自分だけのものかこの島の原住民にどうしても聞きたかった。

 それについては、アスト達も同意見だった。

「いや……この辺には滅多に人は来ない……」

「さっきも言ったけどよ……おれ達がガキの頃遊んでたんだが、変人扱いだったぜ……」

「確か何年か前に、この辺りに一人外国から移住してきた人がいたけど、あまり出歩くことはないから顔は知らない……でも、こいつは……トウドウ君も見たことあるんじゃない……?」

「…………そうだね」

 男の顔にはみんな見覚えがあった。特に最近はある理由で目立っていた。

「こんな夜でもばっちり見える白い胴着……こいつ、うちの学校の空手部の奴だ」

 男はアストの言う通り、空手部の人間だった。多少土で汚れてはいたが白い胴着を着ていて、そこだけ光が灯っていたように見えた。

「けどよ……なんでその空手部の奴がいるんだよ……?」

 男の正体はわかったが、ここにいる理由は未だ不明……だと思っているのは、メグミだけだ。他の三人は目処がついている。

「今の空手部はかなり強いんだよ……」

「転校生の僕も登校初日に先生にそう言われた。今度出る大きな大会でも期待できるって……」

「今日は部活禁止って言われたけど、どうしても練習したくて、人目を忍んでこの辺鄙な島の中でも、辺鄙な場所に来たんだろうぜ……!」

 実際に三人の推測通りだった。本来の彼はスポーツに情熱を燃やすどこにでもいる真面目な学生、その真面目さがアスト達を苦しめることになるとは誰も予想できなかっただろう……暴走している彼自身を含めて。

「ったく……部活になんて!マジになってんじゃねぇよ!!」

 わりと、いや、かなりひどいことを言っている気もするが、それは紛れもなく帰宅部アストの心の底からの叫びだった。やっかみでも蔑みでもなく、本当に今日という日に限っては、マジでサボっていて欲しかった。

「ギシャアァァァァァッ!!」

 その言葉に怒りを覚えたのか、空手部員は厳しい練習で身体に染み込んだ構えでアストに一直線に突っ込んで来た。

「やるしかないのかよ!?」

 愚痴っていても事態は変わらないのは重々承知している。だからアストはハラダからお借りしているバッジを取り出した。

「起きろ!ゴウサディン・チュザイン!!」

 森に一足も二足も早い夜明けがやって来た。瑞々しい新緑の木々を照らす光の中から青と銀のピースプレイヤーが出現する。

「ギシャアァァァァァッ!!」

 そんなこと知ったことか!と言わんばかりに空手部は練習と試合以外では振るうことが禁止されている拳を躊躇なく、容赦なくゴウサディンに打ち込んだ!


ブゥン!


 練習の賜物、必殺の正拳突きは空を切った。腕の横でこちらを、打ち砕かれるはずだった眼が睨み付けている。

「速いな……期待されているだけはある。教師軍団よりも、下手したらハラダさんよりも速い……けど、今はオレの方が!ゴウサディンの方が速い!!」

 ゴウサディンは学校の時のように電磁警棒を召喚!それを空手部の脇腹にこれまたあの時のようにそっと押し当てる。もちろんこの後取る行動も一緒だ!

「いい子は寝る時間だぜ」


バリバリバリバリバリバリバリバリッ!!


「ギシャアァァァァァッ!?」

 喧しい破裂音と耳障りな奇声が森の中をこだました。空手部はしばらく痙攣した後、仰向けに倒れる。

「ふぅ……一丁上がりってか」

 ゴウサディンは気だるそうに電磁警棒でコンコンと肩を叩きながら、視線を横に向けた。

「で……あと何人やればいいんだ……?」


「ギ………」「ギシャ……」「アァァァァ……」


 暗闇をものともしないゴウサディンのカメラが捉えたのは三人の別の空手部員達だった。ゆらゆらと不気味に身体を動かしながら、こちらへ歩いて来る。

「みんな仲良く秘密特訓か……本当に……余計なことしてくれたな!!」

「ギシャアァァァァァッ!!」

 さっきの出来事をトレースするように空手部員が一斉にゴウサディンに襲いかかる!

「先鋒はお前か……!」

「ギシャアァッ!!」

 先鋒が放つは、首を切り落とす勢いの回し蹴り!

「よっと!!」

 それをゴウサディンはしゃがんで、難なく回避する。そして、そのまま下から電磁警棒のカウンター!

「痺れちまいな!!」


バリバリバリバリバリバリッ!!


「ギシャ……」

 先鋒撃破!しかし、休む間もなく、次鋒が急襲!

「ギシャアァァァァァッ!!」

「ていっ!」

 ゴウサディンは掌底で次鋒の拳を払い、カウンター気味に空手部の肩に警棒を当て、この短時間で何度も押した持ち手についているスイッチを押した!

「お前も痺れちまいな!!」


カチッ………


「………えっ?」

 電磁警棒からあのうるさい音が鳴ることはなかった。うんともすんとも言わないただの硬い棒だ。

「どうし……」

「ギシャアァッ!!」

「――てぇっ!?」

 一瞬、茫然自失の状態になったアストだが、空手部の追撃が彼を現実に引き戻した。間一髪で避けることに成功し、距離を取る。自分にとってのピンチは相手にとってのチャンスなのだ。

「何がどうなってんだ!ウォル!!」

 後ろで見守る幼なじみに問いかける。このピースプレイヤーを使用可能にした彼なら、自分より遥かに賢い彼ならこのトラブルの原因がわかると思ったからだ。

 けれども、答えは聞くまでもないこと、普段のアストなら簡単にたどり着けるものだった。

「多分、エネルギー切れだ!!学校で使い過ぎたんだよ!!」

「エネルギー切れ!?」

 最も単純な解答にアストが驚嘆の声を上げた。そんな簡単なことにも気づかない自分に驚いたのだ。

(自分で思っている以上にテンパってるようだ……ピースプレイヤーは待機状態にしていれば、大気から勝手にエネルギーを補充してくれるが、学校での戦闘から時間経ってねぇもんな……当然か)

 アストは自分を責めたが、一介の学生がこの状況に陥ったら、ここまでできるだろうか、いや、できない。

 アスト・ムスタベは良くやっている……けれど、悲しいかなそれが報われるとは限らないのが現実というものだ。

「アスト君!後ろ!!」

「――ッ!?」


ブゥン!


「危な……!?」

 ゴウサディンは咄嗟に身体を仰け反らせて、蹴りを回避した。呆けている間に別の空手部がいつの間にか接近していたのだ。

「空手っていうのは!一対一でやるんじゃねぇのかよ!!」

 アストは不意打ちを仕掛けてきた空手部を非難するが、もちろん届かない。二人がかりで攻め立てる。

「この……!!」

 足を使い避け、手を使い防ぐ……それだけ。学校の時と同じく、やっぱりアストは反撃できなかった。

「何、やってるんだ!?攻撃するんだ!」

「トウドウ君……!?」

 痺れを切らしたトウドウが吠えた!アストは想像していたイメージとは真逆の発言に面を食らう。だとしても、アスト・ムスタベは揺るがない。

「駄目だ!こいつら大会があるんだろ!ケガさせる訳にはいかない!!」

 アストは優しい、優し過ぎた。部活なんてとは言ったものの、こんな森の奥で練習する空手部のことをちゃんとリスペクトしていて、正気を失い自分に襲いかかる今の彼らでも傷つけることは絶対にしたくなかった。

 幼なじみの二人はそれがわかっているから今も沈黙を貫いている。そんな人間だからこそ彼らはアスト・ムスタベの隣にいるのだ。

 一方、転校生トウドウの目にはそれは優しさではなく、半端さに映り、苛立ちを募らせた。

「そんなこと言っている場合じゃないだろ!」

「でも………!」

「このままじゃ武器だけじゃなく、ピースプレイヤーのエネルギーまで切れるぞ!そうなったら君の命も!ウォル君達の命も危ないんだ!」

「ぐっ!?」

 アストもトウドウの言っていることは間違いではないことはわかっている……わかってはいるが。

(確かにエネルギー切れは近いのかもしれない……その前にオレの体力も……けど、やっぱり……)

「ギシャアァァァァァッ!!」


チッ!


「――ッ!?しまった……!?」

 空手部の拳がゴウサディンの頬を掠めた。トウドウの言葉で精神的に揺れ動いたせいもあるが、ただの学生である彼の集中力は初めての命を賭けた戦いの連続に限界を迎えようとしていた……。

「警察用なら拳銃が装備されているはずだ!それで脚を撃ち抜け!!」

 セコンドと化したトウドウの指示が飛ぶ。アストにとって受け入れ難い指示が……。

「そんなこと……!」

「他者の大切なものを摘み取る……それが“生きる”っていうことだ!!できなければ自分の大切なものが奪われるだけだ!!」

「くっ!?」

 ゴウサディン越しにアストの目に幼き日より良いことも悪いことも共にしてきたウォルとメグミが映った。

(オレだけならともかく、あいつらまで犠牲にするわけには……!)

 揺れ動くアストをトウドウの言葉がさらに追い詰める。

「選べ!時間は思っているほど残っていないぞ!!」

「この……!」

 ゴウサディンの手の中に拳銃が召喚される。そのまま銃口をトウドウの指示通り空手部の太ももへ……。

「ぐうぅぅぅ……」

 引き金に指をかけるが、力が入らない。頭では覚悟を決めたつもりでも、心が拒否しているのだ。

 身体の中で二つの考えが交錯し、アストの感情をかき乱して逡巡した。そうしている間にも、空手部はアストの迷いなどお構い無しに迫ってくる。

「“敵”が来ているぞ!撃つんだ!撃て!アスト・ムスタベ!!」

「くそおぉぉぉぉぉっ!!」


バァン!!!


 トウドウに強く促され、アストは遂に引き金を引いた。

 銃口から弾丸が弾けるような音と共に発射され命中する………木に。

「オレには………できない………!」

 結局、アストはトウドウの言葉ではなく、自分の“心”に従った。だが、その心に灯っていた闘争の炎は、この決断の結果、消え去ってしまう。

「アスト!!ピースプレイヤーが待機状態に戻っている!!」

「えっ……?」

 エネルギー切れのせいか、誤作動を起こしたのか、はたまたアストが戦意を失ったからか、ゴウサディンはバッジに戻り、拳銃を握っていたはずのアストの手の中に収まっていた。

「もういい!逃げろ!!」

 メグミが吠えながら、駆け出す!呆けているアストに飛びかかる空手部二人をなんとかしようと……けれど、間違いなく空手部の拳の方法が速く届いてしまうだろう。

「「アスト!!」」

「ぐっ!?」

 アストは目を瞑り、両腕で頭を守った。

 強い衝撃が腕を襲い、骨が砕ける!……はずだった。

「…………ん?」

 一向に来ない痛みを疑問に思ったアストは恐る恐る目を開いた。そこには……。

「えっ!?空手部が倒れて……っていうか、眠ってる……?」

 空手部員は二人とも地面に倒れ込んでいた……というより、すやすやと眠っているように見えた。そして、その間に……。

「……あなたは一体……?」

 空手部の間には細身で無精髭を生やした男がポケットに手を突っ込みながら立っていた。男はアストの顔をキッと鋭い眼光で睨み付け、口を開いた。

「質問したいのはこっちだよ……どういう状況だ、これ?」


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