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No Name's Awakening  作者: 大道福丸
寄生編
68/93

屋上バトル

 想像通り狂気の科学者は白衣を夜風に靡かせて、不敵な笑みを浮かべていた。

 それがアストには堪らなく不愉快だった。

「ふむ……せっかく念願の対面を果たしたというのに、ご機嫌斜めだね?」

「人の顔色を伺うなんて概念があるんですね……ならば黙って投降してくれれば、オレがすぐにハッピーになるって理解できるでしょ?」

「理解はできるが、承知はできない……そんな真似をするなら、最初から何もしていないさ」

「……でしょうね」

 予想通りの期待を裏切る返答に、青い竜はさらに顔を歪めた。

「君にはとても興味がある……けれどそれは申し訳ないけど内面の話ではない……わたしが知りたいのは……君の力!エヴォリスト相手に我がパラサーティオがどこまでやれるかだけだ!!」

 サイラスの全身からプレッシャーが噴き出し、さらに空気が張り詰める!しかし、数々の修羅場をくぐり抜けたアストが動じることはない!

「これ以上お前の好きにはさせない!させてたまるか!!」

 青龍は金色の眼と指の先に意識を集中しながら、何の変哲もないただの中年男性に突撃した!

「パラサーティオ!!」

「「「キィ!!」」」

「!!?」

 龍の左右から息を潜め、隠れていた紫の寄生虫軍団が飛びかかる!

「装甲で中身を守っているピースプレイヤーと違って、肉体を変形させたお前なら寄生させてしまえば、それで終わりだ!!」

「そんなこと……こっちだって百も承知だよ!涙閃砲!散青雨!!」


ビシュッ!ババババババババッ!!


「「「キィ!!?」」」

 まさに一蹴!瞬く間に群がる害虫を凄まじい速度で撃ち出した水の雫で次々と貫いていった。けれどそのために僅かにサイラスから目を離してしまった……。

「そう簡単にはいかないよな……やはりわたし自身がこの特別製のパラサーティオと一体になるしかないか……!」

 一瞬の隙をついて、背後に待機していた金色のラインの入ったパラサーティオを頭部に寄生させる!

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 平均的な男性の体格としか形容できなかったサイラスの身体は虫と同じ金のラインの入った紫に変色、そして膨張し、アストと同じサイズまで大きくなった。

「これが……わたしの現時点での最高の作品だ……!」

「ちっ!こっちはできることならそんなもの見せて欲しくなかったんだけどな……!」

「寂しいことをいうなよ。是非とも君には存分に味わって欲しい!!」


バリバリバリバリバリバリバリバリ!!


 金色のラインが光ったと思ったら、手のひらから電撃を放った!公園の時の寄生ヤーマネと同じだ!……だとしたら結果はわかりきっている。

「やはり電撃か……芸がないな」

 アスト・ムスタベは一度体験した攻撃に引っかかるような間抜けではない。ぴょんぴょんとまるでダンスを踊るように電撃の間を跳び跳ねた。

「それがオレを倒す切り札だとしたら、舐められたもんだ」

「まさか!わたしは君を君以上に高く評価している!昨日からずっとブリュウストに勝つことだけを考えて来たんだよ!!」

「――なっ!?」

 夜の闇に金色の線が描かれた!高速で移動するマッドサイエンティストの動きの軌跡だ!それに見とれてしまった一瞬の間に寄生サイラスはアストの懐に潜り込んでいた。

「速い!?くそ!!」

 アストは反射的に裏拳を放つ!しかし……。

「君は思ったより遅いな、ブリュウスト」

 サイラスは顔を僅かに仰け反らせ、あっさりと回避してしまう。拳に感じるのは肉の感触ではなく、熱を冷ますように吹き抜ける夜風……それが屈辱だった。

「さぁ、攻守交代だ……今度は君が避けてみせろ!!」


バリバリバリバリバリバリバリバリ!!


「ぐっ!?」

 返す刀で電撃を放つ!至近距離で撃たれてはさすがに回避し切れず、アストの身体を掠めてしまう!けれど痺れながらも青龍は指先に水の球を生成する!

「よくもやってくれた……な!!」


バババババババババババババッ!!


「――っうぅ!!?」

 視界一面に一瞬で広がる水の散弾にサイラスも回避の術はなかった。身体を丸め、できる限り被弾面積を減らすのが精一杯だ。

 その隙にアストは追撃!……ではなく、距離を取ることを優先した。まずは状況を整理することが最優先だと判断したのだ。

(予想よりも遥かに速い……が、散青雨を当てることができるなら、どうにもならないレベルではない……!)

 青龍は金色の眼を動かし、サイラスが未だに動けないでいることを確認する。

「ぐ……ぐうぅ……!?」

(思いの外ダメージが入ったのか?防御はそれなり……だとしたらやはり問題はあのスピードだが、多分電気で反射神経を活性化している……と思う。そしてその代わりにヤーマネのようにバリアを張ることは不可能……と仮定する。仮にできたとしても“あれ”なら展開するまでに仕留めることができるはず……決まりだ)

 自分なりにサイラスの能力を分析すると、アストはさらに集中力を高め、空気中の水分を集め始めた。

「いくぜ!アウェイク!スピー……」

「それを……待っていた!!」

「――ド!?」

 変形が始まると同時に寄生サイラスは再び闇に金色のアートを描き、眼前まで迫って来た!

「こいつ!?このために!」

「そうだ!名演技だったろ!だが、気づいた時にはもう遅い!落ちろ!エヴォリスト!!」


ドンッ!!


「――ッ!?」

 文字通り全身全霊!身体全てを使い、全体重を乗せたタックルが炸裂!青龍を凄まじい勢いで吹き飛ばす……柵を壊して、屋上の外まで。

(変形に時間がかかること、液体化が使用不能になることを気づかれていたか!?このままだと地面に……!!)

 ビルの壁面が視界を流れていく。現実では刹那でしかないが、アストには妙にゆっくり見えた。

(やるしかないってことだよな……!この土壇場で自己ベスト更新……!!)

 極限状態のアストとは対照的に一仕事終えたサイラスは悠々と屋上の上を散歩していた。

「これで終わりならば……わたしが見る目がなかったって話……だが、そうは……ならないよな?」

「イエス!!」


ブシュウゥゥゥゥゥ!!


 何かを勢いよく噴射する音とともに漆黒の空に青い龍が浮かび上がった。その姿は先ほどまでと違い、背中に突起が生え、肩と脚部が巨大化しており、さらに人間離れしていた。

「変形完了……スピード重視なオレ……!」

「出たな」

「おかげさまで自己ベスト更新できたぜ、マッドサイエンティスト……!」

「それは良かった」

「良くねぇよ……お前にとってはな……!こうなったらもうオレの……」

「あぁ、君の負けが決定した」

「そうだ、オレの負けが……へっ?」

 突拍子もない間抜けな声を上げるアスト、対してサイラスは邪悪な笑みを浮かべた。

「わたしが待っていたというのは、この瞬間だよ、ブリュウスト……!!」


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