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No Name's Awakening  作者: 大道福丸
寄生編
61/93

大学騒乱

「ん……んん~!終わった~!」

 カウマ大学の教室で授業を終えたアストは両手を高々と上げ、背筋を伸ばした。

「お疲れ様、アストくん」

「ナカシマさんもね。っていうかそこまで労われるようなことでもないけどね」

「そうそう、学生の本分を全うしただけ。むしろもっと頑張れって、ケツ叩いてやりなさい」

「ええ……」

「コトネさんはもうちょいオレに優しくしてください」

「やなこった」

 楽しそうに笑いながら、コトネは机の上においてある筆記用具をリュックに入れて、手早く片付ける。まるで何かに急かされているように……。

「あれ?コトネ先輩、確か今日はこの講義が最後のはずですよね」

「そうだよ。これ終わったらいつも三人で仲良く帰ってるもんね」

「はい。でも、いつもはもっとのんびり……」

「今日はちょっとね。だから二人でご帰宅願えますか」

「ええ~!!?」

 思いもよらないチャンス到来にミナは顔と耳を真っ赤にした。しかし……。

「ちょっとってなんですか?」

 アストの方はミナと二人っきりの帰り道よりも、コトネの用事の方に興味があるようだった。真剣な眼差しでお世話になりっぱなしの先輩を問い詰める。

「なんだ?取り調べ受けて、自分もしたくなったのか?」

「そんなんじゃないですよ。コトネさんは適当に見えて、一日のスケジュールはきちっと決めて、行動するタイプじゃないですか」

「適当に見えてってのが引っかかるけど、まぁ、そうね」

「今日だって、朝、家を出る時は帰りに買い物付き合って欲しいって言ってましたよね?」

「確かに言ったわね」

「だったら気になってしまうのは当然というものです……なんで予定を変更したのか……!」

「ア、アストくん……!?」

 アストの全身から戦闘時と見紛わんばかりの威圧感が放たれる。今までただ優しい彼の姿しか知らなかったミナは思わず気圧された。

「さぁ、答えてくだ……」

「えい」

「痛!?」

 そんな彼にコトネはチョップを放ち、見事に脳天に直撃させる。

「な、何するんですか!?」

「何するも何も、マジで取り調べじゃないんだから、女の子の予定をそんな剣幕で訊くんじゃないよ」

「それは……」

「わかってるわよ。最近ギズモンドだっけ?元格闘家の殺人犯がまだ捕まってなかったりで、色々と物騒だから親父とお袋にワタシのこと頼まれてるんでしょ?」

「えっ!?あの!いや……!」

「取り乱し過ぎ。秘密のボディーガードやりたいなら、もっとポーカーフェイスでいなきゃ」

 呆れながらも、内心では自分を心配してくれる両親と居候の気持ちが嬉しくて自然と口角が上がった。

「安心しなさい。ただもう一個講義を受けていくだけだから」

「講義?」

「『トヨシマ教授』のね。よいしょ」

 行き先を告げながら、コトネは立ち上がり、リュックを背負った。

「トヨシマ教授って、あのおじいさんの?」

「そう、あのジジイの。さっき知り合いから今日の講義の内容を聞いてね。興味が湧いたから、ちょっと顔出していこうかな……って」

「でも、トヨシマ教授ってオリジンズの生態とか研究している人ですよね?文学を専攻しているコトネ先輩が興味を持つような講義はしないんじゃ……?」

「普段はね。でも今日はオリジンズと“エヴォリスト”についてらしいから」

「エヴォリスト……」

 アストの眉尻がピクリと動いたと思ったら、彼も急いで荷物をまとめ始めた。

「アストくん?」

「ごめん、ナカシマさん。オレもその講義に興味出たから受けていくよ」

「えっ!?アストくんも!?」

「もしかしてあんたも“エヴォリスト”に興味があったの?」

「うえっ!?」

 思わず変な声が出てしまう。そう、彼は……。

(ウエハラ家の皆さんにはオレがエヴォリストであることを言ってないけど……コトネさんには気づかれていたのか!?いや、そんなはずは……)

 アストは下宿先で兄リオンや幼なじみと電話していたことを思い出す。あの時、聞き耳立てられていたら……などと思ってしまう。

「どうした?冷や汗なんて垂らして」

「い、いえ!?別に何でもないですよ!それよりも早く行きましょうよ!」

 誤魔化すように立ち上がると、コトネを急かした。

「いやいや、さっきも言ったけど物騒なんだからミナちゃんを家まで送って行きなさいよ」

「うっ!?それはそうかもですけど……」

「でしょ?ミナちゃんの家でコーヒーでもご馳走になって来なさいな」

「それはちょっとまだ早いかな……じゃなくて!アストくんも行くならわたしも講義受けていきます!」

 ミナもまた話を変えるために鞄を肩にかけて立ち上がった。

「あんた達……別にワタシに気を使わなくても……」

「いえ!オレ、マジでトヨシマ教授の話聞きたいんで!」

「わ、わたしも!」

 アストはともかく、ミナは間違いなく付き合いで言っているのは明らかだったが、コトネはこれ以上議論を続けてもしょうがないと思い、話を切り上げることにした。

「まぁ……別に知識を得て、損することなんてないだろうし……それなら一緒にもう一講義いっときますか?」

「「はい!」」

「いい返事だ!ついて参れ!」

 ようやく話がまとまるとコトネを先頭に一行は教室を出て行った。

「で、そのトヨシマ教授の講義はどこで?」

「この上、三階よ」

 上を指差しながら、コトネは階段の方へ向かおうとした。その時!

「あれ!おい!あれなんだよ!!?」

「「「!!?」」」

 窓を指差し、悲鳴にも似た声を上げる学生!そんな彼にアスト達だけじゃなく、周囲の視線が集中する。

「どうしたんだよ、大声出して?」

「いや、だからあれ!なんなんだよ!!?」

「あれ?」

 別の学生が窓を覗き込む。すると……。


「ケェェェェェェェェェェッ!!!」


「オ、オリジンズ!!?」

 巨大な翼を持ち、紫の仮面のようなものをつけたオリジンズが甲高い声を上げながら、猛スピードでこちらに突っ込んで来ていた!

「み、みんな!!」

「離れろぉぉぉぉっ!!」

 学生は必死に両腕を振りながら、走り出した!少しでも窓から距離を取るため!このままの勢いではオリジンズ間違いなく校舎に衝突すると思ったからだ!しかし……。

「ケェェェェェェェェェェッ!!」


バリン!バリン!バリィン!!


「「うあっ!!?」」

 オリジンズは校舎にぶつかる寸前で急上昇!衝突を回避した……が、その猛スピードが起こした衝撃波のせいで窓ガラスは粉々に吹き飛んだ。

「きゃ……」

(まずい!?)

 アストの目に今まさに悲鳴を上げようとしている女学生がスローモーションになって見えた。同時にそれが発せられた瞬間に起こるパニックが嫌に鮮明に予想できた。

(ここで騒ぎになったら、多くの怪我人が出る!つーか、今は外に出るのは危ない!なんとか止めないと……!)

 アストは大声を出すために肺に息を溜めたが、今からでは……。

(間に合わない……!!)

「みんな!落ち着いて!!」

「「「!!?」」」

 女学生よりもアストよりも早く声を上げたのは、コトネであった。

 オリジンズに集中していた目線が一気に彼女の下に集まる。

「外にオリジンズがいるなら、校舎から出るのは危ないわ!!みんな近くの教室に入って!!あっ!窓からは離れてね!!ですよね、先生!!」

「お、おう!!今、言った通りだ!みんな一旦教室に入れ!!」

「は、はい!!」

 流れるように近くにいた教員に誘導を任せる。学生達も自分よりも教職員に言われた方が素直に従うと、咄嗟に判断したのだ。

 そして彼女の狙いは見事に功を奏し、学生達は慌てることなく、近くの教室に避難して行った。

「これでひとまず安心……あとは……!」

 コトネはアストの方を振り返ると、手を差し出した。

「何ですか、この手は?まさか握手?」

「なわけないだろ。荷物預かるわ」

「えっ?」

「行きたいんだろ?」

 コトネの真剣で真っ直ぐな眼差しがアストの心を見透かしていた。そして彼の秘密も……。

「コトネさん……やっぱりオレの……」

「話は後よ。今回はなんとか治められたけど、次は……行くなら今しかないわ、アスト・ムスタベ!!」

「はい!」

 アストは言われた通りコトネに荷物を渡すと、当初の目的通り階段に向かって駆け出した!

「アストくん!?」

「ミナちゃん!ステイ!!」

 何がなんだかわからないミナはアストを止めようと彼の後を追おうとするが、コトネに肩を掴まれ、制止された。

「コトネさん!?アストくんはどこに!?避難しないといけないのに!?」

「あいつは大丈夫よ。むしろあなたが側にいたら、本気を出せない」

「本気……?」

「詳しいことは、この騒動が解決したら本人に聞きなさい。そしてそうなるように……あいつが無事に帰って来ることを祈りましょう……!」

「コトネさん……」

 気丈に振る舞っているが、ミナの肩を掴んだコトネの手はわずかに震えていた……。


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