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No Name's Awakening  作者: 大道福丸
事件編
57/90

変貌

「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉっ……!!」

 唸り声を上げながら、リヴァーモアはみるみる青ざめていく。比喩ではなく、実際にだ。肌が青く染まる……というより、肌が青い鱗に覆われていっているように見えた。

「リヴァーモアくん……」

「そんな……」

「マジかよ……」

「お前、本当に……」

 オールダム教授と助手達はその信じられない、信じたくない光景をただ立ち尽くし、呆然と見つめ続けるしかなかった。

「ぐおうっ!!」

 五秒ほどかけて変身は完了した。

 その姿はアストの覚醒体にどことなく似ていたが、歪で、そして本家よりもくすんだ青色をしていた。

「決まりだな」

「ええ……これで少なくともアストだけが容疑者……ってことにはならないでしょうね」

 恐ろしい姿へと変わったリヴァーモアを前にして、セリオやウォルは動揺するどころかホッとしていた。自分達の推理が間違っていなかったこと、アストの無実を証明するのに大きく近づいたことに安堵したのだ。

 その穏やかな表情がリヴァーモアは気に食わなかった。

「お前らは何もわかっていない……!何もだ!!」

 紛い物の青龍が目を見開くと、本家同様に身体中の水分が集中!圧縮!そして……。


ビシュウッ!!


 一筋の涙というにはあまりにも凶悪過ぎる速度で発射された!

「アウェイク……俺!」


バシャッ!


「――なっ!?」

 しかし、その涙はあっさりと霧散する。覚醒体になったリオンに、透明な氷のような鬣を持った龍に、それが召喚した小さな破片によって弾かれてしまったのだ。

「やめろ。紛い物では無防備な弁護士はともかく、本物の戦闘型エヴォリストに勝てるわけない」

「ぐうぅ……!?」

「理由はどうあれ、それだけのものを開発できる頭脳があるというなら、賢明な判断をしてください」

「この……!偉そうに……!」

 リヴァーモアの脳ミソは言われるまでもなく、勝算はないという残酷な結果を弾き出していた。だが、頭では正解がわかっていても、心が拒絶してしまう。彼は臨戦態勢を解かなかった。

「リオンくんの言う通りだ!こんなことをしたのには理由があるのだろう?大人しく警察に行って、真実を話すんだ!」

「教授……」

「それが今の君が為すべきこと……君のためになることなんだよ!!」

 見かねたオールダム教授が説得を試みる。助手を心の底から慮り、紡ぎだした言葉はリヴァーモアの心を大きく揺さぶった。

 けれど悲しいかな、それは教授の意図とは真逆、悪い方向の決断を促してしまう。

「く、くそおぉぉぉぉぉぉっ!!」


ドゴオォォォォォン!!


「リヴァーモアくん!!」

 紛い物は壁を突き破り、研究室から出て行ってしまった。罪悪感に耐え切れず、教授の目の前から一秒でも早く消えてしまいたいと思っての行動だった。

「バカなことを……!」

「おっと!教授、残念ながらこうなってしまったら、あなたの出番は終わりですよ」

「セリオ……くん?」

 大切な助手を追いかけようとする教授を手袋を纏った手が制止する。彼の言う通り、もう戦士でない者が立ち入れないフェイズに入ってしまったのだ。

「というわけで、あとは任せたぞ、リオン」

「任せてください。必ず……できるだけ穏便に連れ帰ります」

「リオンくん……」

「教授は祈っていてください……最良の結果が出ることを!」

 教授にリヴァーモアの安全を約束すると、リオンは空いた穴から部屋の外に抜け出して行った。そんな彼を幼なじみは静かに見送る。

「大丈夫ですよ、教授。リオンさんなら……あの人は最強で最高ですから」



「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

「な、なんだ!?」

「ば、化け物ッ!!?」

 大学内を覚醒リヴァーモアを駆け巡ると、悲鳴と驚愕の声が方々から上がった。日常が一瞬で非日常になってしまった困惑など一学生が簡単に咀嚼できるものではなかった。

「おい!もう一体いるぞ!」

「化け物の仲間が来るぞ!!」

 知らない人から見たらリオンもまた得体のしれない怪物、恐怖の対象だ。しかし、当の本人は……。

(気持ちは理解できるし、ある程度覚悟もしていたが、思いの外ショックだな。そんなに怖いかな、俺?少なくともリヴァーモアさんよりも親しみのあるデザインをしていると思うんだが……女の人があんな目をするの、初めて見たよ)

 内心、自分の覚醒体のビジュアルに自信を持っていたリオンにとってはそのリアクションは中々堪えるものであった。特に文武両道で長身イケメンと言って差し支えない彼は生まれてから一度も女性から蔑みの目線を受けたことがないので、彼女達の怯えるような、侮蔑するような瞳のダメージは大きかった。

(……って、俺のことはいいよ……今はリヴァーモアさんをどうするか、どうやって傷つけずに捕縛するかだ)

 気を取り直し、阿鼻叫喚の中を逃げるリヴァーモアのくすんだ青色の背中を見据えた。それと同時に頭の中で先ほどの研究室での出来事が再生された。

(さっきわざわざ薬を注入していたってことは、恒久的にアストの能力をコピーできるわけではないと仮定する)

 さらに脳内テープを進め、動転した彼の攻撃の場面を映し出す。

(奴の涙閃砲は本家と違って、俺の“氷鱗片”で難なく防げた。身体能力に関しても、大したことない)

 逃亡者であるリヴァーモアは全力で走っているのだが、リオンの方は大分余裕があった。こうして先々のことを考えられるほどに。

(追い付こうと思えばいつでも追いつける……だが、学生の多いここで事を起こせば、想定外のことが起こる可能性もあるか……)

 リオンが疾走中に鬣の生えた頭を振り、周囲を見渡すと、また学生から恐怖の声が漏れた。

(罪なき彼らを危険に晒すわけにはいかない……!幸いリヴァーモアさんも無関係の人を巻き込むつもりはないみたいだし……ここは一定の距離を保ち、人がいない場所に出るのを待つ!あわよくば薬の効果が切れて、ただの人間に戻ってもらえると、いいんだが……)

 当面の行動の方針を決めたリオン。彼の推察、作戦は決して間違っていない……一つの要素を取りこぼしていること以外は。

 ここはイフイ工科大学、リヴァーモアにとっては慣れ親しんだホームで、リオンにとっては土地勘など全くない未開の地、そのことを彼は思案の要素に含めていなかったのだ。

 そして自分の見落としていたことの重大さに気づいた時には既に手遅れになっていた。

(ん?さっきからどこかに向かっているのか?迷う素振りが見えない……)

 リオンは自分のミスにようやく気づき、速度を上げた。だが、それ以上にリヴァーモアは加速して、角を曲がった。藁にもすがる気持ちで走り続けて来たが、それが報われるとなると足が軽くなり、自分の想定以上のスピードが出たのだ。

(一体どこ……に!!?)

 動きをトレースするように、方向転換したリオンの前に現れたのは屋外プールであった。それを見た瞬間、自分がいかに愚かな行為をしていたのかを理解する。

「しくじった!まさかプールに向かっていたとは……あそこには!あそこにはあれが……!!」

「うわあぁぁぁぁぁぁっ!!?」

「化け物!?」

 後悔の念に苛まれるリオンの目にプールに突入するリヴァーモアの姿が、耳に水泳部の悲鳴が入って来た。

「なんて俺は迂闊なんだ……!」

 リオンは足を止めた。もう走る必要がなくなったからだ。

 プールからリヴァーモアがUターンして来たのだ……さらに歪な姿に変貌して。

「こ、これなら……!お前とも戦えるか……?本物さんよ……!!」

 リヴァーモアはプールの水を全て取り込み、巨大化していた……。


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