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No Name's Awakening  作者: 大道福丸
事件編
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プロローグ:事件編

「これで大丈夫……だよね?」

 昼下がりの『カウマ大学』の校舎内のベンチで『ミナ・ナカシマ』は画面の消えたスマホを鏡代わりに髪を直した。先ほどからこれを何度も繰り返してはそわそわしている。待ち人が来るまで何度も……。

「ナカシマさん!」

「ア、アストくん!」

 そして漸く彼女待ち人来る。我らがアスト・ムスタベである。小走りでこちらに駆け寄って来た彼の額は汗ばみ、かすかに息が乱れていた。

「ご、ごめん!オレから呼び出しておいて、遅れるなんて」

「ううん!べ、別に気にしないで!わたしも今、来たところだから!」

 申し訳なさそうに頭を下げるアストに対して、ミナは手と首をぶんぶんと振りながら、嘘を突いた。彼を慮ってのことである。しかし……。

「気遣ってくれてありがとう。だけど、嘘だよね?」

「え、ええ!?」

「さっきコトネさんからメールでナカシマさんがベンチで待ちぼうけ食らってるぞ……って」

「コトネ先輩から!?あ、あの……ごめんなさい!」

 嘘を見破られ、今度は逆にミナが頭を下げた。

「いや!別に責めてるわけじゃなくて!遅れてきたのはオレの方だから、頭を上げてよ!」

 アストは心の中で(やってしまった!)と激しく後悔した。彼女の性格を考えれば、こうなることは必然、わかっていたのに何をやっているんだと、自分の無神経さに怒りさえ覚えた。

「ナカシマさんはオレのことを気遣ってくれただけなんだから、何も謝ることないんだ」

「そ、そうですか?」

「そうそう!だから、いつもみたいに笑ってよ」

「は……はい」

 ミナの顔に満面の笑顔の花が咲く。アストはホッと胸を撫で下ろすと、来た時よりも量が増えて滴り落ちて来た額の汗を拭った。

「えーと……それで」

「あっ、これですね。アストくんが休んでいた時のノート」

「ありがとう!いつも助かるよ!」

 ベンチに置いてあったバックから取り出したノートをアストに手渡すと、彼はペラペラめくって中身を確認した。

「うん……確かにオレが旅行に行っていて出れなかった時の分だ」

「旅行楽しかったですか?」

「まぁ……トータルで見ると、楽しかったでいいかな」

「?」

 歯切れの悪いアストの言葉にミナはきょとんとした顔で頭を傾げた。

「で、これがその時のお土産。はい」

「……え?ええ!!?」

 ポケットから小さな袋を取り出し、手渡す。一瞬、何のことかわからなかったが、(彼女にとっては)とてつもないことが起きたことを把握すると、悲鳴にも似た歓喜の声を上げた。

「ほ、本当に!?本当にこんな素敵なものもらってよろしいのでしょうか!?」

「うん……というか、ただのキーホルダーだよ。そこまで喜ぶもの?」

「はい!!」

「そ、そう」

 予想を遥かに超えるミナの喜びっぷりにアストは若干、いやかなり引いてしまっていた。そんな彼の心など露知らず、ミナは袋から取り出した銀色の“ヴィンチーマ”という文字とコロシアムが描かれたあまり趣味がいいとは言えないキーホルダーを目をキラキラと輝かせて、見つめていた。

「まぁ……喜んでくれたなら良かったよ」

「はい!こんな素晴らしいものをありがとうございます」

「これならもっと何個か買ってくるんだった」

「いえいえ!これだけで十分です!」

「いえいえいえ!ナカシマさんにはいつもお世話になってるんだから、これぐらい当然ですよ……そうだ!」

 いいことを思いついたと、アストは胸の前で手をポンと叩いた。

「ナカシマさん、お腹空いてる?」

「ええ……空いてるといえば、空いてますが……」

「だったら、いつものお礼にケーキでも食べに行かない?もちろんオレのおごりで」

「ケーキ……ええっ!!?」

 また予想を超える驚きっぷりにアストは不安を覚えた。

「あれ?甘いもの嫌いだったけ?」

「ち、違います!違います!大好きです!大好き過ぎてつい!」

 必死に取り繕うミナだったが、それがまた圧力となってアストをたじろがせた。

「なんだか……今日はいつにもまして元気だね」

「はい!だからお腹もペコペコです!」

「そう……じゃあ、早速行こうか?」

「はい!」

 二人は大学を出て、ケーキ屋に行くために歩き出した。この後色んな意味で甘い時間を過ごすことになる……はずだった。

「失礼」

「はい?」

 出発しようとした二人の前にスーツをバッチリ着こなした美人と、小柄な男性が立ちはだかり、歩みを強制的に停止させられた。

「なんでしょうか?もしかして……道に迷ったんですか?」

 見慣れない顔だったので、大学を訪ねてきたが迷ってしまったのだとアストは思った。いや、アスト以外でも大抵の人はそう思うのではなかろうか。

 しかし、そうではなかった。さっきから予想を超えることばかり目にしているアストだったが、彼女がもたらしたのはそれらを一気に彼方へと吹き飛ばしてしまうほどの衝撃であった。

「アスト・ムスタベだな?」

「はい、そうですけど。何でオレの名前を」

「私は『エミリー・コープランド』でこいつは『ハズラック』。所謂刑事でお前を逮捕しに来た」

「へぇ~、刑事さんだったんですか……ってええぇぇぇぇっ!!?」

 突き出された警察手帳と逮捕状を前にして、アストは絶叫した。


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