表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
No Name's Awakening  作者: 大道福丸
旅行編
50/70

同じ穴の狢

 澄み渡るような青い空はいつの間にか赤色が混じり始めていた。それはまるで覚醒アストとナナシガリュウのよう。果たして吉兆か、それとも……。

「一応、そういうもんだから言っておくぜ。悪いようにはしないから投降しろ」

 そう言いながらナナシはこれで済んだことがないなと、悲しい記憶が頭を過った。そして今回も……。

「断る」

「……だよな」

 案の定一蹴され、ナナシは辟易する。

「そもそもお前の目的は俺……データなんてもうどうでもいいんだろ?」

「理解が早くて助かります」

「あんなあからさまに誘われたらな」

「データが目的なら、他にも方法があったはずですからね」

「おお、君がマサヨが言っていたエヴォリストか!」

 マウリッツは視線をアストに移すと、まるで今初めて見たようなリアクションをした。いや、実際に彼の目には今の今まで青い龍は目に入ってなかったのだ。

「オレは眼中に無しか」

「気分を害されたなら、謝るよ。一応ディオ教では戦闘タイプのエヴォリストはAランクに指定されるから、もっと警戒しなくてはいけないのだがね。ついつい……」

「甘く見ちゃったってわけか……」

「Aランクにもピンからキリまでありますから」

「そうか……じゃあ、オレはどっちかその身体で試して見ろ!!」

 アストが手のひらを広げると、指の先に水の球が生成された!それを……。

「散青雨!!」


ババババババババババババババッ!!


 腕を勢いよく振って発射する!水球は空中でさらに細かく分裂し、マウリッツの視界全体を覆い尽くした!回避は不可能!……する必要もないが。


ツルッ!!


「くっ!?」

「無駄ですよ」

 無数の水の弾丸は全て曲面になっているマウリッツの表面を滑り、ダメージを一切与えることなく明後日の方向へと飛んで行った。

「完全な球体はあらゆる攻撃を受け流す。ましてやそんなしょうもない攻撃が効くはずがない」

「なんだと!?」

「攻撃とは……こういうものを言うんです!」

 マウリッツが手を開くと、そこに光が収束していった。そして……。


ビシュウン!!


 それを一筋の光線として放った!

「アスト!俺の後ろに!」

「はい!」

 言われた通り青龍は紅き竜の後ろに隠れる!

「エネルギーフィールド!!」

 すると、ナナシガリュウは前方に光の膜を展開!それでマウリッツのビームを……。


バシュウゥゥゥゥン!!


 弾き飛ばした!

「やりますね」

「まだまだ!」

 さらに紅き竜は右手にグローブを装着し、今しがた自分がやられたように手のひらを完璧なる球体に向けた。

「エレクトリックウェブ!」

 電気の網が発射される!それはマウリッツの全身を包み込もうとするが……。

「また網ですか……芸のない!!」

 マウリッツはその場で回転して、まとわりついてくる網を一瞬で引き裂いた!

「ちっ!アスト!」

「はい!」

 同じ竜の血が流れているからか、先の戦いで通じ合うものがあったのか、二人にはその短い言葉だけで十分だった。左右に分かれ、マウリッツとの間合いを測る。

「ガリュウマシンガン!」

「涙閃砲!」


バババババババババババッ!ビシュ!


 ナナシガリュウは召喚した機関銃から数え切れないほどの、覚醒アストは金色の両目から圧縮した水の弾丸を撃ち出した!しかし……。

「残念」

 これまたマウリッツには通じない。

「だったら!」

 紅き竜は再びグローブを装着、今度は手のひらに光の球体を作り出す!

「これも禁止されてるんだけど、四の五の言ってらんねぇ!」

 光の球、エネルギーボムを投げつけた!


ドゴオォォォォォォォォォォン!!


 それはマウリッツに着弾する少し前に爆発した!下手に当てると滑って、補修工事中のコロシアムに不必要にダメージを与えた挙げ句、逆に本来のターゲットであるボール野郎には何の影響もないという状況を嫌がったのだ。まぁ、小細工を弄したところで……だが。

「水で濡れた私を気遣って暖めてくれたのか?」

 腕を横に振り、風圧で爆炎と煙を吹き飛ばす。体表は未だピカピカのまま、ただ若干赤熱化しているか。

「んじゃ、お次は鉄拳制裁だ!アスト!」

「はい!」

 紅竜が一回り大きくなった手を握ると、甲からエネルギーを噴射して、拳を加速させる!それに合わせて青龍も最短距離、最大パワーのストレートを放つ!

「オラァ!!」

「でやぁっ!!」


ツルッ!ツルン!!


「フッ」

 マウリッツは蔑み、嘲る……自分の身体の上を通り過ぎていくダブルドラゴンを。

 しかし、それはナナシガリュウは織り込み済み。急旋回で背後を取る!

「ハルバード!!」

 グローブと入れ替わりに刃のついたポールウェポンを召喚!地面に潜り込ませたかと思いきや、そのまま斬り上げる!


スカッ……


「ちっ!」

 けれども、これはうまいことターンをしながら回避されてしまう。

「狙いは良かったぞ、レッドドラゴン。想像通り、足裏には攻撃が通じるよ。そこまで球体だったら、立っていられないからね。だからこそいつも注意を払っている!」

 マウリッツの口がガバッと開くと、先ほどの手のひら以上のエネルギーが収束する。

「吹き飛べ!英雄よ!」

「ナナシさん!頭を!」

「おう!」


ババババババババババババババッ!!


 紅き竜が頭を下げると、その背後にいた青い龍が再度手を振り、水滴の散弾を放つ!

「猪口才な」

 だが、あっさりマウリッツは腕でガード!

「水遊びなら他所でやりなさいな!!」


ドシュウゥゥゥゥゥッ!!


「うおっと!?」

「――ッ!?」

 カウンターで放たれた口からのビームをナナシは完璧に躱すことはできたが、アストは僅かに腕に掠らせてしまう。

「アスト!」

「問題ないです!」

「ならばよし!一旦距離を取って、様子を見るぞ!ガリュウマグナム!!」

「はい!涙閃砲!!」


バン!バン!ビシュッ!!


 二匹のドラゴンはマウリッツを中心に円運動を取りながら、二丁拳銃と目からの高圧水流で絶え間なく牽制を続けた。けれど、どれだけやってもやはり完璧なる球体を攻略することはできない。

(ふむ……全く攻撃が通じていないというのに、代名詞たる太陽の弾丸を使わないとは、どういうことですかね……)

 攻撃をその神から与えられたパーフェクトボディーで受け流しながら、マウリッツはナナシガリュウを目で追い、彼が頑なにこの状況を打破できるはずの必殺技を使わない理由に考えを巡らせていた。

(ヴィンチーマとの契約か、先のブルードラゴンとの戦いでトラブルを抱えたか、それともまさか私を生け捕りにするために手加減しているのか……答えは出ませんね)

 正解を出すことを諦めたマウリッツは目線を青い龍に移した。

(レッドドラゴンの警戒は怠らずに……まずは未熟なブルードラゴンを揺さぶってみますか)

 紅き竜に背を向け、青い龍に身体を向けた。

「確か……アスト君と言ったね?」

「戦闘中になんだ、マウリッツ・モランデル!?」

「邪険にしないでおくれよ」

「するさ!テロリストとは、そうされても文句は言えない存在だ!」

「ひどい言われ様だな。だが、君は誤解している」

「……何?」

「ディオ教はいいところだよ、我らエヴォリストにとってはね」

「――ッ!?」

「アスト!耳を貸すな!!」

「邪魔をしないでくれるかな」


ビシュウン!ビシュウン!ビシュウン!!


「ちっ!?」

「ナナシさん!?」

 アストの動揺を察知したナナシが声をかけたが、マウリッツの妨害によって遠ざけられてしまう。

「あんた……!!」

「落ち着きたまえ。君の将来のためにも私の話に耳を傾けるんだ」

「オレの将来にあんたの言葉は必要ない!」

「いいや!ある!!」

「!!?」

「君の心を理解できるのは、同じエヴォリストである私だけだ!」

「オレの心……」

「君はその強大な力の使い道に迷っているね?」

「――なっ!?」

 心の奥を見透かされ、さらに動揺が激しくなる。その姿を見て、マウリッツは内心ほくそ笑む。

「私もそうだった……この力は何のために、何に使えばいいのかずっと思い悩んでいた!その悩みから解放してくれたのが、ディオ教だ!!」

「ディオ教……」

「そうだ!彼らは私の力を欲してくれた!私がオリジンズを傷つける者を返り討ちにしたら、褒め称えてくれた!」

「地位や名誉のため……お前はそんなことのために力を使うのか!」

「そうだ!人を超えた力を持つ我らを無能力の下民は崇め奉るべきなのだ!!」

「なんて傲慢な奴!!力とはもっと……世のため、人のために使うべきだろ!!」

 アストは激昂した!こんな奴の話を聞いて損したと、自分とこいつは同じエヴォリストでもまったく別物だと思った。思ったが……。

「傲慢だと?今、お前が言った世のため、人のためというのも、上から目線で十分傲慢じゃないか?」

「――ッ!?」

「まさか友達のことも、オレがこの力で守ってやらなきゃ……なんて思ってませんよね?そんなの……対等じゃない……!!」

「……あっ」

 アストの頭に再び商店街で考えていたことが鮮明に甦った。


(この力を使ってもっと世のため、人のためになることをするべきなんじゃないか……!?それが強大な力を得てしまった者の使命……)


(こいつの言った通り、オレはいつの間にか自分を人よりも上の存在になったと思っていたんじゃないか?だとしたら、オレとこいつは同じ穴の狢……)

「お馬鹿さん」

「え?」


ビシュウン!ガクン!


「――うあっ!?」

 アストの着地地点に手のひらビームを撃たれ、穴が開き、それに足を取られ、体勢を崩してしまった。

(しくじった!?)

「まずは一人……!!」

 マウリッツは口からエネルギーをチャージ!そしてすぐさま青い龍に……。

「アスト!」

「ナナシさん!?」

「何!?」

 ナナシガリュウが一瞬でアストの下へ!青い龍を突き飛ばす!

「一体どうやって……いや、これはチャンスだ!!」


ドシュウゥゥゥゥゥッ!!


 目の前で起きたことが信じられなかったが、これはこれでと気を取り直したポジティブなマウリッツは口からエネルギー波を発射した!

「……がはっ!?」

 そしてそれは見事に命中!ナナシガリュウの脇腹を大きく抉り取った。

「ナ、ナナシさん!?」

 アストの後悔と罪悪感が悲痛な声となって溢れ出た……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ