共同戦線
「こんな目立つところを進んで……本当に大丈夫なんですか……?」
マサヨはキョロキョロと挙動不審に周りを見渡しながら、不安そうに呟いた。
「こんなところだから大丈夫なんですよ」
一方、マウリッツは自信満々に人混みの方、人混みの方へと歩いて行く。
「大丈夫と言いますが、ワタシを追って来たのは、あのナナシガリュウですよ」
「もちろん彼の情報は知っていますよ。本部で危険度Aランクに指定されていましたからね」
「Aランク……!!」
思わずマサヨは生唾を飲み込んだ。
「でしたら、もっと慎重に……!」
「いえいえ、彼相手にはこれでいいんです。情報通りの性格なら、一般人を巻き込むような真似は決してしませんから」
「かもしれませんが……」
「こちらの動きが把握されているなら、何か対策を打ってくると?」
「ええ……」
「それこそ……望むところです……!」
「……えっ?」
理解が追い付かずに間抜けな声を上げるマサヨに対して、マウリッツは遊ぶ約束をした友達を待っているような子供のように楽しそうに微笑んだ。
「もしかしてマウリッツ様は彼と事を構えるおつもりで……?」
「はい。今、ディオ教内部はテロなどの暴力行為を良しとしない穏健派と、私のように暴れたくて仕方ない過激派に分かれ、揉めに揉めています」
「それは存じていますが……」
「私がナナシガリュウを打ち倒せば、穏健派も少しは大人しくなるでしょう」
「……マウリッツ様の意図はわかりました。そしてそれだけ言うのなら勝算はおありで?」
「ええ。正直なところ彼とはあまり相性的には良くないのですが……」
「えっ!?」
マウリッツの言葉でなんとなく感じていた不安が明確なものに変わり、マサヨの顔は青ざめた。
「おやおや、怖がらせてしまいましたか?」
「はい……かなり……」
「安心してください。相性云々というのは、彼がフルスペックで戦えた場合……先ほど言ったように、彼はこんな街中では力を十全に発揮できません。ましてやヴィンチーマでは彼は“お客様”ですから、いつも以上の制約を受けているはず」
マウリッツの推測は的中していた。そのためにナナシはアスト達と膝を突き合わせて作戦会議をしなくてはいけなかったのだ。
「ですから、あなたは観光を楽しんでいればいいのですよ。完璧な私が、不完全な彼に負けることなどありません」
「マウリッツ様がそこまで言うなら……」
マサヨはホッと胸を撫で下ろした。それを……。
「完全にオレ達のこと舐めてますね」
「あぁ、腹立つな」
建物の上からアストとナナシが見下ろしていた。
「ナナシさんの言う通り、全然警戒していない」
「自分のことを無敵だと思っているからな。警戒なんてする必要ないんだろ。んで、何らかの手段でこちらを完全に撒く自信もある」
「なら今、ここから狙撃したら?」
「さすがにそれが通じるなら、とっくに誰かに殺られているさ。あくまで普段は俺達より鈍感だが、命の危機にはきちんと反応するはずだ」
「ですよね……でも逆に言えば……」
「殺意のない、捕らえる行為にはワンテンポ判断が遅れる……はず」
「さっきから“はず”ばっかりですね」
「そりゃあ、俺自身は奴と会話もしたことありませんから」
「そう言えばオレも……」
「勘と希望的観測で行くしかねぇよな」
「ですね」
二人は楽しげに微笑み合った……と思ったら、一瞬で真剣な表情に変わり、マウリッツ達を強い眼差しで見つめる。
「作戦が失敗したら、一般人にも危険が迫ることになる」
「その時はオレが身体を張って守ります」
「あぁ、その覚悟がなければ、こんな博打を打っちゃいけない」
「……きっとうまく行きますよ」
「そうだな……なるようになるだ!」
ナナシは右手首の赤い勾玉を掲げ、アストは身体に力を込めた!
「かみ砕け!ナナシガリュウ!」
「アウェイク!オレ!!」
二人は戦闘形態に移行する!赤と青のドラゴン、正面からにらみ合い激闘を繰り広げた二匹は、今同じ方向を向いて、並び立った!
「さぁ、ここからはノンストップだ」
「頼むよウォル、メグミ……!!」
「アスト達は準備できたみたいだね」
「あの二人が活躍できるかはおれ達次第か……」
ウォルとメグミはマウリッツの進行方向にある建物の物陰に隠れていた。あるものを持って……。
「ベニ、タイミングは任せるよ」
「はい。周囲の監視カメラとリンクしているので、バッチリです」
小型のドラゴンメカは空中で主人と同じ黄色の目を光らせた。
「さすが花山重工の最新鋭マシン!いつか落ち着いて話を聞きたいね」
「ええ、ワタクシもそれを望みます」
「そのためにも……」
「神凪の……いえ世界の脅威を排除します」
話している間にもマウリッツ達は近づいてくる。二人は文字通り手に汗握り、緊張で息が荒くなる。
「カウント……5……4……」
「いよいよか……!」
「3……2……」
「ふぅ……」
「1…………ゼロ」
「イクライザー!!」
「ゴウサディン・ナイティン!!」
「「!!?」」
マウリッツの視界に少し前に対峙したばかりの二体の機械鎧が現れる!
「またあなた達ですか……」
やれやれとがっかりをしたような表情を浮かべながら、マウリッツはガードを固め、変身を始める!
「メグミ!」
「おう!!」
「何!?」
二体の空中で軌道を変更!左右に分かれる!手に持っていた網を広げるためだ!
「てえぃ!!」
「おりゃ!!」
「ちっ!?」
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
ウォル達はそのまま網でマウリッツを包み込む!ここでようやく異常事態に気づいた一般人が声を上げた!
「ごめんなさいね!」
「これもあんた達を守るためなんだよ!すぐに退散するから勘弁な!」
「――ぐっ!?」
二体のピースプレイヤーは謝罪の言葉を述べながら、網で捕らえたマウリッツをアスト達のいる建物に向かって全速力で運んでいく!
「マウリッツ様!?」
「おっと、あなたはこちらに」
「くっ!?」
「皆さん落ち着いて、私達は警察です!心配要りませんよ」
置いてきぼりのマサヨはヴィンチーマの警察官が確保!さらに周りの観光客を落ち着かせる!
「アスト!」
「ナナシさん!」
「「おう!!」」
その間にウォル達は二匹のドラゴンと合流!網を渡すと……。
「ベニ!」
「方角、誤差修正……ディスプレイに映します」
ナナシガリュウのマスク裏のディスプレイに矢印が映し出される!
「アスト!お前は全力で俺に……」
「合わせます!」
青い龍は赤い竜の一挙一動を敏感に感じ取り、動きをシンクロさせる!網をブンブンと振り回し、高速で回転する!そして……。
「でぇい!」
「やあぁぁぁぁぁっ!!」
ダブルドラゴンはフルパワーで網ごとマウリッツを投げ飛ばした!
「よし!いい感じだ!」
「ウォル、メグミ!」
「あぁ、ぼく達のことは気にせず……」
「思い切り暴れて来い!!」
「おう!!」
覚醒アストとナナシガリュウは建物の屋根を全速で飛び移り、マウリッツの飛んで行った方向に向かった……ヴィンチーマで一番の観光名所なのに今は補修工事で人の立ち入りが禁止されているコロシアムの方に……。
ドゴオォォォォォォォォォォン!!
まるで隕石が落下したようにコロシアム全体が揺れ、中心から土煙が立ち上る!普通の人間なら、さらに肉片と血飛沫を撒き散らすことになるのだが……。
「ふぅ……私としたことがまんまとやられましたね」
マウリッツは無事だった。空中で変身を完了し、完璧なる球体の異名に相応しい姿になった彼には傷一つついていなかった。
「それにしてもコロシアムですか……これはこれは……」
「粋だろ?」
網を力任せに引きちぎりながら周囲を見渡していると、遅れて赤と青のドラゴンも闘技場に到着!完璧なる球体の前に降り立った。
「ええ……大変素晴らしい……あなた達の最後の場所としてはね」
「残念だけどそうはならない」
「勝つのはオレ達だ……!」




