勘違いドラゴンズ
「……というわけです」
「なるほどね……」
ヴィンチーマにあるとあるビルの一室で小さな相棒から報告を受けたナナシは椅子に深く腰かけ、自分の愚かさを噛み締めながら、腕を組み、天を仰いだ。
「あの……その……なんだ……てっきりお前のことディオ教の支部長だと……」
顔を下げると、バツが悪そうに頬を掻きながら、テーブルを挟んで対面に座っているアスト達を順番に見回した。そして……。
「悪かったな、ごめん」
頭を深々と下げた。
「顔を上げてください!オレ達こそ勝手にナナシさんのことを反エヴォリストの悪い奴だと思って、失礼なことを……すいませんでした!」
「「でした!」」
アスト達も立ち上がると直角に腰を曲げて謝罪の意志を示した。それに対し……。
「よし!お互い謝ったからな!これでこの話は終わり!」
「「「切り替え早っ!!」」」
ナナシは胸の前で手のひらをパンと叩くと、湿っぽい話を終わらせようとした。けれど自責の念に苛まれているアスト達はそれに納得できないので食い下がる。
「そんな感じでいいんですか?」
「いいも何もここでぐちぐち言ってても仕方ないだろ」
「それはそうかもですしれないですけど……」
「俺の好きな言葉に“終わり良ければ全て良し”という言葉がある。知ってるか?」
「もちろん……」
「最低限の教育は受けてますから」
「ぼくは天才ですから」
「その言葉が一体……?」
「そう言って今までのあれやこれやが笑い話にできるようにすればいいだけさ、俺とお前達で」
「ナナシさん……」
三人を苦しめていた罪悪感が少しだけ軽くなった気がした。正確には軽くするために戦う決意がそれを上から塗りつぶした。
「そうだな、おれ達にできるのは落とし前をつけるためにやれることをやるだけだよな」
「あぁ、あの傲慢なボール野郎の好きにはさせない」
「元気が出たのはいいし、俺のことはもう気にしないでいいが、ベッローザ隊には謝っておけよ。ヴィンチーマ警察の特殊部隊で、快く協力を申し出てくれたいい奴らだから」
「あれこそ結果オーライだったかもしれませんがね。マウリッツと遭遇していたら、彼らの命はなかったかもしれません」
「辛辣だな……」
「冷静に分析した結果です」
AIの非情な結論に、ナナシは苦笑いを浮かべた。
「許してもらうにしても、叱られるにしても全て終わってから……ですね」
「おう!そのために作戦会議だ!」
「「「はい!」」」
返事をすると三人は再び椅子に腰をかけた。
「まずは改めて……神凪の部隊ネクサスに所属している『ナナシ・タイラン』だ」
「やっぱりあのナナシガリュウは本物だったんだ……」
ウォルはメガネの奥の目をキラキラと輝かせた。
「有名なのか?オレは世俗に疎いから……」
「まぁ、その界隈ではね。っていうかアスト、君は知っておくべきだと思うけどね」
「ん?」
幼なじみの言葉が理解できずにアストは首を傾げた。
「タイランって神凪の名門で、家紋は“赤い竜”だよ」
「なっ!?それって……!?」
「青い龍が家紋の君の家、ムスタベ……多分、アストとナナシさんってめちゃくちゃ遠いけど同じ血筋なんだと思うよ」
「マジか……」
アストは改めてナナシの顔を見ると、どこか自分や兄リオンに似ているように感じた。
「なんか……知らなくてすいません……」
「まぁ、それを言ったら俺も知らなかったからな、お互い様だ」
「は、はぁ……」
「それよりもマサヨのことだ。ベニ」
「はい」
テーブルに着陸したベニは目から光を放ち、空中にディスプレイを投影する。そこにはマサヨの顔が映し出されていた。
「マサヨ・マツナガは我ら神凪のAOF、対オリジンズ部隊の後方支援、情報管理をしていました」
「AOFって人に害を為すオリジンズの駆除だけじゃなく、遠征してオリジンズの素材を採ってくる部隊だよな?」
「はい」
「オリジンズを守りたいディオ教と真逆じゃねぇか!!?……って、だからか」
勝手に混乱したメグミは勝手に答えを出して、納得した。
「はい。最初からそのつもりで入り込んだのか、目をつけられ、まんまと唆されたのかは判断できませんけど、マサヨはAOFの機密情報を盗み出しました、ディオ教に渡すために」
「きっとろくなことには使わないよね」
「AOF所属メンバーもといその家族に危害が及ぶ可能性があります」
「本当、オレ達余計なことをしてしまったんだな……」
自分達の過ちを再認識し、アスト達は肩を落とした。
「機密情報はネットを介して送信したり、コピーを試みると消滅する仕様になっています。まだパスワードも解読できてないみたいですし、今の段階で取り返せれば、ナナシ様的に言うと“終わり良ければ全て良し”です」
「んで、そのために俺が派遣されたわけ。暇してたからな」
ナナシは自分のあまりの運の無さに自嘲した。
「でも、凄いですよ!故郷のために、遥々こんなところまで!正義のヒーローみたいじゃないですか!」
「よしてくれ、メグミ。俺はそんな大層なもんじゃないよ」
「いや、けど……」
「俺は世界とか正義とかのために戦える立派な人間じゃない。けれど目の前で困っている人がいたら、助けたいとは思う。そしてそれができる力を幸か不幸か持ってしまった……それだけさ」
「――ッ!?」
ナナシの言葉はアストの心に深く突き刺さり、彼の悩みを強く揺さぶった。
(この力を使ってもっと世のため、人のためになることをするべきなんじゃないか……!?それが強大な力を得てしまった者の使命……)
(オレはもしかして……)
「……ナナシ様、ヴィンチーマからマサヨとマウリッツの情報が」
「!!?」
深い思考の迷路に迷い込みそうになったアストだったが、電子音声の淡々とした報告が彼を現実に引き戻した。
「なんだ?」
「監視カメラの映像です」
「映してくれ」
「承知しました」
ベニは命じられた通り、空中に浮かぶディスプレイの映像を今しがた送られてきたものに切り替える。それは人混みの中を悠々と歩くマウリッツとマサヨであった。
「やっぱり……そう来るか」
ナナシはその映像を見た瞬間、困ったことになったと眉間にシワを寄せた。
「あの……見つけられたから良かったんでは?」
「発見できても、こんな場所では俺の、ナナシガリュウの必殺技を撃てない」
「必殺技?」
「“太陽の弾丸”という技です。ガリュウマグナムから広範囲、高威力のエネルギーを発射します」
「それならマウリッツの全身を飲み込んで、倒せるかも!」
「あいつもその可能性があると感じたから、こうして人間を盾にするような真似をしてんだ……!」
「あぁ……そういうこと……」
「セコい野郎だよ、まったく……!」
ナナシはギリリと悔しさから歯を食いしばった。
「ナナシ様、ヴィンチーマに入国する際に歴史ある建造物を守るためにサンバレを始め、一部の武装の使用を禁じられたのをお忘れですか?」
「もちろん覚えているよ。その上でいざという時に破る覚悟をしていただけさ」
「あなたという人は……」
ベニはため息をついた……ように見えるジェスチャーをした。
「ですけど、その覚悟もこれで……」
「あぁ、意味なしだ。お前も切り札と呼べる技があるんだろ?」
「はい、龍輪刃という技です。殺傷能力が高いので、使いたくないのですが……」
「この人混みで使ったら、どうなる?」
「……考えたくもありませんよ」
脳裏に浮かんでしまった阿鼻叫喚の光景に、アストは目眩がした。
「こうなったら、あいつらが人のいないところまで行くのを願うしかないんですかね?」
「普通はそんな立ち回りはしないわな」
「そもそもヴィンチーマは観光地ですし、人のいないところなんて早々……」
「一つだけありますよ」
「……何?」
皆の視線がウォルに集中する。それに気をよくしたのか、メガネを光らせ、ニッと口角を上げる。
「ウォル……どこだ、そこは?」
「いやいやナナシさんだって知っているでしょ?ヴィンチーマと言ったらあ・そ・こ。戦うにぴったり!というか、戦うための場所ですし」
「……なるほど」
ウォルの考えを理解すると、ナナシの口角も自然と上がった。
「んじゃ、次はそこにどう奴らを誘き寄せるかだな」
「いいですか?」
「いいですよ、アスト君」
「オレを捕まえた時のようにすればいいんじゃないですか?覚醒形態になる前、変身が完了する間なら市販のものでもどうにかなるかと」
「んん……それでそのままか?」
「そのままです」
「……決まりだな」
ナナシは膝に手を置くと、勢いよく立ち上がった。
「それじゃあ赤と青の勘違いドラゴンズの共同戦線といきますか?」
「はい!自らの過ちは、オレ自身が正す!」
アストも立ち上がり、二匹の竜がヴィンチーマの地に今、猛々しく並び立った。
「……何言ってるのかおれ全然、理解できてないんだけど……」
「道すがら話すから、黙ってて」
「いい感じでしたのに……締まりませんね」




